表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/132

第99話 カップルダンジョン視察

到着したカップルダンジョンは、9級ということもあってフェンスすらない。

車の窓から見ても、淡い青色の結界膜がそのまま入口になっており、『入ろうと思えば誰でも入れるのでは?』と錯覚するほど開放的だ。


だが周囲の雰囲気は、どう見ても『普通のダンジョン』ではなかった。

ハート型のオブジェがさりげなく置かれ、スイーツ店、カフェ、アクセサリー店が並び、どこもカップルで賑わっている。


極めつけは、入口近くに掲げられた看板。


『カップルダンジョンへようこそ♡』


……いや、もうどうなのよ?


探索者向けの売店もあるにはあるが、品揃えは完全に『お土産屋』寄りで、ペアグッズや記念スタンプが目立つ。


「では、このダンジョンは二人一組での入場が前提になっておりますので……セリフィアさんは一度お戻りくださいませ。」


詩乃がそう言うと、セリフィアは名残惜しそうに俺を見た。


「マスター……中に入ったら呼んでくださいね。」

「うん。すぐ呼ぶから大丈夫だよ。」


セリフィアが小さくため息をついたのが気になったが、スマホを取り出し彼女を編成から外すと、すぐに彼女の姿が消えた。


「では、中村様。参りましょう」

「あ、うん。」


車を降りた瞬間、詩乃が自然な動作で俺の腕に絡んできた。

ゲームキャラじゃない女性に腕を組まれるなんて、久しぶりすぎて心臓が変な跳ね方をした気がした。


「うふふ、カップルダンジョン。楽しみですね。」

「まぁ……うん。ちょっと楽しみではある。」


詩乃と腕を組んで歩いていると、周囲のカップルが、ちらちらとこちらを見てくる。

例えるなら「お?」とか「あら……」みたいな視線。


アラフォーのおっさんと若い女性。

下手すればパパ活みたいにも見えたりするのかもしれない……が、詩乃の雰囲気がそうは見せていないのだろう。だから逆に不思議な組み合わせに見えて視線が集まるのかもしれないが。


「見てください。あのお店、名物が『二人で食べるチーズケーキ』ですって。」

「うわぁ……なんかペア推しがスゴイなぁ……」


ダンジョンの入り口までの店を冷やかしながら進む。


結界膜の前に係員らしき人はいないので、探索者アプリで入場申請を済ませる。

詩乃はスマホを出す気配がなかったので尋ねると「従者がすでに申請済みです」とのことだった。



「さて中村様。入る時に密着していないと面倒なことになることもあるらしいので、このまま腕を組んで入りましょうね。」

「あ、はい。」


詩乃は『これが正しい距離です』と言わんばかりに落ち着いているので、俺も平然を装いながら結界膜をくぐった。


すぐに空気が変わった。


ドーム球場のような広い空間。

天井や壁の隙間から淡いピンクや金色の光が漏れ、ほんのり甘い香りが漂っている。

建物がいくつも立ち並び、どれもテーマパークのアトラクションのような外観だ。


探索者カップルらしき人たちが「どれに入る?」と楽しそうに相談している。


「テーマパークみたいだ……本当に、ダンジョンなのかここ。」

「ええ。れっきとしたダンジョンですよ。二人で協力して進むことが前提という特殊なダンジョンです。面白いですね。」


詩乃が、軽く俺の腕を軽く引いた。


「中村様、中村様。あの建物はなんでしょう! 私、気になります!」


テンションが高い。

俺の腕を引っ張る力も少し強い気がする。

建物の前に行くと、可愛いイラストが描かれていた。


「え~っと……多分、迷路? じゃないかな……いや、完全にアトラクションじゃん。」

「面白そうです!」


「えっと、ま。とりあえずセリフィアを呼ばないと……どこか人目のない所は――」

「うふふ。」


詩乃が小さく笑い、すっと距離を取った。

俺はスマホを取り出そうとポケットに手を伸ばす――


……ん?


ない?


スマホが……ない?


「中村様。これ、なーんだ?」

「……え?」


気づけば、詩乃が少し離れた場所で俺のスマホをひらひらと揺らしていた。


「えっ、ちょ、えっ? ……なんで!?」

「ふふ、中村様。はい、どうぞ。お返ししますね。」


すぐに俺のスマホを返してくれた。

だが、スマホを握る手を離さない詩乃。


「もし、私が『敵』だったら……どうなっていたと思います?」


声は柔らかいのに、鋭さを感じる内容。


「……」


うまく言葉が出てこない。


「ちなみにですが――セリフィアさんを呼ぶためにスマホを取り出す瞬間でも奪える自信がありました。それほどまでに無警戒でしたので。」


頭が追いつかない。


「中村様。あなたは強い方です。

ただ――能力を使う前にスマホを奪われたら攻略の可能性が大きく上がるという弱点があるのに、あまりにも無警戒です。」


詩乃はスマホをそっと離し、俺に返した。


「もちろん、私はあなたに敵意などありません。

ですが、もしこれが『敵』だったら?」


胸の奥が冷たくなる。


「……俺、何も……できなかった。」

「ええ。私を半殺しにして奪い返す、なんて選択もできなかったでしょう。」


詩乃は一歩近づき、俺の目をまっすぐ見た。


「中村様。あなたは強い。あなたを知る者は皆、人類最強だと認めるでしょう。

ですが――あなたには、まだその立場に立つ準備ができていない。でも『敵』は待ってくれません。

そのことを、どうか理解ください。」


胸が締めつけられる。


悔しさでも、恥でもない。

ただ、自分の無自覚を思い知らされた。


「……俺、全然分かってなかったんだな。」

「ええ。だからこそ、このダンジョンに来たのです。」


詩乃は優しく微笑む。


「ここは9級。危険度が低く油断しやすい。

『二人で進む』という特殊性ゆえに、スマホを奪う機会も多い。

あなたの弱点を浮き彫りにするには最適でした。」

「弱点……」


「はい。中村様は『強さ』を自覚し始めました。僭越ながら次は『弱さ』を知っておくべきかと。」


その言葉は、深く刺さった。

詩乃は腕を組み直し、軽く首を傾げる。


「では目的も達成しましたので……車に戻りますか?

今回のような事態に対するサポート体制についても検討してありますので、帰り道にでもご説明させていただきます。

……それとも私と共鳴回廊ダンジョン――カップルダンジョンを攻略しますか?」


俺はスマホを握りしめたまま、ただ出口の方を指すことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今年ラスト更新お疲れ様です。 彼女の言ってる事はいちいち最もなんですよね。最もなんです、が…。なんというかこう、己の思うまま動くように『調教』してるようにも映るんですよね。 小市民な自分としては、こ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ