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【3】



 じっとネックレスを見つめていると、律に名前を呼ばれた。さっきまで時計の陳列棚を見ていたはずの彼女が、いつの間にか隣に立っている。その手には買い物カゴ代わりのアクセサリートレイ。黒いベルトの時計がひとつ乗っている。

「この時計、三千円から七十パーセントオフだって。お買い得じゃない?」

「えっと……いくらになる?」

「九百円だよ。このデザインなら学校にも着けて行ける。母さんに文句を言われる心配もない」

「……そっか」

「美波は欲しいものあった?」

「このハートのネックレスが可愛いなと思ったんだけど……買うのはどうしようかなって迷ってる」

「値段的に?」

「三百円だからそんなに痛くないよ。ただ……お店で見ると『ネックレスいいな』って思うんだけど、いざ買ってみてもほとんど着けないんだよね。数回しか使ったことないネックレスが何個もある」

「だったらリメイクするって手もあるよ?」

 律が「こっち」と言いながら向かった先は、時計の陳列棚の隣。様々な種類のストラップが吊るされている。その端っこに、紐の部分だけのストラップパーツが並んでいた。金具はどれもシルバーだが、紐には複数の色がある。

「ペンダントトップを取り外して、このパーツに付け替えるんだ。ストラップならバッグでも財布でも使える。手軽だろ?」

「そうだね。この紐だけなら一個三十円で買えるんだ……。さっきのネックレスならピンクの紐がいいかな」

「じゃあ二つ合わせて僕がプレゼントするよ」

 突然の申し出に戸惑っている間にも、律はネックレスの陳列棚へ向かった。アクセサリートレイにハートのネックレスを乗せて戻ってくる。

「リメイクを提案したのは僕だから。パンに続く、この前のお礼第二弾ね」

「そんなの悪いよ」

「元々パン屋のカフェスペースで飲み物も奢る予定だったのに、メロンパンだけになっちゃったからさ。一日買い物に付き合わせたお礼が百八十円ってのも安すぎるだろ?」

 私は無理やり付き合わされたわけでなく、自ら進んで出掛けたのだから気にしなくていいのに。しかし律の方は負い目を感じたままでいるのだろう。ここはお言葉に甘えることにした。


 律に続いてレジへ向かう。

 カウンターには、エプロンを着けた五十代くらいの女性店員さんが立っていた。律からアクセサリートレイを受け取った店員さんが「ラッピングはどうする?」と問いかけている。

「この時計は普通の袋でいいです。ネックレスとストラップの紐だけ、プレゼント用にしてもらえますか?」

 そんなことを言い出す律にぎょっとした。

 受け取る相手の私がここにいるのだから、綺麗に包んでもらわなくてもいい。そう訴えると、律はレジの機械を指差した。

「ほら、《ラッピング無料。お気軽にどうぞ》って書いてある」

 小さな手作りのポップには確かにそう記載されていた。私たちの後ろに並んでいるお客さんがいないとはいえ、店員さんの目の前で問答するのも迷惑だろう。これも素直に受け取ることにした。

 店員さんは私たちに向かって、包装紙とリボンのサンプルを見せてくれた。三種類のデザインの包装紙からひとつ選び、そこにリボン型の立体シールを貼ってくれるらしい。さっと包装紙を見比べ、《A》と書かれたアーガイル柄を選択した。

 店員さんから「リボンはハート型に変えることもできるよ」と提案されたが、あえて変更してもらう必要もないと思い、首を小さく横に振った。そんな私を見て、店員さんが「初々しくていいわねぇ」と笑う。おそらく〝彼氏を前に恥じらう彼女〟に見えているのだろう。


 カウンターの内側にある台でラッピングが開始される。作業する店員さんの背中を眺めつつ、声量を落として律に声を掛けた。

「あの店員さん、たぶん私たちのことを恋人同士と勘違いしてるよ?」

「みたいだね」

「受け取るときにちゃんと言った方がいいんじゃない?」

「相手は知らない店員さんだよ? わざわざ『僕たちは友達です』なんて宣言しなくてもいいと思うけど、駄目かな?」

「……別に、駄目じゃないよ」

 私が勝手に変な意識をしてしまっているだけ。

 きゅ、と心臓付近が苦しくなった。

 私たちは女の子の友達同士。

 その事実を律の口から聞かされるたび、心を殴られたような痛みが走る。こんな感情、律にとっては迷惑でしかないと分かっているのに。

 プレゼントを受け取ると、律にお礼を言ってバッグにしまった。エスカレーターで一階へ降り、食品売り場でペットボトルの飲み物を購入。帰宅したとき、自宅前の駐車スペースはがらんと空いていた。お父さんもお母さんもまだ出掛けているようだ。



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