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【1】



 テスト週間はお互い勉強に集中しようということで、律と連絡を取らなかった。《柴クエ》もログインだけになっている。

 たった一週間が異様に長く感じられたが、それでも無事に期末テストが終了。勉強漬けの毎日から解放された金曜の夜、律から《ジュン姉のことは一応ひと段落ついた》とメールがあった。

 あれから家族間でどんなやり取りがあったのか気になっていたが、律の方も私に報告したいと考えてくれていたらしい。いつもの公園で待ち合わせることも考えたが、七月の日差しのもとで会話するのは億劫だ。話の内容が内容だけに、カフェなど人が多い場所に行くのも避けたい。というわけで土曜の午後、私の部屋に来てもらうことにした。

 今日はお母さんが在宅している。

 初めて律を見たお母さんは男の子だと勘違いしたようだ。どことなく嬉しそうな調子で「彼氏さん?」と訊いてきた。即座に「違う」と返したが、律が女性だということまで勝手に話していいのか分からない。隣に立つ律を見上げると、彼女は「僕は女です」と微笑した。


 お母さんはお茶菓子の準備をすると言ったが、途中で邪魔されたくない。小さな紙パックのオレンジジュースを二個受け取り、「あとで出掛けるからお菓子はいらない」と返した。先週と同じようにローテーブルを挟んで向かい合う。紙パックのジュースにストローをさすと、早速本題に入った。

「潤さんはどうなった?」

「散々揉めた結果、同棲の話は延期ってことになったよ」

「そっか……。潤さんもお母さんの呪縛を打ち破れなかったんだね」

「でも母さんから『料理と洗濯を半年間毎日行う』っていう条件が出されて。それを達成できたら家を出ても良いってさ」

「じゃあ今も潤さんは?」

「約束達成のために頑張ってるよ。ただ、母さんいわく『フルタイムで働きながら家事をこなすのは簡単じゃない。ずっと母親任せでだらだら生きてきた潤にできるはずがない』ってさ。それにジュン姉の彼氏のことも疑ってた。『同棲することで家賃や生活費を折半したいだけじゃないの?』って」

「お母さんは子供に対する依存心が強くて、被害者意識とか承認欲求が強いタイプの人なのかもしれない――って、毒親についてネットで調べた情報なんだけどね」

 律は「気が滅入らなかった?」と苦笑し、ストローに口を付けた。彼女自身、毒親について調べた時期があるそうだ。しかし見れば見るほど落ち込んでしまうため、検索するのは避けているとのこと。


「私は自分のことじゃないから平気なのかもしれない。いろんな悩み相談を見てたら、律と同じように服装とか交友関係を制限されてる人もいっぱいいて……何でそんなふうになっちゃうんだろうなって」

「ホントにね。美波のお母さんは優しそうで羨ましいよ」

「怒るときはかなり怖いよ? でも私の友達に対してまで、あんな冷たい言い方はしないと思う。律のお母さんは『私が育ててやってるんだぞ!』って威圧的な感じが辛かったな。こんな言い方したら身も蓋もないけど……子供は親を選べないのにね」

「それ、僕もくどいくらい考えてきたことだよ。姉たちもみんな思ってて、ジュン姉に至っては母さんに直接言い放ったこともある」

「えっ……そんなこと言って大丈夫だったの?」

「大丈夫なわけない。母さんは茶碗を床に叩きつけて、『私だってお前みたいに身勝手な人間を選んだわけじゃない!』って。僕・柚・空は父さんに引っ張られて別室に避難してたよ」

 私の家ではありえない大事件である。

 律が長年苦労してきたことを思うと、早く家を出ることができればいいなと願わずにいられない。

「同棲の件に限らず、ジュン姉は昔から一番母さんとやり合ってた。たぶん四姉妹の中で一番気が強くて頑固。母さんは『柚と違ってずっと抑えつけ続けるのは難しい』って感じたのかもね。だから渋々条件を出した」

「そっか……。潤さんの希望、無事に叶うといいね」

「まぁどうなるかはさておき、これで一旦解決って感じかな。ギスギスしてた家の空気も多少は落ち着くはず」



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