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【7】



「大丈夫だよ、あのくらいのことで律を嫌いになったりしない。そもそも私が勝手にやったことだから」

「ごめん」

「……私の方こそごめんね」

「謝らないでって言っただろ? 悪いのは全部母さんだ」

「そのことじゃなくて……。何だろう、自分でもよく分かんないけど謝っちゃった」

 ふっと笑いが漏れる。

 律は顔を上げ、私の腕を解放した。

 彼女の瞳は潤んでいるが、悲しそうな表情には見えない。

「美波が友達になってくれて本当に良かった」

「そうかな?」

「これからもずっと友達でいてくれる?」

「もちろん」

「ありがとう。こんな素敵な友達に出会えて、僕は幸せ者だな」

 友達。

 友達。

 律の口から繰り返される言葉が、私の心の中に植え付けられていく。

 指先に棘が刺さったときと同じような、小さな痛みと異物感。

 取り除いてしまいたくなる。

 今日は勉強を再開する気分になれないということで、律はテキスト類をバッグにしまった。お母さんからの電話で中断してしまったおやつ&《柴クエ》タイムもスタート前にして終了。律が食べなかったフィナンシェはお土産として持って帰ってもらうことにした。


「ジュン姉のことは今後どうなるか分からないけど、僕一人じゃないから……ユズ姉たちもいるから心配しないで」

「このまま家に帰る?」

「いや、ジュン姉がどこにいるのか訊いてから考えるよ。ソラ姉は仕事中のはず……ユズ姉はどこかに出掛けてるかな? 何だかんだ一番頼りになるのはユズ姉だから、連絡取って合流してから帰宅する手もある」

「私は柚さんとしか会ったことないけど、律と一番似てるんだよね?」

「そうかもね。美波にスカート渡したときいろいろ話したんだろ? どんな会話したのか根掘り葉掘り訊くのも悪いと思ってたけど」

「……柚さんもあのお母さんのせいで大変だって聞かせてもらったよ。縁を切るのは難しいってことも」

「そっか。鬱陶しいところもある姉だけど悪い人ではないんだ。また話す機会があれば面倒くさがらず相手してやって?」

 そんな発言も柚さんと似ている気がする、というのは黙っておいた。

 律から何度もお母さんの話を聞き、「子供を〝自分の物〟のように扱っている人だ」と理解はしていたが。本当に話の通じない人なんだと……自分の意志を通すために平気で冷酷な態度を取る人なんだと、実際に会話することで痛いほど伝わった。あんなお母さんだったら私も、律や柚さんのように本音を言えなくなってしまうだろう。


 その夜。

 食事とお風呂を済ませて部屋に戻ると、スマホを掴んでベッドに寝転がり《毒親》を検索してみた。毒親にはどんなパターンがあるのかという情報だけでなく、お悩み掲示板も複数あるようだ。

 掲示板を覗くと、年齢性別問わず大勢の悩みが書き込まれていた。《結婚を許してもらえない》、《交際を邪魔される》という悩み。受験を控えた中学生の《○○高校に入れなければお前に価値はないと言われて死にたい》という投稿も目を引いた。

《絶縁しようとしても執着されてしまい困っている》というケースもあるが、《罪悪感が邪魔をして絶縁できない》と苦しむ人も多いようだ。

 命を与えてもらった、育ててもらったという事実。

 それは〝恩義〟でなく〝脅迫概念〟のように当事者たちを襲っている。

 律のお姉さんたちやお父さんについても、どんな影響を持つのか調べてみた。そして辿り着いた言葉が〝スケープゴート〟――生贄という意味らしい。

 律は以前「父は母と正面切って戦うことに疲れたのかも」と言っていた。これは事実、毒母のいる家庭で起こりうる現象らしい。攻撃の矛先が自分に向くのを恐れ、物事を荒立てぬよう顔色を窺いながら生活する。そうして毒母の支配下になってしまう。律のお父さんはこのケースに該当するのかもしれない。


 私は漠然と〝毒親=酷い親〟だと考えていたが、そんな単純なものでもないようだ。毒親だけでなく、他の家族の状況や性格も複雑に絡み合って、どうにも抜け出すことができなくなってしまう……。

 傍から見れば「縁を切ってしまえばいいのに」と思うが、「それが簡単にできないから苦しむ」というのが当事者。一人で暮らせるくらい収入がある人ならまだしも、学生には逃げ場など存在しないのだろう。

 ブラウザを閉じ、スマホを枕元に置く。

 律に抱き締められた腕を、そっと撫でた。

 柔らかくて温かな感触が、今も僅かに残っている気がする。

 もっと触れていたい――ふと浮かんでしまった感情を掻き消すように、もう一度スマホを取った。最近《柴クエ》ばかりプレイしていたが、たまには《シンデレラ・ボーイズ》の天馬くんに会いに行こう。



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