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ファンタジー小話 ~ノーキンのやらかし亭~

掲載日:2026/04/15

 路地で迷子になったって?

 冒険者のくせして、ずいぶんとお間抜けな話さね。


 まあまあ、ちょっくら飲んでいけや。帰り道を教えろって焦る気持ちもわかるけどよ、ここは酒場なんだから。

 ……金がねえ? ははは、さては表の看板を見なかったな。


 ここは〈ノーキンのやらかし亭〉つってよ。酒の肴になりそうな話があれば、ただで飲める店なんだよ。具体的にはあんたみてえな間の抜けた冒険者がやらかした、腹の底から笑える失敗談だな。路地で迷ったくらいじゃたいして面白くねえが、初回サービスってことで一杯だけおごってやるさ。


 失敗談と言われても、すぐに思い浮かばない? 

 だったら俺が参考になりそうな話を教えてやるよ。

 たとえばあんたの後ろの席で飲んでいる、白髪の男だ。

 音もなく忍びより、弓の一撃でもって獲物を仕留める。

 竜殺のレクサール――名前くらいは聞いたことがあるだろう。


 レクサールは気難しい性格で、だから単独行動も多かった。仲間がいないだけに一瞬の油断が命取りになるが、成果を分配しないぶん実入りはよかったらしい。

 その日はとくに順調だった。ワイバーンの討伐数はすでに三、あと一匹狩れば一日あたりの討伐数は歴代トップ。冒険者ギルドの記録に名を残すことができる。


 このときばかりはさすがのレクサールも気がはやり、ようやく見つけたワイバーンめがけて矢を射ったとき、必中の一撃がついに……って思うだろ? 

 ところがレクサールに油断はない。最後まで平常心のまま狩りをやりきった。


 問題はむしろ終わったあとにあった。

 小型とはいえワイバーン、とてもじゃねえがひとりで持ち帰れる量じゃねえ。だから肝や角だけを切り取って、あとは洞穴に隠して、何度か往復しながら回収することにした。


 しかしさすがに四匹となると、ちびちび持ち帰るにしたって骨が折れる。というより、洞穴に隠しただけでへとへとになっちまった。

 仕方ねえ、ギルドで仲間を集めてから回収するか。分け前は減っちまうが肉を腐らせるよりはましだ。記録を狙って欲を出しすぎた。

 レクサールは反省し、ひと仕事を終えた開放感からその場で一服することにした。


 そしたらな、ポンと弾けたんだよ。

 まとめておいたワイバーンの亡骸の、喉袋に引火して。


 笑っちまうだろ? 

 一匹ならたぶん大丈夫だった。四匹だったのがまずかった。ブレスの残りカスが漏れていたんだろうな。レクサールは盛大にふっ飛び、今はこの酒場で飲んでいる。


 ……よく生きてましたねって。おいおい、そんなところで感心するやつがあるか。


 レクサールのほかにも、戦闘で負った傷を治そうとポーションを一気飲みしたら仕掛け罠用の毒薬だったやつ、四散したスライ厶の粘液ですべって頭蓋骨を陥没させたやつ、真の危険は魔物と戦っている最中より退治したあとにあった、てな話はけっこうある。


 変わり種といえば、壁際の席で静かに飲んでいるトールマンだな。

 あいつがやらかしたのは魔物じゃねえ。同業者、しかもパーティーの仲間にとんだ失敗をかましちまったわけだ。


 まず女僧侶に手を出して、そのあとで女魔道士に浮気した。トールマンとしてはうまくやっているつもりだったんだろうな。だけどつきあいが長くなるほどボロが出やすくなるもんだし、やべえと気づいたときには手遅れだった。


 背後からいきなり魔物の巣穴に落とされて、他のメンバーは自業自得だって助けちゃくれねえ。それでもなんとかはいあがろうとするあいつを見おろして、女僧侶と女魔道士はなんて言ったと思う。


 ――ごめんね。私たち、つきあうことにしたの。


 傑作だろ? そんなわけでトールマンは元恋人ふたりに陥れられて、こんな酒場で飲んだくれていやがる。今ちょうど、客の女に声をかけているってか。あの野郎、まだ懲りちゃいねえのな。


 さてさて、俺がこれだけ語ってやったんだ。いい加減にあんたの話を聞かせろや。

 この際、つまらなくてもいい。失敗談をひねりだしてくれたら、帰り道だって教えてやる。ほら、やる気が出てきただろ。


 ほーん、魔物の群れに襲われて。自分だけ囮になって、仲間を逃がそうとした。そんで失敗したのか。いや、うまくいったと。ばか野郎、そりゃただの武勇伝じゃねえか。


 は、噛んだ? 仲間に向かって、叫ぶとき?

 ――俺を置いてさきにゆきゅえ!


 確かにそれはくそだせえ。しかもたいして面白くもねえ。

 つまらなくてもいいって言われたってか。まあそうなんだけども。それにしたって歴代でぶっちぎりだよ。とんだ期待はずれだよ。先人を見習って努力しろや。


 あー、帰り道な。そういう約束だったからなあ。

 んじゃ店を出たら耳の穴をかっぽじって、仲間の声が聞こえるほうに向って走れや。

 そうすりゃ帰れる。簡単だろ?


 わかったら早くいけ。

 次にここへ来るときは、もうちっと面白いネタを仕入れてこい。

 腹の底から笑えて、冥府の土産になりそうな、とびきり愉快な失敗談をな。

 

【冒険者ギルド記録集 蘇生者の体験談より抜粋】

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