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第三章:弱者〜彼女の言葉

そして日曜日。

僕は駅前にいた。

気持ちは複雑だった。

来なければもう一生逢えないような気がした。

彼女と出逢って以来、色々自分が変わった。

煙草も辞めたしバイトだって始めて真面目になったつもりだ。…ゴホンっゴホンっ。今日は寒いなぁ 今日は外が寒いせいか咳がよく出る。ゴホンゴホンっ 何分かすると向こうの方から盲学校の先生と30代後半くらいの女の人に挟まれて歩く彼女がいた。赤いダッフルコートに白いロングスカートですごく可愛く見えた。すると傍らの女性が話し掛けてきた。

「舞の母でございます。私は最初この話を舞から聞いたときは驚きました。すごく反対したんですが舞が初めて誘われたし行きたいと言うので連れてきました。この子は知っている通り全盲です。色々迷惑かけますが先生も付いてくださると言うので…」


すると先生もそれに続いた。

「太一くん、私が付き添うのは絶対条件だよ。いいね?」

以前この先生と話したときに名札を見た。確か…千葉直樹先生だ。千葉先生の問いにうなづいた僕は彼女の母親と別れ、3人で水族館へ向かった。


水族館までは先生の車で行くことになった。駅から水族館までは30分くらいかかっただろうか。他愛ない話をしながらだったから時間は短く感じたんだ。到着し、二枚分の入場券を買って入ると従業員が話しかけてきた。

「お客様、車椅子ご利用になりますか?」


すると千葉先生は

「お願いします」

と返答した。人数の多い施設では杖は危なく、車椅子の方が安全みたいだ。彼女が座っている間、千葉先生が

「三人で館内回るのは嫌だろ?俺は後ろからついて行くから行きな。ほら押してあげて」


僕は目でありがとうを言った。 車椅子のグリップをギュッと握りしめ、僕たちのデートは始まったんだ。

「私ね、このにおいが好き。このざわついた喜ぶ声も好き」

彼女は目で感じられない分、耳や鼻で感じているんだ。僕には当たり前なこのにおいや音は彼女にとってはかけがえのないものなんだ。親から借りたビデオを撮りながらそう感じた。僕は一つ一つ水槽の前で説明をした。 そして一番行きたかった場所へ彼女を促した。

「舞ちゃんはイルカが好きなんだよね?イルカのところ行こうか?」


僕は車椅子を押しながらビデオを撮り続けた。彼女もなんだか楽しそうに思えた。 でも周りの目は予想以上に冷ややかだったんだ。

「ねぇお母さーん、あの人なんで変なとこばっか見てるのぉ?」

「こらっそんなこと言わないの!お姉さんお病気なんだから…」

「あれ?あの子なんか目線おかしくね?なんで見えないのにここ来てんだ?ハハハ…」

…… 「私、こういうの慣れてるから。障害があることは弱者なんだよね。でもそんなこといちいち気にしてられないし…今日はせっかくここに来てるんだし楽しみたいんだ。」


彼女の言葉一つ一つが心に染みた。僕はこんな子に何を楽しませてあげられるだろう… そんなことばかりが頭をよぎった。

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