【7】
「母さんにLINEを止められてるのも、『勉強に集中できなくなる』なんてのは建前で、僕が幅広い交友関係を持って色気づくのが嫌なだけだと思う。基本、娘たちに恋人ができるのをよく思ってない感じなんだよね」
「私にしてみれば全く理解できない感覚なんだけど……」
「僕だってそうだよ。ユズ姉の失敗を見ているからか、三女の潤は恋愛事にこなれてるみたいだけどね。母さんにバレないよう彼氏作ってるみたい」
律もいずれはそうして恋人を作るのだろうか。
そういう願望を持っているのだろうか。
訊ねることはできず、彼女の話に耳を傾け直した。
「僕が部活を中断して祖母の家に行ってた頃、周りには『厳しい親で大変だね』とか言われたんだけど……毒親ってそういうものじゃないんだよね。厳しくされたり親子間で確執が生まれたりって〝人同士〟だから言えることだろ? 毒親は違うんだ。子供のことを、自分の欲求を満たすための道具としか思ってない。だから僕に意見を言う権利なんかなくて、親の言うとおりに生きるしかない。ユズ姉も……『この呪縛からは一生逃れられない』って言ってた」
「成人して家を出たとしても?」
「そもそも家を出るのが簡単じゃないはず。ユズ姉は今二十八歳で『一人暮らししたい』と言ってたことあるけど、ずっと家にいるから。母さんが納得できる結婚相手を見付けられない限り、これからも変わらないだろうね」
次女の空さんは二十五歳、三女の潤さんは二十二歳らしい。
二人ともお母さんが許可した就職先で働いており、結婚の話は当分ないだろうとのことだ。
「長々と自分語りしてごめん。気が滅入ったでしょ」
「私は平気。こんなこと訊いていいのか分からないけど……律は女の子として生きていきたい?」
「どうだろう。母さんのことを思うと、少なくとも成人して自立できるまではこのスタンスを崩せない。メンズファッションに関しては苦痛もないからいいけどね。でも……スカートを穿いてみたいって思うことなら少しだけ。中学も学ラン着て行ってたから、まともにスカート穿いたことないんだ」
家族のことで悩んでいる律が密かに抱く願望。親子関係について私にできることはなくても、彼女の希望を叶える手伝いならできるはずだ。
「私と遊ぶときだけでも律が着たい服を着てみるのはどう? スカート、一緒に買いに行こうよ」
「無理だよ。親に見えないところで買った服を着たって、洗濯してしまっておかなきゃいけないだろ? 隠しとおせるとは思えない」
「私の部屋のクローゼット、スペースに余裕あるから。全部預かってあげるよ。着替えも洗濯も私の家でやればいい」
「そこまで迷惑掛けられないよ」
「全然迷惑じゃないよ。秘密のコーディネート作戦ってことで、今度の休みにでもどうかな?」
「って言われても……」
「大丈夫。途中でお母さんから呼び出されたとしても、ドタキャンになっても私は気にしないから。律がやってみたいと思うこと、少しでも協力させて?」
律の瞳が戸惑ったように揺らぐ。
しかしすぐに「ありがとう」と微笑に変わった。
* * *
コーディネート作戦を決行するにあたりもっとも重要なことは、律のお母さんにバレないようにすること。律の家から近い場所やお母さんの行動範囲として予想される場所を避ける必要がある。
私の自宅近辺なら律のお母さんが出歩くこともないだろうと聞いたが、それだと買い物に適したお店がない。今回は電車で足を延ばしてみることにした。
向かった先は急行を使って約十分、駅前にあるショッピングモールだ。
女性向けファッションが集中しているのは二階フロア。特に気になるブランドがあるわけでもないとのことで、順番にお店を回ることにした。
今日は私もお小遣いを多めに持ってきている。と言っても高価な服を購入できるほどの余裕はないため、セールの表示があるラック中心にチェックした。
三軒目のショップでセール棚を見ていると、律がスカートを手に歩み寄ってきた。淡いピンク色の生地にカラフルな小花が散りばめられたフレアスカート。身長一五〇センチの私が着たら引きずってしまいそうな丈だ。
「僕に似合うかどうかはともかく、これなんて可愛いと思うんだけど……どう?」
「ホント、すっごく可愛いね。私も着たいくらい」
「……」
「ごめん、さすがにペアルックにはしないから大丈夫だよ」
「あ、いや、そうじゃなくてさ。自分で選んだものを『いいね』って言われるのが新鮮で。親にはいつも『あんたは趣味が悪い』とか『そんなの似合わない』とか言われるから。ピンク色のものなんて選んだらソッコー棚に戻される。だから自信なくて」
「律はそのスカートが可愛いと思ったんでしょ? 今日だけでもいいからお母さんの意見は全部無視ね!」
「……分かった」




