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6.社外の仲間と再会/“少し”→“けっこう”/“聞ける人”/静かな余裕

 職場の騒動から数日後の夕方。

 千里は帰り道で偶然、安藤毅と落ち合った。

 かつて異業種研修で顔を合わせたことがある程度の知人だが、

 会えば自然と話せる相手だ。


「久しぶりだな、美浜さん。

 なんか……顔つきが前より締まった?」


 開口一番そう言う毅に、千里はまばたきを一度だけして返した。


「前が緩んでた、という意味ですか?」


「いやいや、そういうんじゃなくて」

 毅は笑った。

「頑張ってる人の顔してるってこと」


 言葉を濁さずにまっすぐ言うのが、彼の癖だ。


 千里は少しだけ視線を逸らす。


「……仕事で、少しありまして」


「“少し”って言うときは、大抵“けっこう”しんどいやつ」


「そうかもしれません」


 彼女の返事は淡々としているが、

 毅はそれの奥にある湿度を読み取るタイプの人間だ。


 二人は横並びでベンチに座った。

 冬の風が少し強いが、話すにはちょうどいい静けさだった。





「自分では冷静にしたつもりでも……

 周りがどこまで受け止めたかはわかりません」


 千里は、自分でも驚くほど素直に言葉がこぼれた。

 毅は軽く頷く。


「受け止めたくない人もいるだろうな。

 でも、言わなきゃ潰れてたかもしれないんだろ?」


 千里は息を吸う。


「ええ。誰が悪い、という話ではないんです。

 ただ、曖昧さが放置されすぎていたので……」


「じゃあ、言えてよかったと思うけどな」


 毅の声は柔らかいが、甘やかしはない。

 この“距離感を間違えない強さ”が、千里には心地よかった。





「美浜さんってさ、

 無茶なことは言わないけど、黙って飲み込む人でもないよね」


 毅がぽつりと言う。


「……褒め言葉として受け取っていいんですか?」


「もちろん。

 俺にはできなかったからさ、昔」


 毅の視線は、遠くの歩道のライトに向けられていた。

 ほんの僅かに、その横顔に影が落ちる。


 千里は口を開く。


「安藤さんは、前よりずっと“聞ける人”になった気がします」


「聞ける人?」


「相手の言葉の後ろに、何があるかまで読む人です」


 毅は軽く息を吐いて笑った。


「それ、かなり励みになるな」


 二人は互いに笑ったが、

 その笑顔には“疲れをごまかすための明るさ”はなかった。


 ただ、

 これまで重さを抱えてきた者同士だけが作れる

 静かな余裕があった。





 帰り際、毅がふと立ち止まる。


「無理すんなよって、言うつもりはないけどさ」


「言わないんですね」


「言ったら、逆に負担になる人もいるから」


 千里は小さく頷く。


「ありがとうございます。

 ……また、そのうち話を聞いてください」


「呼ばれたら行くよ。

 別に深刻な話じゃなくてもいいし」


 二人はそれ以上何も言わず、それぞれの方向へ歩き出した。


 千里は歩きながら、胸の奥にひとつ呼吸が入るのを感じる。


(……少し、軽くなったかもしれない)


 風が冷たい夜だったが、

 歩く速度はいつもよりわずかに柔らかかった。

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