第十一章:余韻
僕の胸はすごくスッキリしていた。お互いの気持ちが通じ合ったことは僕にとっては信じられないくらいだった。僕は彼女を必要としているんだ。それに気付いたのは、やはり会えなくなってすぐだろうか。彼女も電話で同じことを話してくれた。
「あのね、私が太一くんを必要だなって思った時ね、…きっと意外すぎて驚くよ。」
少し笑いながら話す彼女の声はとても楽しそうだった。
「それはね、水族館で私が車椅子から落ちたときなんだ。」
僕は驚いた。僕の中では二人の思い出の中では一番いやな思い出だった。でも彼女にとってはそれは一番といってもいいほど印象深い思い出だったんだ。
「あのとき、太一くんにいてくれたらきっとこんな風にはならなかっただろうな、って思えてすごく大切に思えたんだ。」
嬉しかった。今までその出来事はいやなことでしかなかったのに、それが彼女の言葉で変わった気がする。電話を切ってもう数時間も経つのに眠れないし、その電話のことを何回も何回も繰り返し思い返していた。そして僕はふと気付いた。
「あれ。そういえば明日学校じゃん!」
そう思い、時計を見てみると針は午前三時を指していた。
「やべっ。早く寝なきゃ。」
そして僕は少し幸せな気分で睡眠した。
翌朝、起床すると眠い目を擦りながら、学校へと向かった。学校へ到着するといきなり安田が現れこう言った。
「おはよっ。昨日どうした?好きな子か?」
朝は苦手らしくあまりテンションは高くない。
「おはよう。あぁ、付き合ったよ。」
そう言うと安田は驚いた様子で聞いてきた。
「まじっ?!どんな子?この学校か?」
一気に安田のテンションは上がった。
「いや、その子失明して目見えない子なんだ。」
安田はさっきまでのノリが嘘のように問いただした。
「介護者かよ。まじかよ。やめとけって。自分も病気になるぞ。」
これは安田なりの冗談だった。動揺を隠すためのいつもの手段だった。
「うるせーよ。そんなこと俺らが言ったらだめだろうよ。」
そう言って二人で教室へと入った。すると教室の壁に一枚の張り紙が貼ってあった。
『定期健康診断のお知らせ』
と書いてあった。そこには期日が明日までとあった。
「おい、太一。今日、健康診断受けようぜ。なんか強制らしいし。」
安田とは珍しく同意見だった。
「いいよ。まぁどうせ何も異常ないだろうし。」
そして今日の研修の場所へと移動し、介護の講義を受けた。彼女と今後、心地よく付き合っていくためにも今日の議題には目を見張るものがあった。
『盲の介護法』
僕はいつもより真剣に話を聞いた。話に入り込むと時間はあっという間に過ぎる。昼は次の講義まで二時間ほど空いていたので昼ご飯を食べたあと早速、安田と共に健康診断を受けに行った。
この健康診断がのちに僕と彼女の歯車を狂わすことをこのときの僕はまだ知らなかった。




