3.わたしとハッピーガール
『…は?』
唐突すぎて驚いた。やっと理解できたと思ったら、ハッピーガールになってくれ。なんて。
『そうにゃん!』
『えっと…ハッピーガールって…』
ハッピーガール。わたしの記憶が正しければ、バッドエンドモンスターと戦う存在。戦う、ということは体力と時間が消えていくということだ。
『…なんかいいことある?』
『可愛く変身できるにゃ!あと、魔法っぽいのが使えるにゃ』
呆れた。そんな条件を呑むのは魔法少女好きな人や魔法少女に憧れている人くらいだろう。生憎、わたしは、魔法少女なんて微塵も興味ない。
『やだ。わたし、部活も生徒会もあるの。それに…』
『それになににゃ?』
『夢を見つけなきゃいけない』
そうだ。私には夢もやりたいこともない。満たされ過ぎていたから。何かに夢中になることもなかったし、なにもかもできるから何にでもなれる。
呆然と口をぱっくり開けているクロメに私は背を向けようとした。
『ま、待つにゃ!』
クロメの甲高い声がした。頭にキーン、と響いてしまいそうなほど。まるで金属音のよう。
『あんたはいま、ハッピーかにゃ!?』
ますます呆れた。どっかの宗教勧誘にしか聞こえなくなってくる。でも、なんだか適当に受け流してはいけないような気がした。
『ハッピーじゃないよ…夢もやりたいこともない。毎日が脱け殻みたい、わたし、生きてるのかな』
口から流れてきた音は、私でも驚くほどに本音を含んでいた。財閥の令嬢として、弱音は許されないのに。
『ならますますハッピーガールになるべきにゃ!みんなをハッピーとハピネスで満たせばあんたもハッピーになれるにゃ!』
思わず、息を呑んでしまった。本当に、ハッピーになれるのだろうか。普段なら、くだらないと切り捨てていたはなしがやけに真剣に聞こえてくる。そんなわたしを知らず、クロメは次々と叫ぶ。
『誰かのためにがんばるってハッピーにゃ!みんなハッピーで、あんたもハッピーにゃ!』
『わたしも…みんなもハッピー?』
『そうにゃ!だから!あんたは絶対ハッピーガールになるべきにゃ!』
わたしは、背をクロメから背けてクロメの方を向いた。クロメの赤い目は、生意気なほどに真剣に光っていた。
その目をみて、わたしは考え始める。
もし、本当にハッピーになれるなら
そして、夢を見つけられるなら
これ以上に、幸せなことはない。
わたしは、心からの笑みを溢してクロメの瞳を見た。
『わかった。』
『わたし、ハッピーガールになるよ』




