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第十章:告白〜月日

僕の気持ちはまた急速に回りだしていた。


その日、安田に事情を説明して帰らせてもらった。家に着き、改めて自分がやってしまったことに苛立ちを感じた。彼女が一人では電話できないこと、勇気を振り絞ってかけてきてくれたこと、それが彼女にとってどれだけ大変だったのか一番よく知っているはずなのに…。

もう戸惑う必要なんてなかった。携帯の着信履歴の画面を出し、通話ボタンを押した。


「…はい。藤井でございます。」


出たのはもちろん彼女の母親だった。


「あの…太一です。昼頃に電話もらって…」


僕は急に気が引けてしまった。


「そうですか。こんばんは。今、舞と変わりますね。」


そう言うと電話が保留音になった。僕は胸がはちきれそうになっていた。きっと直接さよならを告げられるのだろうか。マイナスの思考が包み込む。すると保留音が聞き慣れた彼女の声に切り替わった。


「もしもし…舞です。久しぶりだね。」


初めて会ったときに聞いた代表の挨拶。その声のままだった。


「久しぶり…だね。ごめんね、電話出れなくて。」


僕は心なしか緊張していた。


「ううん。いいんだ。仕事だよね?」


僕は思った。そういえば進路の話をあまり詳しく話してなかったなと。彼女は僕はもう就職しているんだと勘違いしていたんだ。


「そういえばあまり話してなかったよね、進路のこと。僕今、養介護の専門学校通ってるんだ。」


彼女を驚かせようとずっと黙っていた。言うチャンスがなくなって会えなくなったから言えずにいたんだ。


「そっか。急に電話してごめんね。」


彼女は謝ってきた。何故だろう。僕の中ではさよならを言われる準備も覚悟も出来ていた。


「大丈夫だょ。それで…話って何かな?」


少し冷たく言ってしまった。でも次の彼女の言葉に驚かされたんだ。


「あのね…今日お母さんから水族館の夜のこと聞いたよ。私だけ何も知らなくて。私…太一くんに会いたかったんだよ。」


僕は心臓が口から出てしまいそうなくらいに言葉を失っていた。


「私にはね、太一くんがいてくれないとだめなの。もっと一緒に成長したい…。」


彼女の精一杯の言葉を僕はしっかり聞いていた。


「今日、お母さんと話して気付いたの。私…太一くんが好きなの。」


電話の向こう側の彼女の声は泣いていた。僕は今言える自分の気持ち全てを言おうと思った。


「ありがとう。てっきりさよなら言われるのかと思ったよ。」


電話で告白なんてしたことがなかったから声が震えていた。

「僕は、舞ちゃんと出会って、自分を変えることが出来たんだ。」


一つ一つ言葉を選んだ。自分の本当の気持ちを伝えたかった。


「これからもお互いがそうでありたいんだ。ここずっと会えなくて気付いたんだ。僕も舞ちゃん好きなんだなって。」


何年間もずっと言えなかったこの言葉がこんなにも簡単に言えた。言った瞬間に何かがスッと肩から落ちていった気がした。


「太一くん…これからも会ってくれますか?」



泣きながら聞いてきた彼女に僕は、


「もちろんっ。僕で良ければ。」


僕は幸せだった。二人が同じ気持ちだったこと、それ以上に本当に好きな人に

「好き」

と言えたこと。僕にとって人生で一番幸せで嬉しい日になっただろう。これから二人で共に成長していきたい。そう心の底から思った。出会って三年以上の月日がやっと二人を繋いでくれたんだ。

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