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【5】



 迷った挙句正直な気持ちを返信すると、すぐに返事があった。

《僕の方こそ邪魔にならないなら、美波と一緒がいいな》

 私と一緒に過ごす時間を望んでくれている。

 必要とされているなら嬉しい。

 了解のメールを送ると、予定について質問が返ってきた。図書館を利用して勉強する手もあるが、せっかく一緒に勉強するなら会話もできる方がいい。そう考え、私の部屋での勉強を提案した。

 土曜は友達を招くことになったとお母さんに伝えると、「じゃあわたしとお父さんは買い物でも行こうかな」と予定を立ててくれた。二人がいなければ律も気楽だろう。


 律が立派な箱菓子を持参してやって来たのは土曜の正午過ぎ。

 気を遣ってくれなくて良かったのにと思ったが、持っていけと言ったのは律のお母さんらしい。「以前手ぶらで友達の家に行った」と話したところ、「どうして事前に言わなかったの、非常識だと思われるでしょう」と叱られたそうだ。もちろんコーディネート作戦については秘密である。

「母さん、見栄っ張りで困っちゃうよね」

「今日に関しては素直に喜んでおこうよ。良いお菓子が食べられるってことで」

「それは美波とご両親にプレゼントしたものだよ?」

「うちの親はそういうの全然気にしないから。おやつの時間に二人で食べよ?」

「まぁ……お母さんとお父さんの分、ちゃんと取り分けておいてくれるなら」

「分かってるって。二人とも外で夕飯済ませるらしいから、今日は律の時間が許すまでうちにいて大丈夫だよ」

 ローテーブルを挟んで勉強開始。

 私は苦手な数学のテキストから。

 律は得意な英語から。

 北高で使っている教科書と違うため見せてもらうと、私には到底理解できそうにない問題がずらりと並んでいた。

「私、ずいぶん無謀な希望を言ってたんだなぁ」

「どういう意味?」

「実は中三の頃青蘭に憧れてたんだよね。担任に話したら『辻本の成績じゃどう足掻いても無理だ』って言われちゃったけど」

「学力はさておき、受験に対する向き合い方って言うのかな……そういうのも結構キツイと思うよ? 僕みたいにあまりやる気のない奴は居心地が悪い」

「志望校は決まった?」

「一応は。母さんからOK出たからね」

「そっか……。受験、苦しくなりそう?」

「それなりに。まぁでも高校受験も乗り切ったから。たぶん大したことないよ」

「となれば呑気に喋ってる場合じゃないよね。ちゃんと取り組まなくちゃ」


 黙々と問題に向かい、テスト前に提出するための課題を片付けていく。数学のテキストがひと段落すると、得意な世界史に切り替えた。苦手科目ばかり長時間続けるのは辛いことこの上ない。

 部屋に一人だったら集中力が切れてスマホを触ってしまいそうだが、正面には真剣な眼差しで課題に取り組む律の姿がある。そのおかげで私も他所事をすることなく、気付けば三時を回っていた。

 ここで一旦休憩。

 キッチンからペットボトル入りサイダーとグラスを持ち出し、律が持ってきてくれたお菓子の箱を開けた。

「わ、フィナンシェだ。美味しそう」

「うちの近所のケーキ屋で買ったんだ。僕はプレーンが好き」

「チョコと抹茶とキャラメル……私と律の分、一種類ずつ出しとこっか」

「僕は一個でいいよ?」

「たくさん甘いものを食べなきゃ勉強もはかどらないって」

 フィナンシェの数はトータル十六個。私たちで半分食べてしまっても、お母さんとお父さんの分は残すことができる。遠慮がちに四個のフィナンシェを受け取った律は、「食べながら《柴クエ》する?」と言ってスマホを取り出した――のだが。

「母さんから着信入ってた。マナーモードで気付かなかったよ」

「急ぎの用かな?」

「おそらく。三件も入ってるから」

「またおばあちゃんちに行くって話かも?」

「どうだろ。『今日は友達の家でテスト勉強するから集中させてほしい』ってお願いしたんだけどな。勉強を持ち出せば母さんもそんなにうるさく言わないから」

 深々と溜め息をついた律は、お母さんに折り返しの電話を掛けた。その様子をじっと見つめる。呼び出しとなれば今日はお開きだ。残念な気持ちはあるが仕方ない。



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