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【8】



 フレアスカートを購入し、隣のショップへ移動。

 律はスカートに合いそうなベージュのカットソーを選び、私もセールワゴンに積んであった千円のTシャツを購入した。

 その後コーヒーショップでの休憩を挟み、電車と自転車を乗り継いで私の家へ。小学校二年生のときから住んでいる二階建て一軒家だ。両親は揃って買い物に出掛けており、夕方まで帰らないと聞いている。

「美波のご両親、仲良しなんだね。土曜日に二人でデートなんて」

「デートじゃないよ。日用品とか買いにホームセンター行っただけ」

「二人で買い物するだけでも素敵だと思うけどな。うちの両親が二人きりで出掛けるところなんて見たことない」

「そっか……。他所(よそ)のおうちはどうなんだろうね」

「自分の親を見てると想像しづらいけど、夫婦で出掛ける人たちが多いのかな? っていうか何の手土産もなくお邪魔してごめんね。今日のお礼は全部含めて後日するから」

「気にしなくていいよ。コーディネート作戦は私が言い出したことだもん」

 そんな会話をしつつ、二階にある私の部屋へ。

 それぞれ購入したものを広げると、まずは値札を切った。私は今すぐ着る必要もないため、洗濯カゴへ入れておこう。

「律は早速着替えてみるよね? 私は下でおやつの準備してくるから慌てなくていいよ」

 頷いた律を残して廊下へ。

 一階の洗面所にある洗濯カゴにTシャツを入れると、キッチンへ行って冷蔵庫の中を確認。アイスココアのパックを取り出し、グラスに注いでトレイに乗せた。そこにポテチの袋も添えて二階へ戻り、廊下から声を掛ける。「もう大丈夫だよ」という律の声を確認したのち、ココアがこぼれてしまわないよう慎重にドアを開けた。


 姿見の前にスカートを履いた律が立っている。

 メンズファッションしか見たことがないため多少違和感はあるものの、スタイルが良くてモデルのように綺麗だ。スカートから覗く足首は羨ましいほど細く、自分の短い手脚を思い浮かべると恥ずかしくなる。しかしそんな私以上に、律の方が恥ずかしそうだ。顔が真っ赤に染まっている。

「全然似合ってないよね」

「そんなことないよ? 可愛いと思う」

 おやつの乗ったトレイを勉強机に下ろし、姿見を眺める律の隣に並ぶ。彼女は落ち着かない様子でスカートの生地をもてあそんでいた。

「スカートを履く自分をほとんど見たことがないからかな。なんか変……」

「見慣れちゃえば可愛いと思えるよ」

「見慣れるとかそういう問題じゃない気がする。僕なんかが着たせいで可愛いスカートが台無しになってるよ」

「そんなことない! 律みたいにスタイル抜群の子に着てもらえて、スカートは絶対喜んでる」

「いやでも、この姿で外を歩くのは恥ずかしいよ。やっぱり全然似合ってない。母さんの言うとおり、僕にスカートは似合わないんだ」

「今日だけでもお母さんの意見は無視しようって言ったよね?」

 お母さんの趣味や価値観に合わせる必要はない。

 大事なのは律自身がどう思うかだ――そう訴えてみたが、彼女は首を横に振った。

「やっぱり着替える。こんなの変だから」

「……そっか。それが律の気持ちなら仕方ないよね」


 居心地悪そうに頷く律を残し、再び廊下へ。

 しばらく待っていると「お待たせ」という声が聞こえたため、ゆっくりドアを開けた。元々着ていた服に戻った律が「ごめんね」と苦笑する。

「遠くまで買い物付き合ってもらったのに、結局やめることになっちゃって……。カットソーはジーンズとも相性よさそうだから着るよ」

「スカートはどうするの?」

「上の姉――ジュン(ねぇ)は僕とほぼ同じ体型だから。親にバレないようこっそりあげておくよ」

 新品のスカートは既にショップの紙袋の中に戻されている。

 それを見たら切ない気持ちになった。

 何だか泣きそうになってくる。

「友達のお母さんのことを悪く言いたくはないんだけど……正直ちょっとムカつく。ただ可愛い服を買っただけなのに、そうやってコソコソしなきゃいけないなんて」

「僕は慣れっこだから平気だよ。美波が辛そうな顔することない」

「でも……」

「ホント、気に病むようなことじゃないって。僕はやっぱりボーイッシュな方が似合うんだってよく分かったし、美波と一緒に買い物できて楽しかったから。ね?」

 母親のために男の子を演じる律。

 身も心も女の子の律。

 彼女の本当の気持ち、本当の願望は、一体どこにあるのだろう。

 どうすれば彼女を満たしてあげられるのだろう。



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