第5話 喉元過ぎれば…なんとやら
日常に戻って1週間も過ぎてみれば、ソシャゲ画面が少し変わって見える程度の事はあっという間に慣れ、それが通常となっていた。
ただ、これまでの習慣となっていた化石カニを割りに行く趣味は、まだやる気にはなれない。
『洞窟ダンジョンは怖い』そんな思いが刷り込まれてしまっているのだ。
内心では『怖い思いをした』というのも徐々に『貴重な体験をした』に変化してきているが、人間、負の体験は印象と記憶に残りやすくできているものだ。
ただ、まだ『ダンジョンは楽しい』という印象の方が強く、洞窟ダンジョンが苦手なだけなので、他のダンジョンについての情報を漁り始める。
「へ~……部活動ダンジョンなんてものもあるのか」
ほぼほぼ安全と言って良い10級ダンジョン。
その中には、ダンジョン近隣の中高生が部活動に使っているダンジョンまであるようだ。
住んでいる所の最寄りの部活動ダンジョンを探してみると国の発信する情報だけでなく、親御さんたちが子供の安全の為に自主的に集めた情報なども多く見つける事ができて非常に参考になる。
「は~……逃げるモンスターを捕まえて倒すのか」
最寄りの部活動ダンジョンは砂浜が広がる1階層しかないダンジョンで、多く遭遇するのは「貝殻バニー」「砂モグラ」
貝殻バニーは貝殻に動物的な二足歩行の足が生えているモンスターで、探索者が存在に気が付いていない場合、死角から貝殻でアタックしてくるが、探索者に気が付かれて攻撃されそうな場合はダッシュで逃げるらしい。
逃げに入った貝殻バニーは虫網で捕獲でき、捕獲後は討伐も簡単。
ダッシュスピードも中高生が砂浜で全力ダッシュをすると追いつける程度の速度なので、楽しく足腰を鍛えられて良いとまである。
部活動では中高生たちはクーラーボックスなどに貝殻バニーをまとめておき、担任の先生がまとめて処理を行うようだ。
「えっ? 貝殻バニーって2分の1の確率で魔石が手に入るの? 50%?」
洞窟ダンジョンの魔石ゲットできる確率の低さよ……不人気の理由が浮き彫。明確に理解できてしまう。
小さな魔石とは言え、魔石は金になる。
公営の買取所だけではなく、法人が運営している買取所も多々ありショッピングモールなんかにまで入っていたりする。
趣味程度のダンジョン探索とはいえ実利が伴ってしまうとなれば、やはり化石カニ割りは趣味じゃなければやれないのだ。
なお、貝殻バニーから取れる魔石の価値は500~1000円の値が付くようだ。
2回の全力ダッシュで、その値段なら、運動もできて金にもなる。そりゃ人気も出るわ。
砂モグラは時々砂から顔を出してボーっとしているらしいく、見ている分にはほぼほぼ無害。近づくと逃げるか暴れるので、その場で討伐推奨。コツさえ掴めば虫網で捕獲が可能とあるが、動物を殺す感がある為、部活動では放置されることが多いらしい。
中高生が避けている分、中高生以外の探索者の目的は砂モグラの方が多いとある。
「住み分けができてるのがイイネ!」
オッサンが自ら中高生と関わりたいとは思うはずなどないのだ。
トラブルは嫌だ。怖い怖い。コドモ怖い。
俄然、部活動ダンジョンに興味が湧いてくる。
だが……まだダンジョン怖いと思う気持ちもある。
☆★ ☆ ★
――怖い思いから3週間後の週末。
俺はダンジョンの砂浜に立っていたのだった。
「うーん。この人気っぷりよ。」
砂浜を見渡せば、土曜にも関わらず部活動中の中高生の集団や、家族連れ、趣味の個人勢などなど。パっと見2キロ程の砂浜の各所に人がいるのが目に入る。
洞窟ダンジョンは本当に稀にカニを割る人がいたくらいだったので、不人気っぷりが痛いほど理解できてしまう。化石カニ……楽しいのに。
なんとなく愛着の沸いていた洞窟ダンジョンとの差にガックリときてしまうが、それはそれ。
新しい砂浜ダンジョンを経験していることにテンションが上がらないワケもなし。
そして、テンションの上がったオッサンのやることなど決まっている。
「こんにちは~」
「あ、どうもこんにちは~」
趣味の個人勢っぽいオッサンに声をかける! だ!
アラフォーの社会人ともなれば他人に声をかけてみることに抵抗は少ない。
会社勤めをしていれば初対面の人に接する機会なんて嫌という程あるし、それに、オッサン同士であれば気易く話せたりするものなのだ。
個人勢っぽいオッサンは、モップの先に金属網を付けたような道具で、砂を掬ってはふるいにかけて砂を落とす動作を繰り返している。
「このダンジョンに初めて来たんですけど、何をされているのか気になりまして……ソレって何をされてるんですか?」
「僕は石探しですね~後、モグラがいたら退治です。」
「えっ? 石探し? ですか?」
「えぇ。たまに見つかるんですよ、こんな石が。」
ポケットから取りし手渡してくれた石を受け取って観察する。黒っぽい水晶のような石だ。
「は~……これは綺麗な石ですね~」
「えぇ。それも魔石なんですよ。大体2000円くらいの値がつきますよ。」
「えっ? 2000円? 結構とれたりするんですか?」
「運が良ければ1日2~3個とれることもありますけど……まぁ空振りの方が多い感じですね。」
「は~……これは貴重なものを見せてもらいました。有難うございます」
「いえいえ。」
お礼を言って黒水晶のような魔石を返す。
「まぁ、モグラがかかることの方が多いですけどね、お恥ずかしながら、どうにも退治するってのが苦手でしてね。」
「あ~……それ分かります。まだ魚とかカニみたいなモンスターであれば罪悪感薄いんですけど。」
「そうなんですよ~。まぁ、かかっちゃったらヤりますけど、好んでは……ね」
「えぇ、えぇ。」
「「あ。」」
話をしながらも作業を続けていたオッサンの操る金属網の中で砂モグラが暴れていた。
「「……」」
ふと、見つめ合うオッサンとオッサン。
個人勢のオッサンは、諦めたように腰に下げていた小ぶりな鉈を手に取った。
「……かかってしまったので、まぁ、はい。」
「えぇ、ですね。はい。」
そして暴れる砂モグラめがけて鉈を振り下ろす。
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< 75 >
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「ん?」
砂モグラに鉈が当たった瞬間、俺の目には見覚えのあるビックリ系の吹き出しと75という数字が飛び込んできた。
なんや?
なんか今、ダメージエフェクトが見えたんやが?
なんで?




