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【5】



「ずっと黙ってたけど……私が律を好きになったの、《柴クエ》仲間になってからじゃない。もっと前……高一の終わり頃にあのバス停で律のことを見かけて、勝手に片想いしてたの。話すきっかけが欲しくて、自分も《柴クエ》をやり始めて仲良くなれて、すごく嬉しくて。そんなに長く片想いしてたのに、急に好きじゃなくなるなんて無理だった。律が女の子だって打ち明けてくれたとき、あんなふうに怒鳴っちゃった理由も……今なら分かる気がする。私が苦しかったのは、律が女の子だったからでも、騙されたと感じたからでもない。律が好きなのは男の子だから……だからどんなに頑張ろうと自分の片想いは絶対成就しないって……その事実をはっきり突きつけられたのが苦しかった」

 律は何も言わない。

 ただ、彼女が一歩も動いていないことだけは、自分の目線が足元に落ちているから分かる。


「ずっと友達でいるって約束したのに……これからもちゃんと友達でいられるのか、自分の気持ちをどうすればいいのか、私だけこんな気持ちで律と仲良くしていていいのか……何が何だか分からなくなりそう。ちょっとだけ距離を置いたら、こんな気持ち全部なくなって……今までどおり友達として仲良くできるのかな? それとも……同性からこんな感情を向けられたら気持ち悪い? 私と友達でいたいって気持ちが失せちゃった?」

 一体どんな言葉が返ってくるのだろう。

 私の気持ちに応えることはできない、なら構わない。

 と言うよりそんなことは承知の上だ。

 ただ、嫌われることだけが怖い。

 私が初めて告白したときの律も、こんな不安に襲われながら男装の事実を打ち明けてくれたのだろうか。自分の対応の残酷さを思い出し、罪悪感で押し潰されそうになる。

 そのくせ、今の自分は優しい言葉を待っていた。

 身勝手だと分かっていても避けられたくない。

 恐る恐る目線を上げると同時に、律との距離が近付く。細く柔らかな腕に抱きすくめられ、不安や緊張以上の困惑を覚えた。

「……律?」

「僕の話……上手くまとめられないかもしれないけど、聞いてくれないかな?」

 彼女に優しく抱かれたまま、小さく頷いた。


「僕は男として育てられたけど、心も身体も女性で、今までに片想いした人も男の子だった。女性に恋愛感情を抱くことはないって、今でも思ってる。でも……初めて美波に告白されたときと違って、今『好き』って言ってもらったときはすごく幸せな気持ちになった。もちろん美波に嫌われたくないからとか、友達じゃなくなるのが怖いからとか、そういう理由で繋ぎ止めようとしてるわけじゃなくて……。これからも変わらず傍にいてほしい」

「あの……私の気持ち、正確に伝わってるよね? 私は恋愛的な意味で律のことを『好き』って言ったんだよ? お互い違う〝好き〟っていう感情を持ったままで友達関係を続けられるかどうか――」

「女の子から告白されるの、嬉しい気持ちが微塵もないわけじゃないけど、はっきり言って困るんだよね。初めて美波が告白してくれたときも……本音を言っちゃうとさ、『せっかくできた柴プレ仲間に縁を切られるのかな』ってがっかりした。だから……女の子に告白されて嬉しい気持ちだけ感じるの、本当に今が初めてなんだ。たぶん僕も美波のことを特別に想ってる」

「……それは恋愛感情なの?」

「今は〝他の女の子とは違う〟くらいの感覚だけど……でも、だから、その……」

 律は言葉を濁しながら私を解放した。

 まだ何か迷っている様子だ。

 真っ赤に染まった頬を両手で隠すように包み、視線を横に流している。

「こんなことを頼むのは失礼かもしれない……じゃなくて絶対失礼だけど……」

「何?」

「……キスしてみてもいい?」

 絞り出すような問いかけ。

 パニック寸前の脳内を何とか平常運転に戻そうとしたが、さすがに無理がある。

「ま、待って、なんで、そんなことを訊くの?」

「女の子にキスされるなんて気持ち悪い?」

「むしろ律は? そんなことして平気なの?」

「正直分からない。でも美波とならしてみたいなって。僕の抱いてる気持ちが恋愛感情なのかどうか、もしかしたらはっきりするかも。そんな確認のためなんて、最低なお願いだってのは分かってるけど……」

「……もし、私とキスして気持ち悪いと思ったら?」

「それはそのとき考える。駄目?」

 ファーストキスの相手が女性になるなんて、今この瞬間まで考えもしなかった。律のことを好きな気持ちはあっても、〝同性とキスをする〟という簡素な文章に置き換えてしまえば、私自身多少の不安はある。

 しかし拒絶のような感情は一切浮かばなかった。

 いいよ、と小さな声で答える。

 律の右手が私の頬に触れた。

 冷房が効いた部屋の中とはいえ、妙にひんやりと冷たい指――と言うより私の顔に熱が集中しているだけだろう。これまでに体験したことがないほど速い脈を落ち着かせたくて、力いっぱい瞼を閉じた。



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