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【2】



 律は安堵した様子だが、条件付きで折り合いをつけた潤さんと違い、律自身の生活環境は何も改善していない。そう伝えると、彼女は切なげに眉を寄せた。

「母さんはきっと、この先もずっと変わらない。ユズ姉も『親に理解してもらおうなんて考えるのは無駄だ』って言ってた。だから、僕自身が自分を変えられる日まで……そんな日が来るのかどうか分からないけど、社会人になったら世界を広げるチャンスがあるんだって信じたい。それまでは今できることを頑張りながら過ごすよ」

「今できることって?」

「まずは受験に向けて頑張らなきゃ。でも今日はテスト明けで気楽になったばかりだから、美波と楽しく過ごしたいかな」

「じゃあ《柴クエ》?」

「あとでおやつ食べに出掛けるつもりだったろ? この前のお礼ってことでご馳走するよ」

「お礼って何?」

「え、もう忘れた? 服買いに行くの付き合ってくれたじゃん。あの件、まだお礼してない」

「柚さんからお直ししたスカートもらったもん。それで充分だよ」

「それ、僕は何もしてないのと同じだから。ずっと引っ掛かってたんだよね」

「そう言うなら……メロンパン奢ってもらおうかな」


 揃って部屋を出ると一階リビングへ向かい、お母さんに「出掛けてくる」と声を掛けた。お母さんもドラッグストアに行く準備をしていたらしい。スマホアプリの激安クーポンを鼻歌混じりで見せつけてきた。恥ずかしいから人前ではしゃがないでほしい。ご機嫌なお母さんと自宅前で別れ、私と律は自転車で街に出た。

 向かう先はパン屋さん《カサブランカ》。

 律と初めて会話した思い出の場所。

 店内にはイートスペースがあり、コーヒーや紅茶を注文することができる。そこで優雅にティータイム――と考えていたのだが。土曜のおやつどきが近い現在、イートスペースは大勢のお客さんで埋め尽くされていた。数人で談笑しているテーブルが多く、いつ空きが出るか分からない。混み合う店内で待つくらいなら、自分の部屋に持ち帰って食べた方がいいだろう。


 律にメロンパンを買ってもらってお店を出ると、スーパー《フォレスト》に寄った。ここで飲み物の調達を行う。

 私にとっては幼い頃から飽きるほど来た場所でも、律にとっては初めて来るお店。「ちょっとだけ店内回ってみてもいいかな?」という律に合意し、エスカレーターで二階へ向かった。

 衣料品売り場は若者向けの服が少なく、私は靴下しか購入したことがない。ゲームコーナーは古めかしいメダルゲーム機やクレーンゲームが並び、お年寄りや小さな子供が遊戯に興じている。その隣には小さな催事スペースがあり、今はアクセサリーや時計の出張販売が展開されていた。

 大人向けの高価な装飾品ばかりかと思いきや、《三〇〇円均一》や《五〇〇円均一》のポップも掲げられている。せっかくの機会だから覗いてみようということで安価なコーナーを眺めた。ファンシー雑貨のお店で売っているような、可愛らしいデザインのリングやブレスレットが多数ある。

 そのなかでひときわ目を引いたのが、ハートのペンダントトップが付いたネックレス。キラキラしたピンク色の石が散りばめられ、煌々と存在感を放っていた。



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