【5】
初めてゲームと関係ない話題をしたことで、律くんの普段の姿が少しだけ見えた。これを機に学校のことも訊ねてみよう。ぱっと思い付いた質問――「志望大学は決まってるの?」と投げかけた。
「これから三者面談で。文系だから……法学部が濃厚かなぁ」
「絶対コレがいいって希望はないんだね」
「まぁね。でも夏休みが終わるまでにはある程度絞らなきゃいけない。二学期からは志望大学のランクごとに分かれて選択授業も始まるから」
「へぇ……。大変そうだね」
「僕は特進クラス――成績優秀な生徒が集められている組じゃないから、そこに比べれば楽なんじゃないかな。正直、大学は入れるところに入ればいいくらいにしか思ってなくて」
「そうなんだ。青蘭高校の生徒ってみんな偏差値の高い大学目指して頑張ってるのかと思ってた」
「まぁほとんどの人はね。そういう意味でも僕は周囲から浮いてるかも。先生にも『亜月は必死さが足りない』なんて言われちゃって。ホント、自分でも駄目な奴だなって分かってるんだけど」
「駄目じゃないよ! 青蘭は超有名な進学校だから、そこの先生から見ればやる気ない子に映るかもしれないけど……偏差値の高い大学に行くことだけが全てじゃないと思う。校風が自分に合ってるとか専門的に学びたいことがあるとか、大切な友達と一緒にキャンパスライフを送りたいとか。律くんにとってそういうところが見付かるといいね」
進路を応援したい気持ちでそう伝えると、彼の目がこちらに向いた。照れくさそうに頬を染めている。
「ありがと。そんなふうに言ってくれた人初めてだよ。学校では受験の話題になるとギスギスした空気になるんだ」
「そんな、お礼を言われるようなことじゃないから」
私の顔の方が真っ赤になっているかもしれない。
ドキドキを悟られないよう視線をそらすと、正面に小さな公園が見えた。青々とした木々に囲まれた、ブランコとシーソーしかない質素な公園。遊んでいる子供の姿はない。
公園内のベンチに座ると、律くんが持ってきてくれた《柴クエ》のグッズを広げた。鎧を着た柴犬、魔法使いスタイルの柴犬など、ゲーム内でお馴染みのキャラクターが十個並ぶ。
「僕は全部持ってるから、どれでも好きなものをどうぞ」
「じゃあ……ゲームで使ってるメンバーをいただこうかな」
剣士と盗賊の缶バッジ、アクリルキーホルダーを手に取る。律くんにとっては不要なものでも、私にとっては好きな人からの贈り物だ。柴ぽん剣士のキーホルダーはバッグに取り付け、残りの三つはバッグの内ポケットにしまった。
「でもホントに、四つもタダでもらっちゃっていいの? 私も何かお返しにプレゼントしようか?」
「気にしなくていいって。残ったやつもユズ姉にあげる予定だから」
「お姉さんも《柴クエ》やってるの?」
「いや、ユズ姉の職場にあげると言った方が正しいのかな。ユズ姉は小児科で働いてて、受付にいろんなキャラクターグッズを飾ってるんだ」
会話しつつ、律くんは残りのグッズを紙袋にしまった。
これで今日の予定はおしまいだが、彼が腰を上げる気配はない。このまま会話を継続することができそうだ――と思った矢先、ピピッと電子音が鳴った。私のスマホだ。




