↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

デジタル怪談

ノイズキャンセリング

作者: 九十九朔
掲載日:2026/08/22

 深夜、川村はワイヤレスイヤホンをつけたまま、友人の岸田とオンライン通話をしていた。近況を話すだけの、いつもの通話だった。


 イヤホンのノイズキャンセリング機能は優秀で、周囲の生活音をほとんど拾わない。岸田の声だけが、はっきりと耳の奥に届いていた。


 通話の途中、岸田の声に、わずかな違和感があった。


「今の、もう一回言って」


 川村が聞き返すと、岸田は不思議そうな声で答えた。


「え、何も言ってないよ」


 たしかに、岸田は黙っていたはずだった。それでも川村の耳には、岸田の声に似た、低い呟きが確かに聞こえていた。何を言っているのかまでは、聞き取れなかった。


 その日はそのまま通話を終えた。気にしないようにした。


 数日後、川村はふと思い立って、通話アプリの設定を開いた。ノイズキャンセリングの詳細設定の中に、見慣れない項目があった。


〈除去された音声を確認する〉


 そんな機能があることに、川村は初めて気づいた。タップすると、直近の通話で自動的に除去された音声データが、時系列で一覧になっていた。ノイズと判定され、川村の耳に届く前に取り除かれていた音、ということらしい。


 一覧の中に、あの日の通話の時刻が表示されていた。


 再生した。


 岸田の声が聞こえた。ただし、川村が実際に耳にしたものとは、別の声だった。同じ声質、同じ話し方をしているのに、話している内容が違う。岸田は通話中、川村に聞かせていた言葉の裏側で、ずっと別のことを呟いていた。


〈うしろにいる うしろにいる うしろにいる〉


 同じ言葉が、何度も繰り返されていた。ノイズと判定され、川村の耳には届かなかった声。


 川村はすぐに岸田へ連絡を取り、あの通話の裏で何か呟いていなかったか尋ねた。岸田は覚えがないと答えた。それどころか、岸田自身のアプリにも、同じ機能があった。岸田も自分の通話履歴を確認した。


 結果を送ってきたメッセージには、こう書かれていた。


〈おれの方にも、除去された音声、残ってた〉


〈お前の声で、ずっと同じこと言ってる〉


 川村は返信できなかった。自分が発していないはずの声が、岸田の端末には確かに記録されていた。何を言っていたのか、岸田は文字にして送ってこなかった。ただ、こう続いていた。


〈聞かない方がいいと思う〉


 それ以来、川村は通話の時、ノイズキャンセリングをオフにしている。周囲の生活音が煩わしく耳に入るようになったが、何も除去されない方が、まだましだった。


 数日前、念のため設定画面を開いて、川村は気づいた。


〈除去された音声を確認する〉


 その項目には、まだ数字がついていた。オフにしたはずの日から、今日までのデータが並んでいる。


 機能を切ったのは、川村だ。それでも何かは、切られる前と変わらず、川村の耳に届く前の音を、律儀に取り除き続けている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。