第25話 これはキノコですか?
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ミレイユが戦闘前に立っていただろう位置にはおらず、
樹のモンスターの隣で、杖を振りぬいた体勢で立っていた。
そして、樹のモンスターの頭部は――そこには、もう無かった。
頭を失った樹のモンスターは、膝から崩れ、ゆっくりと倒れた。
その姿を見届けたミレイユは、俺の方へ向き直り、俺の無事を確認して小さく安堵の息を吐く。
そして、モンスターが触れただろう杖に異物が付いていないかを確認し始めた。
へ~。ミレイユの杖って殴打に使うんだ。
なんか魔法でも撃つのかと思ってたよ。杖だもの。
恐怖から解放されても良いのか、感情が迷子になった俺は、ぼんやりそんなことを考えていた。
「マスター。お疲れ様でした。何事もなくて良かったです。」
腕の中から聞こえるセリフィアの声。
そうだった。ポーションを飲ませるのに肩を抱いていたんだった。
「あ、うん。ありがとう。」
美少女との距離が近い事に、残っていた恐怖が霧散してゆく。
肩を抱いたまま、一度、深呼吸をすると、セリフィアの香りが心地よい。
思考が、いつもの自分に戻っていく。
「あなた様~! 『残渣の再構成』が動きそうです!」
ミレイユの声に、完全に正気に戻る。
『残渣の再構成』が動くということは、アイテムが手に入る可能性がある。
もしかすると、まぼろしキノコが手に入るかもしれない!
「行こう。セリフィア!」
「はい!」
駆け足でミレイユのところまで向かうと、彼女はモンスターが立っていた中空を見つめていた。
視線を追ってみるが、俺には何も見えない。
「うん……うん。いけそうですね。」
ミレイユは中空に手を伸ばし、何かをコネコネとこね始める。
コネにコネたかと思ったら、そのコネた何かを地面へ埋めた。
すると、モコっと地面が盛り上がり、そこを軽く掘りはじめるミレイユ。
なんと、そこにはアイテムが。
「んんっ!?」
俺の頭に疑問符が浮かぶ。
というより疑問符しか浮かばない。
なぜ地面からキノコ、ポーション、中身の入った試験管が出てくるんだ?
いや、キノコは分かる。土ならワンチャン理解できる。
だがポーションとか試験管。お前だ。なんで突然ガラスが、そんな形で出てくる? そしてその中身はどうした!
『魔力干渉解析』――」
セリフィアが発掘品にスキャンをかけている。
うん。俺も知りたいわ。
「これは……私達のよく知る、万能キノコと、ポーション。そして魔力水ですね。このダンジョンでも手に入るとは。」
いや、そこじゃない。
いや待て、この場合は俺が違うんだ。
うん。これは普通。俺が間違っている。
ミレイユのスキルが作ったアイテムだ。こういうこともあるのだ。うん。
無理矢理、心を納得させる。
とりあえずアイテムが手に入った。やったね!
「ありがとうミレイユ! コレが『まぼろしキノコ』かもしれない!」
「いえ、お安い御用です……ただ、これはまぼろしキノコなんでしょうか? まぼろし……と、言う程の物でもないような……」
そうだ。
セリフィアがスキャン結果を言っていたが『万能キノコ』と言っていた。
スマホを起動し、持ち物で『そざい』から万能キノコのアイコンを確認してみるが、なかなかよく似ている。
アニメをリアルに持ってきたら、こんな感じだろう。という印象だ。
ちなみに万能キノコは、合成でポーションや解毒剤の材料として使うから、ありふれた素材アイテムで、俺は30万個以上も持ってるくらい。
……だってポーションなんて使わないんだから貯まるよね。
「この茸が、まぼろしキノコである可能性はあります。
マスターの仰られるモンスターの名称も、スキャン結果と違うことが多いですから、
私達の言う万能キノコが、こちらではまぼろしキノコなのでしょう。」
セリフィアが納得したように頷く。
俺も、まぼろしキノコの本物の形を知らないからね。
希少すぎて写真すら見当たらなかったのだ。
「ただ、スキャンした結果、私が知っている万能キノコと、若干の魔力の質の差がありました。誤差のレベルですが……その他のアイテムも同様に誤差があります。」
「誤差……なら使用に問題は無さそうな感じがするね。」
「念の為、実験しておくと良いと思います。が……もしかすると、その誤差があることで、ダンジョンの外に持ち出せる可能性があるのかもしれません。」
セリフィアの言葉に、ハっと気づく。
俺が召喚したモノはダンジョンの外には持ち出せない。
だが、イレギュラーモンスターは召喚と言えるだろうか?
イレギュラーモンスターが現れる『キッカケ』は俺の能力かもしれない。
だが、セリフィアもミレイユも、モンスターは『最初からここに居た』と感じていた。
つまり、ダンジョンに元々あった存在なのでは?
で、あるならば、元々あった存在から得られたアイテムとして、ダンジョンの外に持ち出せるかもしれない。
「セリフィア……これは、大発見なのでは?」
俺の言葉にセリフィアが微笑む。
実験は簡単。実際に俺が持ってダンジョンの外に出てみれば良いだけだ。
期待すると外れた時が辛いけれど……これは期待せずにはいられないなっ!
じわじわとテンションが上がってくる。
そんな時、ミレイユがモンスターの残骸を、つんつんと杖で突いている姿が目に入った。
「ミレイユは何してるの?」
「いえ……モンスターを倒すと、普通はアイテムが手に入るじゃないですか? なのに何もないので、ちょっと調べています。」
「……なるほど!」
俺とミレイユ達との間には『普通』の乖離があるが、それは仕方ない。
だって、そういうものなんだもの。
ミレイユがモンスターの残骸を調べているので、俺も怖い物見たさで残骸を調べてみる事にした。
もしかするとアイテムが出てくるかもしれない。これも金策、金策ぅ!
「わ~……」
木人といったら良いのだろうか。
頭が吹っ飛んだウッドゴーレムとでも言おうか、そんな残骸だ。
砂浜クエストの時は、完全に頭から消していたから、こうして、じっくりと見ることも無かった。
「……んん?」
じっくりと見ていると、残骸の一部に少しだけ光の粒子のような物が見えた気がして、つい手を伸ばす。
「あ。」
手を伸ばした瞬間。光が俺の中に入ってしまっていた。
「どうしました?」
セリフィアの声。
彼女たちには、今の光の粒子は見えてはいないようだ。
そして入ってきた粒子で体に異変は……多分ない。
とりあえず、すぐに感じるような不調はない。
「いや、今モンスターに触ったら、何か光みたいなのが身体に入ってきてビックリしちゃ――」
「『魔力干渉解析』!」
セリフィアの周りに光や魔導式が浮かび上がるが、その色合いが普段よりも強く感じる。
これは本気のスキャンだ。
そして光が俺に収束していく。
これは俺の身体に異変が無いか調べてくれているのだろう。
病院より安心のセリフィアさんです。
ありがてぇ。
スキャンが終わるまで、されるがまま、じっとしておく。
「マスター!」
「はいっ!」
セリフィアらしからぬ大きな声に、思わずこちらの声も大きくなる。
「情報を送ります!」
「お――おおぅっ……」
セリフィアが俺の了承を取る前に『こいつ直接脳内にっ……!』で情報が送ってきて戸惑う。
だが、その理由はすぐにわかった。
ダイスケ・ナカムラ Lv.2
HP:136
攻撃力:31
防御力:24
魔力:18
神聖力:15
すばやさ:17
――俺のレベルが上がっていた。




