【4】
洗面所で手を洗ってから自室に戻ると、ローテーブルにパンとペットボトルを並べた。私はメロンパンとストレートティー。律はホイップクリームサンドとレモンスカッシュ。パンを頬張りつつ一緒に《柴クエ》の協力クエストを進め、イベント報酬をゲットした。
「美波のパーティー、今回の報酬で結構育つんじゃない?」
「うん、一匹はフル強化まで行けそう。いつもありがとね」
「こちらこそ。顔を知らないギルドメンバーと討伐行くのも楽しいけど、こうして喋りながら周回できるのが一番楽しいよ」
パンを食べ終えた律は、ウェットティッシュで手を拭きながら無邪気に笑んだ。私もストレートティーを飲み、ほっと息を吐く。
ペットボトルをテーブルに置くと、バッグに手を伸ばした。律にプレゼントしてもらったネックレスを取り出す。アーガイル柄の包装紙に可愛らしいピンク色のリボン……開けてしまうのが何となく惜しい。
「そのネックレス、早速ストラップに変える?」
「そうだね、律がいてくれた方が開けやすいな」
「どういう意味?」
「綺麗にラッピングしてもらったばかりだから、開けちゃうのがもったいないなーって思ってたとこ」
「中身を使わなきゃもっともったいないよ」
それもそうか、と返しながらシールを剥がす。
包装紙の中から、透明のビニール袋に入ったネックレスが出てきた。ストラップの紐と並べてテーブルに置く。
「そうだ、ずっとしまったままのネックレスも出してみよっと。使ってないストラップも取ってあるから、それも付け替えられるかも」
ほとんど使用していないアクセサリーケースと、古いストラップをテーブルに運んだ。ストラップは中学時代バッグに付けていたもので、キャンディ型のマスコットがついている。プラスチック製だが、塗装が一部剥げてしまったことを機に使わなくなっていた。
ネックレスは七本ある。
どれも細いチェーンにペンダントトップがひとつ付いているタイプのものだ。一本ずつ伸ばしてテーブルに並べていく。律が正面から覗き込んできた。
「ほんと、どれも使用感がないね。新品みたいにピカピカ」
「でしょ? 特にこれ――シルバーの石板みたいなプレートによく分かんない英文が彫ってあるやつなんて、たぶん一回しか着けてないよ」
「そうなの? シンプルで良いデザインだと思うけど」
「じゃああげようか?」
「ごめん、別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだ。ただ感じたことを言っただけで」
「どうせ使わないし――なんて、要らないものを押し付けるみたいで逆に悪いかな? このまま埃かぶっちゃうより、使ってもらったほうが嬉しいけど」
「それなら……もらおうかな?」
「もちろんどうぞ」
律の手のひらにネックレスを乗せる。「着けてみていい?」と訊かれたため、姿見を使うよう促した。立ち上がった律が姿見の前へ移動する。私もそれに倣い、首の後ろに腕を回す律を見守った。
「うん、いい感じ。僕の格好にも合う」
「だね。律が気に入ってくれてよかったよ」
「友達からアクセサリーもらうなんて初めてだけど、何かテンション上がるな」
「でもそれ、私のお古だよ?」
「全然いいって。今日は僕がお礼をする立場だったのに、また美波に幸せもらっちゃったな」
突然、律が私の腕に抱き付いてきた。
先日と同じだが、今日の彼女は眩い笑顔を浮かべている。
しかし私は頭が真っ白になるような感覚に襲われ、つい身を引いてしまいそうになった。その動作に気付いたのか、律がぱっと腕を離す。
「ごめん、ベタベタ触ったりして」
「……ううん」
「小さい頃、よくユズ姉に抱き付いてて……美波にも安心感を覚えてるからかな、つい同じことをしちゃった。姉たち以外の人に抱き付いたことなんてないし、それだけ美波のことが大事で心を許してるんだけど、勝手に触られたら嫌だよね。これからは気を付けるよ」
少し困ったようにはにかむ律の顔。
視界が急激にぼやけていく。
頭ではきちんと理解していた。
どうにか掻き消そうと必死だった。
律は女の子だ――何度も何度も自分に言い聞かせた。
でも無理だった。
感情が溢れて止まらない。
ぼろぼろと頬を伝ってこぼれ落ちていく。
「……ごめん。私……律のこと好きな気持ち、消せなかった」
無理やり押し殺し続けていた本音。
口に出すとますます強くなり、怖くて不安で、律の顔を見ることができなかった。
彼女が今どんな顔をして私の想いを聞いているのか。知ってしまったら、この続きを話せなくなる気がした。




