【4】
その夜から律くんと一緒の《柴クエ》が始まった。
フレンドと協力して戦うクエストへ出向き、彼のおかげで得ることのできた報酬で、自分のキャラも強くなっていく。ゲーム内のチャットやメールで話す内容は全てゲームのことになってしまうが、それでも構わない。彼と同じ時間を共有しているだけで幸せだから。
ただ……彼女がいるのか否かだけは知っておきたかった。
とはいえゲームの話題しかしない間柄なのに、突然「彼女いるの?」なんて訊きづらい。何かきっかけを作ることができればいいのだが、律くんの方から《柴クエ》以外の話題を振ってくることは一度もなかった。彼が私に対し、異性としての興味は持っていないのだろうと感じる。
彼の気を引くために何をすればいいのか。
誰とも付き合った経験のない自分には良いアイディアが浮かばなかった。
* * *
律くんと連絡先を交換してから約一ヶ月。
彼から『渡したいものがある』というメールが届いた。《柴クエ》に関係するものらしい。学校が終わってから時間があれば、どこかで待ち合わせできないか――とのことである。
もちろん二つ返事でOKを出した。パン屋さんでの出来事を除き、通学時以外で会うのは初めてだ。
金曜の午後、ホームルームが終わると即教室を出た。
律くんと待ち合わせているのはバス停前。
バス停が見える距離まで来たとき既に律くんの姿があった。歩道の隅に立ってスマホを見ている。そんな彼の前で自転車を降りると、王子様のようにキラキラとした笑顔と目が合った。それだけで私は、苦しさにも似た愛しさを実感する。
「待たせちゃってごめんね」
「大丈夫だよ。ここだと通行の邪魔になるから近くの公園に移動しない?」
品物を受け渡しておしまいだと思っていたため、律くんからの提案に内心ガッツポーズした。もしかしたらそのまま長話ができるかもしれない。
自転車を引いて歩きながら、律くんが渡したいものについて訊ねてみた。彼が持っていたのは駅前にあるアニメショップの紙袋。中を見せてもらうと、《柴クエ》の缶バッジやアクリルキーホルダーなどが複数入っていた。
「全部ランダム商品なんだけど。缶バッジは半額、アクキーは七割引になってたんだよね。それで調子に乗って二十個も買っちゃって、結果十個ダブり。辻本さんの欲しいものがあったらあげようと思って」
「もらっちゃっていいの? フリマアプリで売った方が良くない?」
「たぶん一個五十円くらいにしかならないよ」
「それなら私が一個五十円出すよ。フリマアプリで買ったつもりで」
「余りものを友達に売りつけるなんてしたくないよ。ただでさえ少ない友達がさらに減っちゃう」
あはは、と冗談めかして笑う律くん。
顔は笑っているが、どことなく影が差しているような――雨の中を歩く彼を初めて見たときと同じ、悲しげな瞳。引っ掛かりを覚えた。
「律くん、友達少ないの?」
「学校でいつも一緒にいる友達が一人。あとは辻本さんだけかな。ネット上なら柴プレの友達が何人もいるけど、リアルの友達とは違うからね」
「そうなんだ……。でも私も、そんなに多い方じゃないと思うよ。一年のときは部活やってたからそこで喋る子もいたんだけど」
「今は部活やってないの?」
「美術部に入ってたんだけど、あまりのめり込めなくて。今は帰宅部なんだ」
「僕も帰宅部。小・中は陸上部だったんだけどね」
「続けなかったの?」
「自分が好きで入ったわけじゃないから。高校では部活より、受験に向けて頑張らないといけないしね」
「そっか……。青蘭高校だもん、勉強大変だよね」




