人の子が孕みたくないなら百合しかないですよね?
葉が落ちるのを眺めて、そろそろ肌寒い季節になってきたなしみじみ思う。
座敷の神棚の前にはこれでもかと収穫したばかりの米や野菜が並べられており、その端では一人の女子が正座して深々と頭を下げている。
白い小袖に緋色の袴――いわゆる巫女装束を着たこの人間は、私の側使えとして用意された女子らしい。
「秋穂ノ比売神様のお恵みの賜で、わたくし共の村では例年にない大収穫となりました。村の者共一同、心より感謝しております」
「うむ、そうか。喜んでいるなら重畳じゃな」
うやうやしく口上を述べる巫女に、私は居心地悪さを感じた。
確かに私は秋穂ノ比売神という豊穣を司る神だけれど、日本に数多――八百万といる神々の中では新米で、人間から直接感謝されることは初めてであった。神の力、恩恵を与えるのも今回が最初なのだから当然ではあり、いわゆる私の神としての初仕事なのだ。
だから無事一仕事終えた事に安堵しつつも、予想より仰々しい扱いをされて面食らっていた。
「しかしここまで感謝してもらわなくても……私だけでこんな量の米や野菜は食べられるとは思えないんじゃが」
「秋穂ノ比売神様は、この村に現れた救世主にございます。本来なら、村のすべてをお礼として差し出すべきでところを、その寛大なお心に甘えさせていただいている所存なのです」
「いやそのじゃな……神ではあっても、新米だからもう少しこう、気軽な感じで構わないのだよ? ほら、秋穂ノ比売神も長いし、秋穂でいいんじゃよ?」
「そんなっ!! 考えるだけでも恐ろしい無礼なことをっ、できようはずがありませんっ!」
まるで頭をあげようとしない巫女は、声を張り上げて、さらに頭を畳にこすりつけた。
人間というのは、聞いていたよりも融通が利かないようだ。面倒な連中だな。しかし、私も神としてしばらくこの村で働くことになっている。できるだけ上手いこと付き合っていくしかない。
「……まあ、よい。では一旦こちらは受け取るのじゃ。だからもう頭を上げて、お主も下がってくれ。そんなごりごり頭を下げられると床に穴が開きそうじゃ」
しっしっ、とついついぞんざいに手を振ってしまう。たがこちらを見ようとせずに、頭を下げたままの巫女は部屋から出て行かない。
「どうしたのじゃ?」
「誠に恐縮なのですが、秋穂ノ比売神様には今年の豊穣をいただきまして、おそらく神力がなくなっているかと存じます」
「む? ……確かにそうじゃが。しかし、次の収穫までには回復しているだろうて」
「わたくしのような人間風情が、大変ぶしつけなことを申しますが、そのようなことはございませんっ!」
巫女が言うには、神力とは人間が神を奉ることによって得られるものらしい。持ちつ持たれつというのは私も他の神から聞いていたので、なるほどそうだったなと納得する。だがそれなら――。
「だからこそ、このように収穫物の一部を私にくれたのではないのか? 住民達の感謝も、先ほど伝えてもらったのじゃよ」
「これだけでは足らないのです。秋穂ノ比売神様の前任でいらっしゃられました、早津稔ノ比売神様におわしましても同様でございました」
「そうなのか? うむ、先達がそうであるなら、私も同じかも知れんな。だがそれでは神力を回復するためにどうすればいいのじゃ?」
新米である故、思い上がることなく先輩の例に従うつもりだった。この巫女も、人間ではあるが祭事に関しては私より知識があるようだし、教えてもらえるならそれを学ぶだけである。
「はい、誠に失礼を承知ながらお願いがございます。神力再起のため、秋穂ノ比売神様には人間とより身近に置いていただきたく、人間を相俟って、生活のすべてで奉仕を受けていただきたいのです」
「うむむ? どういうことじゃな? ……具体的に私は何をすればいい? 人間を身近にというのは……側仕えのお主のことではないのか?」
「いえ、わたくしはただの側仕えでして、雑務での奉仕しかできません。もっと上の奉仕をさせていただきたいのです」
「もっと上の奉仕とはなんじゃ?」
一瞬、巫女の言葉が止まった気がした。ほんの数秒で、もしかしたら気のせいかも知れない。けれど、その一拍を置いて、巫女はまた鈴の音のように響く声で言う。
「秋穂ノ比売神様には人間と番になり、お子をなしていただきたく存じます」
「うなっ!? ま、待て、お主、今なんと?」
「人間との子供を産んでいただきます。これが最も神力再起に効果的な手段となっております」
「こ、子供を……!? なんじゃ、そんな話聞いたことが……」
巫女の話を受け入れまいと拒むが、けれど女はそんな私に『神と人間との融和』だとか『古来ある奉納の儀式』とか『千年以上続く村の習わし』と懇切丁寧に説明してきた。
しかし人間との番う――性行などはもちろん経験が無く、同じ神相手でもそんなことをした覚えのない私には、いささか難しい言葉が多すぎた。なんだ『三夜続く交じらいの末の飛沫はやがて田畑をかつてないほど耕し』って。飛沫とは何ぞ?
「わかっていただきましたか?」
「その……そうじゃな。必要なことと言うのはわかったのじゃが」
「ありがとうございますっ! それでは至急、村から選りすぐりの男を――」
「待て待てっ、男を呼ぶんじゃない!」
やっと立ち上がった巫女は、そのまま部屋を去ろうとしたが、このまま行かせてしまっては逃げられなくなる。
「どういたしましたか?」
巫女は白と赤の衣装によく似合う、長い黒髪であった。ふむ、慎ましい大和撫子といった容姿である。だがこの女子は、このままでは私に番いとなる男を連れてきてしまう。
「……嫌じゃ」
私は、なるべく素っ気なく、取り付く島もないように言った。けれど巫女は少しも退く様子がない。
「嫌ですか? わたくしが選ぶ男では、秋穂ノ比売神様をご満足いただけないということでしょうか? でしたら村中の若い男を全員連れてきますので、秋穂ノ比売神様から直接気に入った一名を選んでをいただければ……」
「それも嫌じゃっ!!」
「……少し年配が好みでしたか?」
「違うわいっ!!」
思わず声を張り上げてしまった。巫女は、今度は少しだけ驚いていたが。
「もしかして一人を選ぶのではなく、複数気に入った男を……? それはそれで、お子がたくさん……」
と小声でつぶやいていたので、こいつはもしかすると私をあまり敬っていないんじゃないだろうか。私をなんだと思っているのか。
「ち、違うのじゃっ! 私は……人の子など孕みとうないのじゃっ!!」
遠回しに拒否しても伝わらないので、私はあきらめてハッキリと言った。
もしかすると長年続いてきた伝統を否定することで、邪神認定されて村から追い出されるんじゃなかと怖かった。
それでも子供を孕みたくないのだから仕方がない。
私の拒絶に、側仕えの巫女は一瞬だけ戸惑って、けれど直ぐにその澄まし顔を取り戻した。
「人間の子を孕みたくないというのは……その、なんですか。若い男も、年配でもが好みではないと、そう聞いたときに気づくべきところを、大変失礼いたしました。まだ生殖能力のない男児をご所望とのことですか」
「たわけっ!!」
この女子は、真顔でなんと恐ろしいことを言うのか。
「そんなこと言っておらんのじゃっ! そんな童を無理矢理連れてきて、やれ神の番などと! どこぞの《《いかれた》》村の風習と変わらんっ、生贄のつもりかっ!?」
「生贄などと……秋穂ノ比売神様は連れてきた男児を愛でてくださるのではないのですか?」
「愛でんわっ!!」
「…………その、あくまで人間をより身近に置き、ご寵愛いただくことで神力を再起していただくことが目的ですので……愛でていただけないのであれば……はっ、もしかすると、そういった特殊な愛情表現を望まれていると? 抵抗する力のない男児を一方的に屈服するような愛のない交渉を――」
「お主、自分が何を言っているかわかっておるのかっ!?」
それでは、よいよ神への供物ではないか。こいつのがよっぽど邪の者だ。巫女服なんか着ているが、悪魔か何かが化けていても不思議ではない。
「そういう意味ではなく……そもそもな、神である私と人間が番じゃと? そこからまず考えられんよ」
「秋穂ノ比売神様は、神は人間と番わないとおっしゃられるのですか?」
「ま、まあ、そうじゃな。普通はそうだろ。悪いが、住む世界が違うのじゃよ」
「……ずいぶんと考えが遅れていらっしゃいますね。まるで多様性に対する理解がないようで」
そう言って巫女は、大袈裟に呆れた仕草をする。こやつ、やっぱり私を神と崇めているようで、あまり敬っていないような。
「よろしいでしょうか、秋穂ノ比売神様。世界の神々は往々にして、人間と交わり子を成しております。もちろん日本でも例外ではありません」
「そうかも知れないがあくまでそれは特殊な事例じゃろ」
「そういった一例も、あるべき可能性として考慮するのが多様性なのですっ! 第一に、前任の早津稔ノ比売神様でありましても人間と子を成されて、今は産休中なのですよ」
「待ていっ!? そうじゃったのか!? 私は、早津先輩の産休で代わりに呼ばれただけなのか!?」
この村を以前任されていた神が不在になったと急遽派遣されてきたが、まかさ産休であったとは知らなかった。そんな仕組みがあることにも驚きである。
「いや待て、それだと私も子をつくるとおかしいのではないか!? それだと私も……」
「早津稔ノ比売神様は十五人目のお子様ですので、今回は特例として五年間のお休みを取られております。しかし基本的には子育てはわたくしのような側使えが行います故、秋穂ノ比売神様につきましてはご懐妊、ご出産の後もご安心して本業を続けていただけます」
「十五人!? 産みすぎではなかろうか……」
しかもそれで五年もまとめて産休とは、かなり雑な制度ではないだろうか。普通一人産む度にもらうものじゃないのか。ただ村の決まり自体には口出ししても仕方がない。
「む、そうなると私の任期は五年なのか?」
「はい、五年間はこの村で子を成し続けていただきます。五年の孕み勤めです」
「ちょっと待つのじゃっ!! 最早お主、私の仕事を子作りと断言していないかっ!? 私は豊穣の神だぞ!?」
「……子を成すことが、豊穣に繋がるんです。さっきも説明しましたよね?」
ため息交じりの巫女の顔には、呆れを超して怒りすら見える。私が間違っているのか? 人間相手だけど、少し怖いので話を逸らそう。
それに先達の実績がある以上、この話題では押し切られてしまう可能性がある。しかし五年間散々孕まされたあげく村から追い出されるなんて、断固として拒否しなくてはならない。
「でも待て、それだと男児では結局ダメではないか? いや、私は童を所望しているわけではないが……子は成せないじゃろ? だいたい大人の男相手だからと言っても、そう都合良く子が成せるかなどわからんしな」
「そうですね。もちろん子を成していただくことは、神様と人間が手を取り合い愛し合う形であり、神力の再起に置いてもっとも有用な手段としております。ですが子が成せない場合でも、神様と人間が互いに深く愛し合うことで同等に近い効果が得られることを確認しています」
巫女は淡々と言いながら、最後に一度微笑んだ。
「ですから安心して、秋穂ノ比売神様は正直な趣向でお相手を選んでいただけます」
「そ、そうなのか。待て待て、それだと私が本当に男の童を選ぶようじゃないか……? 違うからな? 選ばんぞ?」
とってつけたように視線を逸らす巫女が、なにか私をおちょくっているように思えた。気のせいだよな。
「そうじゃがな。私が選ぶと言うが、相手の方はどうなのじゃ? 気のない相手と無理矢理番うなど、私が神で、相手が人間だとしても考えられんのじゃよ。そういうのは……双方の同意あってからじゃな、当然!」
「ご心配無用です。秋穂ノ比売神様は大変魅力的なお方です。選ばれた者が誰であれ、喜んで秋穂ノ比売神様のお相手を全力で務めるでしょう」
「え、魅力って……そうかの? まあ、神だし、人間からすればそうかもしれんが」
「秋穂ノ比売神様は神様でなかったとしても、とても魅力的に感じますよ。美しい顔立ちに、ころころと可愛げのある表情ばかりで、自然と引きつけられます。きっとどなたであっても、すぐ秋穂ノ比売神様に恋い焦がれ、愛をささやくようになるでしょう」
甘くさえずるような巫女の口調に、思わず背がぞくりとした。
「ほ、褒めすぎじゃないか? まあうん、悪い気はせんが……」
「チョロいのもまた可愛らしいです」
「ちょろ……? 待て、それはどういう意味だ?」
私は神であるから、あまり人間の流行言葉には詳しくない。このような古い伝統が続く村ではあまり困ることもないけれど、時たま若者達の会話には意味のわからないものもある。
巫女も容姿からすればまだ十の後半か、二十の手前。盛りの若者と言って差し違えないだろう。だから私相手で言葉には気を遣っているのだろうが、自然とそういう言葉が口に出てもおかしくなかった。
ただし問題なのは言葉の意味なのだが。
「いえ、たいした意味ではありません。ただ秋穂ノ比売神様を褒め称えるつもりでして」
「……嘘じゃ」
涼しげな顔こそ変わらないものの、一瞬逸らした視線からは彼女が私を小馬鹿にしている真意が見て取れた。上面だけ取り繕って、内心は適当な男に孕ませて収穫だけ増やそうという魂胆に違いない。新米だからと言ってそこまで舐められては神の名折れではないか。
しかしどうしたものか。このまま人の子など孕みとうないと拒絶するだけでは、まるで私が駄々をこねるように扱われて終わりではないか。もっとこう、この巫女を困らせてやりたい。
「……村の者であれば誰でもと言ったな。よし、決めたのじゃ」
私の言葉に、巫女は少しだけ頬を緩めて「本当ですか」と喜ぶ。馬鹿者め、今からお主のその綺麗な顔に苦悶を浮かべてやろう。
「お主じゃ、巫女」
「わたくし……わたくしがどうかしましたか?」
「私の番には、お主を選ぶぞ。お主も村の者じゃ。それにあれだけ多様性がどうのと言ったからには、まさか性別どうこうで拒むこともせんじゃろうなぁ? 子を成さずとも良いと先ほど聞いたばかりじゃしなぁ」
にやりと、私は笑ってみせる。
すべて彼女が言った言葉を返しただけだ、これには巫女も反論できず困り果てるに違いない。そのままつけ込んで、番や子を成すという話もうやむやに断ってやろう。
そして、巫女はやはり今までで一番その顔を歪めた。けれど、困っていると言うよりはただ驚いているだけというか。
「……いいんですか、わたくしで?」
ほんのり赤らんだ頬と、ゆるんだ口元はどこか嬉しそうだった。――何故じゃ!?
巫女装束を身にまとったうら若き女子は、白い肌に黒く長い髪というある種飾り気のない風貌であったが、それであって人間にしては中々目の見張る整った顔立ちでもあった。
ただし乏しい表情と、考えの読めない言動の多さから人間味が稀薄で、なんだか神である私からしても親しみを感じにくい。
「わたくしが、秋穂ノ比売神様と番に……」
そんな彼女が、相貌を崩してはにかんでいた。
「そのなんだ、お主も突然そんなことを言われると困るだろう? じゃからな。村の者達も突然私の番に選ばれれば困惑すると思うのじゃ」
「秋穂ノ比売神様は今し方、わたくしを選んで下ったのではないのでしょうか? ……まさかまた直ぐ別の者を選び直したい、ということでしょうか?」
「いや、そういうわけではなく……」
「そうですよね。それでは困ります」
困ります。――よし、その言葉が聞きたかったのだ。
予想とは違った反応だったが、澄まし顔の巫女を困らせたならば成功である。このまま、私も同じく困っているからのだからと子を成すという話はお終いにしてもらおう。
「冗談であっても秋穂ノ比売神様の番として選ばれた身の上では、少々胸を傷つけられた思いでした。これが愛なのでしょうか」
「うむむ? ちょっと、お主、なんだ? 何を言っているんだ?」
「不詳ながら、秋穂ノ比売神様に選んでいただいた以上、全力で愛を育み、神力再起のために我が身を捧げいたします」
巫女はそう言うと、また最初のように正座して深々と頭を下げた。三つ指をついている。
「お主、正気か? 本当に、私と番になる気なのか?」
「当然です。元来巫女とは神様に添い遂げる神職でもあります故、覚悟も準備も整っております。純潔ですので、ご安心ください」
「いや、純潔ってその……ほら、お主の意思はどうなんだ? 巫女だからと言って、私が比売神である以上、番に選ばれるとは考えていなかったのだろう?」
「はい、想定してはおりませんでしたが」
そのはずだ。さっきまで、どこぞの男をつれて来ようとしていたばかりじゃないか。それがなんだこの身の変わりようは。
「なら嫌じゃないのか? 巫女だからって、自分の気持ちを抑えて神に従するものではないぞ。私は気のない相手と無理矢理というのはごめんじゃ。正直になれ」
「……先ほども申したとおりです。秋穂ノ比売神様に心引かれぬ人間はおりません。わたくしも、秋穂ノ比売神様に心奪われた一人なのです」
「ふぁえっ!? ……でも、さっきまでそんな様子は」
「ご無礼な態度を取らぬよう、必死に気持ちを抑えておりました。ですから、自分に正直ではなかったのは先ほどまでの方です。今のわたくしこそ、正直なわたくしでございます」
どうしたものか。困らせるつもりで冗談を言ったつもりが、逆に私がとても困ったことなってしまった。しかしこんなことを言われると、今更冗談だったとも言えない。
「……わたくしのことを愛でくださいますか?」
「えっ、それはその……」
すっと頭を上げた巫女が、潤んだ瞳で私を見つめてくる。
「選んでくださったのですよね? 秋穂」
「あ、秋穂っ!?」
「そう呼んでもよいとうかがいましたが……番になりましたので、せっかくですから」
「言ったけど……言ったけど……」
いきなり呼び捨ては違うのではないか。私は新米だけれど、神なのだ。
「わたくしでは秋穂に子を孕ますことはできませんが、その代わり秋穂に満足して抱けるよう全力で愛します」
「愛するってその……」
「……ぶしつけながら、わたくしにも秋穂の愛をいただけますと、この村の豊穣に繋がりますので」
「お主、ちょっとずつ近づいて来ていないか? 袴の帯をほどいてどうする気じゃ? お、おい、何か言ってくれっ」
とろけるような笑みを浮かべた巫女が、私に迫ってきた。
◆◇◆◇◆◇
翌年、私が見守る村は歴史的な大収穫であった。
屋敷に収まりきらないほどお礼に持ってこられた品々に戸惑う。しかしこの一年間、私と巫女の女子との間にあった数々の事柄を思えば、これくらいの成果があって然るべきなのかもしれない。
今日も寝不足で体が少し気怠い。
収穫祭の夜だからと巫女がいつも以上に元気だったせいだが、彼女が精力的であるのは昨夜だけの話かと言えばそうでもない。
「お主は本当にっ、ほとんど休む間もなく私を……」
「秋穂を? わたくしが秋穂をどうしたというのですか? 毎夜、喜んでいただけるよう全力で尽くしておりましたが、何かご不満でもあったのでしょうか?」
「それじゃっ!! ちょっとは休ませろいっ!!」
「終わった後はいつもぐっすり休まれていたかと思いますが」
あれは休んでいたのではなく、ほとんど気絶か放心していたのだ。この人間は本当に恐ろしい。
平然と言ってのける巫女はいつものような澄まし顔だったが、わずかに赤みの差した頬は照れがあったように思う。よかった。無感情であの一年間の夜を総括されていたら、私だけずっと恥ずかしい思いだったのかと納得できない。
しかし来年もこんな毎日が続くのだろうか。正直、体が保つかわからない。
「……次の収穫は同じ量とはいかないかもしれんな」
「なるほど。それでは、番を私以外にも何人か増やすというのはどうでしょうか? そうすれば来年はさらに数倍の作物が望めるのではないかと」
「お主、私を臨終させる気か!?」
巫女一人で十分散々なのに、これであと何人も相手を増やすなど正気の沙汰ではなかった。
だいたい――。
「お主は私の番じゃろ……それを他にも増やすのは……違うんじゃないのか? それともなんだ、お主は私の番が他に増えていいというのか?」
巫女からすれば、私はあくまで豊穣をもたらす神でしかない。番となったのも村のためであって、他の人間が私の番としても何も思わない。――そういうことなのだろうか。
「ふふ、冗談ですよ。秋穂を他の誰かに番わせたりなんていたしません。……ですから秋穂も、わたくし以外の人間と隠れて番って、子を孕むなんてやめてくださいね?」
もちろん、冗談だということはわかっていた。変化の乏しい顔で、いつもひょうひょうとした巫女であるが、意外と茶目っ気の多いやつである。
それでもどこかほっとした私は吠える。
「ええい、人の子など孕むかっ!! 私の相手はお主だけで十分じゃっ!!」
おそらく、次の年も豊作だろう。
私の体が保てば。
FIN.
最後まで読んでいただきありがとうございます。
他にも百合小説をいくつか投稿予定ですので今後ともチェックしていただけますと喜びます!
11/20に百合長編の書籍も発売予定(下のランキングタグ部分に詳細あります)ですので、こちらも是非のぞいてみてください!!





