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【4】



 柚さんはカフェオレを飲み干すと、ストローで氷を掻き混ぜ始めた。カラカラと涼しげな音を鳴らしながらこちらを見ている。

「美波ちゃんにできそうなことか……。しいて言えば、今後も律と友達でいることかな? 鬱陶しいって思うかもしれないけど」

「そんな、鬱陶しいなんて思わないですよ」

「でも律、あたしと一緒で面倒くさいとこあるからね」

「面倒くさいって?」

「同じ家で育った四姉妹だけど、親からの扱いが微妙に違ってたせいで、性格は綺麗に二分されちゃったって言うか……あたしと律は似た者同士、空と潤は似た者同士って感じなんだよね。社会に出ていろんな大人と関わって、あたしと律は自己肯定感が低い人間だってことに気付かされた」

「自己肯定感って〝自分で自分の価値を認める〟みたいなやつですよね」

「そ。律、よく『どうせ僕なんか駄目』とか言ってない?」

 言われてみればそんな気もする。

 スカートを履いたときも、あんなにスタイル抜群なのに自分を卑下してばかりだった。

「そんな律だから、美波ちゃんが親身になってくれて嬉しいと思う」

「私の方こそ……律と一緒に出掛けたりゲームしたり、楽しい時間をもらってますから。ありがとうございます」

「そこは本人に直接言ってあげてよ」

 呆れたように言った柚さんは伝票を取った。

 ミルクティーをご馳走になり、駐車場で彼女と別れる。


 帰宅してキッチンの前を通ると、洗い物をするお母さんの背中があった。お母さんは二十五歳のときに結婚し、私を産んだのは二十七歳のときだと聞いている。今はパートに出ているが昔はお父さんと同じ会社で働いており、結婚を機に退社したらしい。

「ねぇお母さん」

「おかえり」

「うん、ただいま。……あの、ちょっと質問してもいいかな?」

 お母さんは蛇口を捻って水を止めると、洗い物用のゴム手袋を外しながら振り返った。

「何なの、改まっちゃって」

「そんなに深く考えなくてもいいんだけど……『娘より息子が欲しかった』って思ったことある?」

 窺うように訊ねると、お母さんの眉間に皺が寄った。

 訝しげに私を見下ろしている。

「突然どうしたの?」

「いや、その……ちょっとね、家族構成について話をする機会があって。何となく気になっただけなんだけど」

「わたしは性別なんて関係なく、美波が生まれてくれて嬉しかったよ」

「そっか……。じゃあ子供が欲しいと思ったのは何で?」

「単純に子供が好きで、自分が〝お母さん〟になりたかったからかなぁ。自分の子供を抱いてみたかった」

「ふーん……。じゃあもし、私が一生結婚しなかったら? がっかりする?」

「がっかりというか……一人で大丈夫かなって心配にはなるかも。でも美波の人生だから好きにすればいいよ。結婚したいと思うかどうかなんて人それぞれだからね」

〝生まれてくれて嬉しかった〟

〝自分の子を抱きたかった〟

〝あなたの人生だから好きにすればいい〟

 それはもしかしたら、律が理想とする母親からの返答なのかもしれない。

 私は家族に恵まれている。

 律と比較することで気付くなんて申し訳ない気持ちもあり、それ以上に律の立場を思うと心苦しかった。

「美波、もう結婚のことなんて考えてるの? 大学受験だってまだなのに」

「違うよ。今は結婚したいなんて全然思わないけど、いずれそう思う日も来るのかな……って」

「そう。だったらそんな先のことを考えるのはあとにして、今度のテストに向けて勉強でもしたら? 中間テスト、数学と英語が酷かったでしょ」

 この流れで会話していたら説教モードに突入しそうだ。

「分かった」と返し、早々にキッチンを出た。



* * *



 律と連絡先を交換した頃は快晴の日も多かったが、梅雨入りした現在、傘を差して学校へ向かう日が増えた。例のバス停で律とすれ違う日も多くなり、時間に余裕があれば少し立ち話をしてから学校へ向かう。

 そんな日々を繰り返し、迎えた六月末。

 湿気と暑さで身体がだるいと感じる日も多くなった。今時点でこんな調子では夏本番が苦しくなりそうだ。しかし気温に参っている場合でもない。北高校では期末試験が迫っている。

 律によると、青蘭高校の期末テストも同時期らしい。《休みの日、一緒にテスト勉強しない?》とメールがあったものの、どう返信しようか迷った。

 はっきり口に出すことはないが、律はきっと、お母さんのために少しでも偏差値の高い大学を目指す気がする。対する私は、無理に背伸びせず行けそうな大学を志望している。勉強に対する熱量の違いで、彼女の邪魔になってしまうのではないかと心配だ。



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