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【3】



「まぁ『何でも母親のせいってことにしておかないと、あまりの後悔で気が狂いそうになる』って感情もあるけど。どう足掻いても戻れない過去に執着したって無意味だと分かってるのにね。でも十個下の律には、まだ青春を謳歌できる可能性が残ってるでしょ? だからあたしはヒントになりそうなことを話した……もしかしたらキラキラした青春を送れるかもしれない、なんてね。結局律も同じ道を辿っちゃってるけど」

「柚さん、一度家を出ようとしたことがあるって聞きました。そんなに思い詰めるほど酷い親なら、何を言われても捨ててしまえばいい……そう思わなかったんですか?」

「もちろん、捨ててやりたいと思ったことは何度もあるよ」

「じゃあ何で……」

「完全に縁を切ろうと思ったら、父や妹たち、何も知らない親戚のおばさんやおじさん、みんなを切り捨ててゼロから始めなきゃいけない。みんな母と繋がってるから、そのうち居場所がバレて母に乗り込まれるのがオチだもん。それに、幼い頃に母が遊んでくれた記憶も確かにあって……そういうのが脳裏をチラついて、全てを捨てる覚悟は持てなかった。こういうのもマインドコントロールかもね。きっと、あたしも律も〝普通〟じゃない……認めたくないけど、たぶん何かが欠落したまま生きてる」


 自分一人で全てを解決することは難しいのかもしれない。

 しかし家族を捨てる覚悟までいかずとも、友人に助けを求めたり何か協力してもらったりすることはできないのだろうか。そう訊ねると、彼女は小さく溜め息をついた。

「高校時代に一度《お悩み相談窓口》ってところに電話したことならあるよ」

「どんなものなんですか?」

「電話で相談員と喋るだけ」

「一回じゃ効果なかったですか?」

「回数の問題じゃない気がしたけどね。『どんなに厳しい親でも絶対にあなたのことを愛しています。あなたのことを思えば、ときに厳しい感情をぶつけることもあるでしょう。今は分からなくても大丈夫。子供を愛していない親はいませんよ』――みたいな感じで全然役に立たなかった。やっぱり〝普通の親〟に育てられた人には理解できないんだなって、よーく分かった瞬間だったよ」

 毒親問題は心の問題でもあるのだろう。

 大人の柚さんにすら解決できない悩みを、高校生の自分が解消することは不可能だろうが――。


「私にできそうなこと、何かありませんか? たとえ一時凌ぎでも、律の気持ちが軽くなるようなサポートをしたいです」

「……美波ちゃん、本当に律のことを友達だと思ってる?」

 思いがけない質問返しに固まってしまった。

 何故そんなことを訊かれたのか分からない。

 柚さんはテーブルに右肘をつき、ふっと笑った。

「なんかあたしには、好きなオトコのために必死になってるように見えるんだけど」

「違います! 私はもう律のことを異性として見てるわけじゃ……」

「女性と知るまでは好きだったんだ?」

「それは……そうなんですけど……」

 胸が痛い。

 僅かに息苦しい。

 柚さんの指摘で、心の中をぐちゃぐちゃに掻き乱されてしまった。

 自分の意志で遠くに捨てたものを、他人が拾って届けてくれたような――有難迷惑に近い感覚だろうか。

「……律は心も身体も女性ですから。男性扱いするのは、律の気持ちを踏みにじってるのと同じだと思うので……あまりそういう話題はしたくないです」

「そっか、余計なこと言ってごめん。美波ちゃんも大変な立場になっちゃったね」

「私は平気です。律のしんどさを思うと……」

 そう、私の苦しみなんて些細なことだ。

 好きな人が実は女性だったと知ってしまっただけ。

 そして今、その人と友達として仲良くしている。

 とっくに解決した問題だ。



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