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現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


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第98話 飛び越えた道と、共鳴の誘い

「さて、思ったよりも早く視察が終わりましたね。いかがでしたか?」

「……貴重な機会を、ありがとうございました。」


なんとなく思うところがあり、思わず真面目に返してしまった。

自分でも驚くほど素直な声だったらしく、詩乃がクスリと笑う。


「普通の探索者に失望されましたか?」

「あ、いや。失望だとかそんなことは無くて……その、なんというか――」


言い淀んで、詩乃を見る。

この人もD1免許保持者で、今日視察した探索者たちと同じように、いや、それ以上に必死でダンジョンを越えてきた人だ。


そう思うと、誤魔化すのも違うような気がする。


「……俺が、こんな力をもってていいのかな? って思ってました。

努力したワケでもなく、偶然……気づいたら持ってた力。それで必死に努力してる人たちを飛び越えてしまって、果たして良いんだろうか。って。」


俺の言葉に、詩乃は少しだけ目を細めた。

責めるでも慰めるでもなく、ただ事実を見つめるような視線。


「中村様。『努力していないのに強い』。

そのことを、後ろめたく思う必要はありません」


ゆっくり、丁寧に言葉を選ぶように続ける。


「力の得方は、人それぞれです。

努力で掴む者もいれば、才能で掴む者もいる。

偶然、運、環境……理由は様々ですが、

『手にした力をどう使うか』だけが、本当に重要なのです。」


俺が黙ると、詩乃は柔らかく微笑んだ。


「それに――あなたは、努力してきた人を見下したことなど一度もありません。

むしろ敬意を払っている。その姿勢こそが、力を持つ者に必要な資質です。」


そして、ほんの少しだけ声を落とす。


「……自覚なさってください。

あなたは『飛び越えた』のではなく、『別の道に立っている』のです。」


胸の奥に、静かに落ちる言葉だった。

袖をそっと摘む感覚に気づき、顔を向けるとセリフィアの顔。


「マスター……そんなふうに思っていたのですね。」


その声は、驚きよりも、どこか切なさが混じっているような気がした。


「マスターが強いのは、悪いことではありません。

誰かを傷つけたわけでも、奪ったわけでもない。

ただ……マスターがマスターであるだけです。」


そして、真っ直ぐに見上げてくる。


「私は……マスターが強くて、嬉しいです。

だって、マスターが無事でいてくれる確率が高いんですから。」


セリフィアらしい、純粋でまっすぐな励まし。

2人の肯定を受けて、気持ちが少し軽くなる。


「少し過酷なところを視察に行きましたので、刺激が強かったかもしれませんね。」


詩乃が小さく笑う。

そして、ふと遠くを見るように呟いた。


「……ダンジョンとは、いったい何なのでしょうね。」

「え?」


「今回、視察した2つのダンジョンは、魔石採取の効率は決して良くありません。

ですが、あの場所で過ごすと――他ダンジョンより『強くなる』のです。」


詩乃の声は、独白のように静かだった。


「罠ダンジョンでは罠の察知が鋭くなり、人形の巣では戦闘力が上がる。多数の敵への対応力も、驚くほど向上します。」


詩乃は俺に真っ直ぐ見た。


「私には、ダンジョンに人間を育てる意図があるとしか思えません。」


強い眼差し。

彼女は俺と違い、多くのダンジョンを越え、天哭の塔で命を賭けてスキルを得た人間だ。

その言葉を否定できる要素は、俺には何一つない。


詩乃は、そこで一度だけ息を吸い――

いつもの落ち着いた声に戻った。


「中村様。もしよろしければ……もう一つ、視察していただきたいダンジョンがあります。」

「え?」


詩乃は、先ほどまでの柔らかい表情から一転、どこか含みのある微笑みを浮かべた。


「先ほどの二つとは、また違い『探索者の本質』が見えるダンジョンです。

危険度は低く、観察にも適しています。私はこの場所にも『ダンジョンの意図』があるように思えるのです。」

「ちなみに、どんなダンジョンなんです?」


「私もまだ入ったことは無いのですが――『共鳴回廊ダンジョン』と言われていますね。」

「共鳴回廊?」


共に鳴る? 響き合う?

名前だけでは、まったく想像がつかない。


詩乃は、わざとらしく首を傾げて言った。


「俗には『カップルダンジョン』などと呼ばれているそうですよ?」

「「は?」」


俺とセリフィアの声が完全に重なった。


「2人で協力して進んでいくアトラクションのような仕掛けが多いそうです。

罠にも、なにやら課題をこなさないと出られない部屋があったりするとか。」


それ、アレじゃん。

ホニャララしないと出られない部屋じゃん。


「そこに向かう必要性が感じられませんが?」


セリフィアの声が、いつになく冷たい。

詩乃はコロコロと笑った。


「うふふ、私は行っておくべきだと思っていますよ。

セリフィアさんもご一緒なのですから、おかしなことにはなりません。」


笑っているのに、言っている内容は妙に真面目だ。

詩乃はセリフィアに向き直り、静かに告げる。


「中村様は確かに強いお方です。

ですが『無敵の力を振るえるか』というと、そうではない場面がある。

それを知っていただくのは、早い方が良いのです。

その方が――中村様のためになります。」


「……何か考えがあるようですね。全てはマスターの為だと?」

「はい。」


即答だった。

その後、詩乃は少しだけ考え込み――


「これは共有しておいた方が良いと思いますので……セリフィアさん。お耳を」


セリフィアは一瞬だけ迷ったが、すぐに耳を寄せた。

詩乃が何かを囁く。

俺は置いてけぼりで、胸の奥に不安が広がる。


耳打ちが終わると、セリフィアは渋い表情になった。


「……なるほど。言わんとすることは分かりました。」


セリフィアが顔に手を当てて熟考を始める。

やわら30秒ほど考えたかと思うと。決意したように顔を上げた。


「マスター。カップルダンジョンに行きましょう。」

「えぇ?」


もう一つダンジョンを視察することになった。

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