第二章:急性緑内障〜指切り
それからの僕は度々、盲学校に通った。盲学校教諭ともなんか知り合いみたいになった。
「太一くんまた来たのかぁ?舞ちゃんがお気に入りかい?」
紹介送れたけど僕は"浅見太一" ありふれててあまり好きじゃない。
「こんちわ。舞ちゃんいますか?気になってなかったら来ないっすよ。今日はちょっと話したいなと思って。」
これが僕と彼女とのファーストコンタクトの日だった。白い杖でゆっくり先生に引き連れられて彼女はやってきた。
「こんにちは、舞です。」
ちょっと高くてか細いけどしっかりした声をしていた。
「こんにちは、前に歌を唄いに来た南高校の…浅見太一ですっ!」
あぁあ、緊張して声うわずっちゃったよ。しかも名前言うの戸惑っちゃったし…。
「この前の…でもなんでいきなり…?」
彼女は驚いた様子で質問してきたんだ。すかさず僕は
「あの舞さん…あぁ藤井さんのあの代表の言葉、あれすごい心動かされたんです。なんて言うか…本人と直接話してみたいっていうか…あの…そのぉ…」
「舞でいいですよ。でもなんか嬉しいです。そうやって言ってもらえて。」
僕はすごく高揚した。他愛ない話をたくさんして、どれくらい話をしたのかわからないくらい話した。それはまるで普通の女の子と話をしているのかのように。でも彼女のこの話で一気に現実へと僕を回帰させた。
「私ね、5歳まで普通に見えていたんです。動物園や水族館が好きでペンギンとかイルカとかキリンとかライオンとか。幼い記憶なんかそんなのばっかりなんです。でもある日猛烈に両目が痛くなって病院行ったら児童急性緑内障だったらしくて。それから1ヶ月くらいで完全に真っ暗になっちゃったんです」
その後もいろいろ話してくれたけど正直あまり覚えてない。緑内障という言葉が頭をぐるぐる回っていた。 気付けば僕は、ただうなづくだけで何を行ったらいいのかわからなくて黙ってしまったんだ。5歳から途切れた少なすぎる映像の記憶。五体満足の僕には到底理解など出来る世界じゃなかった。
それから僕は高校を卒業するまでの二年間、彼女に会いに通い続けた。
盲学校では高校の過程を終えると一時自宅へと帰ることが出来る。南高の卒業式が終わり、みんなとの別れも半端にして僕は、盲学校へと急いだ。卒業式の日にちが一緒ということもあり、僕は彼女と少しデートした。そこで僕は、色々なものがどこに置いてあるのか、どんなものなのかを説明しながら彼女の目となり行動した。その帰り…
「今日はありがとう。でもこんな私に優しくしてくれるのはなんで?」
彼女はやはり障害を持ってることで自分をふさぎ込んでいた。
「舞ちゃんに元気になってほしかったから。笑顔見てると嬉しくなるし。そうだっ!今度、水族館行こうか?俺一つ一つ説明するし!ねっ?」
無理な誘いなのは分かっていた。
「でもお母さんが許さないかも。盲学校の先生も付き添いならいいけれど…」
「じゃあ付き添いで行くって言えば?きっとお母さんも許してくれるよ!」
僕は必死だった。少しでも一緒にいたかった。何より彼女の側にいたかった。
「話してみます」
「じゃあ今度の日曜日駅前にしよう!もし舞ちゃん来なかったら、それはダメだったってことで諦めるからさ」
「分かりました」
僕は彼女の小指を自分の小指に絡ませて指切りをして、そして別れたんだ。
家に帰り、僕は親にビデオを借りた。彼女には見れないかも知れないけど撮りたかった。思い出を残したかったんだ。日曜日が楽しみだった。