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【7】



 今度は私が引き止められる番になった。

 立ち上がった私の腕を律くんが掴んでいる。

 私より白くて綺麗な指からは、僅かに震えが伝わってきた。

 大人しくベンチに座り直す。

 私の腕を解放した律くんは、居心地悪そうに息を吐き出した。

「辻本さんは僕に興味があったわけじゃなく、柴プレ仲間が欲しくて声を掛けてくれただけだと思ってて……。たまにメールで喋るくらいだったし、僕のことを好きになってるなんて全然気付かなくて。そんな気持ちにさせてしまう前に、ちゃんと本当のことを打ち明けておくべきだった」

「……何のこと?」

「実は僕、女なんだ」

「…………え?」

 あまりにも唐突な話題の転換に、脳も感情も追いつかなかった。

 呆気にとられてしまった自分。

 ただ、律くんの瞳が苦しそうに揺らいだことだけは理解できた。

「僕は男のふりをしてるだけで、女なんだよ」

「……え……待って……それって、その……心が女の子ってこと? 性同一性障害っていうやつ?」

「違う。心も身体も女性」

 さっきまでとは違う意味で、心臓が激しく蠢き始めた。

 突きつけられた言葉を飲み込むだけで精いっぱいだ。動揺と緊張でガタガタと全身が震える。


「僕は〝男装女子〟って言えばいいのかな。常に男性っぽい髪型と格好をしてるだけなんだ」

「で、でも……趣味で男装してるだけなら分かるけど、学校は? その学ラン着て行ってるんだよね? 何も言われないの?」

「青蘭高校はジェンダーレス配慮で、制服は男女関係なく選べるシステムなんだ。青蘭に進学した理由のひとつはそれだった」

「そ、そっか、そういえば私が調べたときそんな話もあった気が……。律くんは身体が女性でも、心は男性だから、男の子のふりをして生活してる……ってわけじゃなくて?」

「ごめん、混乱させちゃってるよね。はっきり言わせてもらうと……僕は見た目以外女性だから、女の子を恋愛対象として好きになることはない」

 心が抉られるような痛み。

 目の前の世界が暗転しそうになる。

 それでも必死で思考を巡らせた。

「心も女性ってことは……男の子になりたいわけじゃないんだよね? 休みの日に趣味として男装してるだけじゃなくて、学校まで男の子のふりしてるのは何で?」

「それは……ちょっと事情があって。今の僕はこうして生活するしかないんだ」

 得体の知れない感情が身体の奥底から湧き上がってきて爆発しそうだった。

 悲しいのか、苦しいのか、苛立ちなのか――自分でも言い表すことができない。

 初めて味わう不気味なもの。

 心を覆いつくしそうなほど巨大な黒い塊。

 自分の身体の中だけで抑え込むことは不可能だった。

「何で……何でもっと早く言ってくれなかったの!?」

「だからそれは、お互いただの柴プレ仲間としか思ってなくて、辻本さんが僕のことをそういう目で見てたなんて想像もしてな――」

「言い訳しないでっ!」

 バッグを自転車の前カゴに叩き込むと、律くんの制止を無視して公園を出た。

 何で。

 何で。

 何で。

 それだけが頭の中をぐるぐると巡り、涙が溢れて止まらなかった。

 真実を全身が拒否しているかのようだった。



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