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第八章:涙〜本当の気持ち

「舞ー、起きてよーご飯だょ。」


朝とは到底思えない大きな声で起こされた舞は、手すり付きの階段を手馴れたように降りていく。今日は週に一度の検診の日だった。母と朝ご飯を食べていると舞は言った。


「最近、太一くん来ないね。風邪でも引いたのかな。」

母は黙って聞いていた。

「仕事始まって忙しいのかもしれないね。」


舞はそう言うと手探りに目の前の卵焼きを箸で掴んで食べた。あの日以来、母は太一との"決め事"を舞に言えずにいた。

「元気にやってるんじゃないの。早く食べてよ。」


そんな素っ気ない母の態度に舞は何かを察した。

「私が怪我をして帰ってきた日、下で何か話してたよね?何話してたの?」


母にとっては思ってもみない"言える"チャンスが訪れた。


「あの日ね、お母さん太一くんにお父さんのこと話したのよ。」

母は遠回しに話の経緯を話し始めた。


「舞はもう立派な大人よ。そろそろ将来のこと考えなくちゃいけないのよ。」

舞は真剣に聞いていた。


「太一くんには悪いけど…舞のためを思ってね、もう会わないでって言ったわ。」

すると舞は驚いたように言った。

「えっ?それで太一くんは?」


母が答える。


「僕と会うことで舞の障害になるなら会いたくない…って」


舞は下を向きながら言った。


「ねぇ、なんでそれが私のためなの?太一くんは私がつらいときや苦しいときいつも一緒にいてくれたのよ。」


母は悲しそうだ。そして舞の声もどことなく悲しげだった。

「私は太一くんのお陰で成長できたの。これからももっと成長できるって…そう思ってたのに…」


舞の本当の気持ちを母は初めて知った。何よりこの舞から流れる涙がとてもリアルだった。


「私の気持ちどこ行っちゃうの?もうお母さんなんか嫌いっ!」


「舞っ!」


舞は自分の部屋へと入ってしまった。母は自分のしたことが舞を逆に傷つけてしまったことに気付いた。でも母は会うなと言ってしまったために、何もすることが出来なかった。すると母は何か思いついたように傍らの受話器を取り出した。

「はいもしもし、県立西盲学校ですが」


事務の人らしき女の声が聞こえた。


「以前お世話になった藤井舞の母ですが…千葉先生はおりますでしょうか?」

「はい。少々お待ち下さい。」


保留音が流れる中、それを切り裂くように爽やかな声が聞こえた。

「はい千葉です。これは舞ちゃんのお母さん。どうかされました?」

電話の声はやはり少し心配そうだった。

「お久しぶりです。あの…今日、舞の太一くんへの気持ちを知りまして…」


母はさらに続けた。

「やはりあの子には彼の存在が必要なのではないかと…」


それは紛れもなく本心だった。


「そうですか。ほぼ毎日のように太一くんはここへ来て舞ちゃんと会ってましたし、苦楽を共にしてましたからね。」

太一は舞にとってとても大きな存在だった。


「それで…お願いなんですが…」


母は本題へと入る。

「なんでしょう?」

千葉先生が聞くと母が答えた。


「太一くんの携帯番号を教えていただけないでしょうか。」


母の舞に対するせめてもの償いだった。

「いいですよ。舞ちゃんの声聞いたら太一くんも忘れてしまいますよ。番号は…です。」

「ありがとうございます。」


母が感謝を告げ電話を切ると、番号の書いたメモを手に舞の部屋へ向かった。

「舞、ごめんね。太一くんへの気持ちがこんなに強いの知らずに。私の存在以上に太一くんは大きいのね。」

      母は泣きながら言う。


「舞が太一くんと会ってから明るくなって笑顔も増えたものね。私はただその笑顔を無くしてほしくないわ。だから今から会いに行きなさい。」


すると舞はドアノブを捻り母の前で言った。

「お母さん、いいの?でもどうやって…?」


すると母はメモを取り出し、舞を電話の前に連れて、ダイヤルした。


「舞が直接電話しなさい。」


舞は受話器を持ち、そこからは呼び出し音が響いていた…

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