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第九章:電話〜すれ違い

僕は今日は学校の実地学生研修の日だった。

「……浅見くんちゃんと聞いてますか?!」

やっぱり人の話を聞くのは苦手だ。それに名字で呼ばれるのはもっと苦手だ。研修中は覚えることも山積みで本当に大変だ。

「じゃあ少し休憩を入れましょう。」

研修担当教諭の斑目先生は35歳の独身男。この仕事をしていると結婚なんかしてらんないと以前言っていた。休憩室で缶コーヒーを飲んでいるとポケットに入っている携帯電話が震えた。折り畳みの携帯を開き画面を見てみると

『着信中 千葉先生』


と表示されていた。なんだろうと思い、徐に電話に出てみた。

「はい、もしもし。」

すると聞こえてきたのは紛れもなく千葉先生の声だった。


「久しぶりだね太一くん!元気?」


丁度休憩中だったこともあり少しだけ近況報告をした。


「それでね太一くん。今、舞ちゃんのお母さんから電話があって…舞ちゃんが太一くんに話があるからって太一くんの番号教えてって言われたんだ。」



僕はびっくりだった。いきなりすぎだった。そしてさらにその続きを聞いた。

「それで教えたんだけどさ、きっとそのうち電話かかってくると思うよ。」

僕は戸惑っていた。

「でも…」

僕の言葉を振り払うように先生は言った。

「だから今度こそ素直に舞ちゃんに自分の気持ち伝えるんだよ。」


そう言うと仕事戻るからと言って電話を切った。突然のことでよく状況が把握できなかった。

「舞ちゃんが話したいこと…?」


直接さよならを言われるのかな。僕には皆目、検討がつかなかった。


「はいっ!じゃあ研修生は集まってくださーい!」


斑目先生の声が聞こえた。それは講義に戻ることを意味した。頭が混乱したままだ。

「では、次は介護者の方を実際に乗せてみて、車椅子の研修に移りましょう。」


この研修は実際にどのように動かしたり自分が動くのかを教えてもらう基礎講習だった。

「まぁまず乗せるときは………。」


これも将来のためならと細かいところまでメモしていきながら聞いた。15分程講習したあと、

「そして車椅子では絶対にしてはいけないことがあります。」


しっかりメモの準備をして聞く耳を立てた。

「一つは目を離してしまうこと。そしてもう一つはその場から離れてしまうことです。」


うん…?どっかで聞いたことがあった。

「体の不自由な方はもちろん、目の不自由な方の時は特に、その場から離れては絶対いけません。私達は介護者の目となるわけですから。」


懐かしい響きだった。というよりあの水族館での出来事が頭を一瞬でいっぱいにした。すると突然、僕の携帯がまた震えだした。

「誰ですか?研修中は電源は切っといてくださいよ!」

急な出来事だったために僕は慌ててポケットの中に携帯を入れたまま電源を切った。

「他にも携帯持ってきてるのはしっかり電源切っといてくださいよ!」



僕を含めた研修生全員が返事をし、何事もなかったかのように斑目先生が講義を再開した。

「まあとにかくどんな状況下においても離れてしまうのはよっぽどのことがない限りしてはいけませんよ。」

沈黙の中、メモをとるペンの音が響いた。



「はいっ!じゃあ今日の研修はこれで終わりです。明日も朝から研修講義ですのでしっかり勉強しといて下さい。」

僕と他の生徒が返事をし、研修は終わった。

「なあ太一。今日バイトないなら飲みに行こうぜ!」

声をかけてきたのはこの学校で初めて出来た友達の安田だった。

「たまには行こうかな。」

そして僕たちは学校の最寄りの駅前の居酒屋へ入った。


席につくや否やいきなり安田は口を開いた。

「あのさあ、今度短大生と合コンするんだけど来るか?」


それは女好きな安田の合コンのお誘いだった。


「合コンかぁ…俺そういうの苦手だしいいや。」


なぜだろう。前の僕ならきっと真っ先に食いついてた話だった。

「なんだそりゃ〜。お前、彼女持ちだったっけ?」


まだ友達になって浅いからか、そんな話もしていなかった。

「いないよ。好きな人はいるけど。見る?」


そう言うと僕は携帯でさりげなく撮った彼女の写真を見せたくて、ズボンのポケットに入れっ放しだった携帯を取り出した。

「やばいなあ。あん時から電源落としっ放しだ。」


すぐに電源を入れると、

『着信あり 一件』


の文字が出ていた。

「ああ。講義中にかかってきたやつか。」

そう思い着信履歴を見てみるとそこには


『舞ちゃん』


そう表示されていた…

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