第十三章:告知〜闇道
僕は今、東京の大きな大学病院に来ている。学校の健康診断で精密検査を受けるよう通達されたからだ。学校からX線写真を受け取り、今は病院の待合室にいる。私服から検査着に着替えさせられ、数々の検査を受けた。
「大袈裟だなぁ…」
僕はそう思っていた。そして全ての検査が終了し、帰宅した。家に帰ると珍しく両親が揃ってどこかへ出かける準備をしていた。
「ただいま。どっか行くの?」
何気なく母に聞いてみた。
「今、大学病院から電話があってご両親だけで来てくれって。なんだろうねぇ。」
僕はその時そのことがどんな状況なのかが全く理解できなかった。
夜になり両親が家に帰ってきた。
「おかえり、病院からなんか言われた?」
僕のなんともない言葉に父は過剰な反応を見せた。
「んっ?ぁぁ…なんでもなかったよ。それより飯買ってきたから食えな。」
僕はその反応に少し違和感があったが、あまり気にしなかった。
そして翌日、再び病院から来るようにと言われ今度は両親と共に向かった。両親とどこかへ出かけるのは何年もなかったから戸惑った。病院に着くと、すぐに40代くらいの先生が会議室へと僕らを通した。名札には
「後藤」
と書いてあった。
「太一くん、こんにちは。昨日の診断結果を伝えますね。」
優しそうな声をしている。僕は黙って頷き、先生はX線写真を貼り付けて書類を机に無造作に置いた。
「太一くん、この肺の部分見てくれるかな?」
そう言われ、僕は目をそこへ移した。
「ここ…白い影みたいなのが斑点みたくなってるよね。これ腫瘍なんだよね。」
僕は何を言っているのか理解ができなかった。戸惑って両親の方に目をやると二人とも何も言わずに頷いた。
「太一くん、一応すぐに入院しなくちゃいけないね。」
僕は訳がわからなくて思わず聞いた。
「あの…これはなんて病気なんですか?」
聞いた瞬間に先生は血相を変えて行った。
「心して聞いてもらえるかな?」
僕は頷き心して聞いた。
「昨日、私も検査後すぐ調べてみたんだけど…これは扁平上皮のガン…つまり肺ガンです。」
僕は言葉を失った。その後、何を言われたのかさえわらないほどショックだった。
「でもこれは手術で取りきれるかも知れない。だから入院しよう。」
僕は従うしかなかった。その時僕は安田のある言葉を思い出した。
「介護する人間が自分の体調が悪いとなんかなぁ。」
その通りだ。
僕は少しずつ明るくなってきた自分の道が一瞬にして暗い闇になっていくのがわかった。もう僕は何もできない…