第23話 突撃! 隣の裏庭!
「あ、すみませーん。こんにちは。
私、初めて裏庭ダンジョンにきたんですけど、ちょっと、このダンジョンについて質問させてもらってもいいでしょうか?」
「おっ? こんにちは。」
「こんにちは。初裏庭か。いいねぇ空気うまいでしょ?」
山菜取りと思える格好で談笑していたオジサン2人組に声をかける。
相手の方が人数が多いと、けっこう色々なことが聞けるから助かる。
「えぇ。ここってビックリする程、快適ですね。」
「外の季節関係なく、ここはいつでも夏休みだからね。」
「は~『夏休み』。夏休みはピッタリな言葉ですね。いやぁダンジョンって不思議ですねぇ。
一応ネットで出てる情報とかモンスターについては調べてきたんですけど……裏庭の素人が気をつけた方がいいことってありますか?」
「そうだなぁ……あんたさんの靴だと、水辺には近づかない方が良いよ。たぶん気が付いたらヒルが食ってる。」
「あぁ、そうだな。その長さじゃあ、ちょっと危ないわ。」
俺が履いているのはトレッキングシューズだ。
「あ。ありがとうございます。
歩くと思って、この靴を履いたんですけど、間違っちゃったかなぁ……」
「いやいや、水辺に寄らなきゃ問題ないよ。」
「そうそう、マムシもいるしな。水辺で蜂の羽音に気を取られたら、下でガブーってな」
「はぁ~……水辺があぶないんですねぇ。気を付けます!」
「血清キットは持ってるかい?」
「いえ、持ってないですね……」
「んじゃあ、しっかり対策出来るまで水の音に近づかなきゃ、大抵のとこは大丈夫だよ。」
「勉強になります。ありがとうございます!」
オジサン2人に大袈裟に頭を下げる。
こういうのは、相手に気分が良くなってもらえれば、もう俺の勝ちだ。
「今日は様子見で、水辺に近づかないで色々探索してみることにします! ……あと、他になにか気を付ける事ってありますかね? 良かったら教えてください。先輩!」
「そうだなぁ……なんかあるか?」
「あぁ? う~ん。まぁ、あんた一人でキノコ狩りに来たんだろう? なら言っておくけど、万が一キノコを見つけても叫ぶなよ。人が寄ってくるかもしれんからな。」
「あぁ……なるほど。確かに……」
「まぁ、そうそう見つからんけどな! あっはっは!」
「ビギナーズラックに期待ってやつだな!」
「そうですね! あっはっは!」
一通り談笑し、丁寧にお礼を言って別れる。
なるほどなぁ。
どうしても9級ダンジョン程度だと世間一般と同じような感覚になりそうだけど、それでもダンジョンだ。
ダンジョン内は普通じゃない。
治外法権のような場所だと気を引き締めなくてはいけない。
全てが自己責任。
他人に襲われたとしても、襲われる対処ができないのに来たヤツが悪いまである。
入り口付近だから、つい、いつもの調子で話しかけてしまったけれど、これでもD9免許保持者なんだ。気を付けよう――
一人に戻り気を引き締める。
そう。俺はD9免許保持者なのである!
ぶっちゃけ、D9試験は簡単すぎて助かった。
午前に実技試験。
握力測定、反復横跳び、上体起こしに長座体前屈。50m走、立ち幅跳び、そしてボール投げ。
実技試験と名のついた、ほぼほぼ体力測定をこなしてお昼休憩。
午後は、視力検査とか認知力検査と写真撮影。
その後にタブレットとカメラが設置された簡易ブースに通されて、動画を見ながら設問にタップしていく。
カメラが様子を撮影していたのは、倫理面の調査が目的だろう。
他人を見捨てるか、他人を囮として使うかのような意図だろう設問もあったし、後から問題がありそうな人をあぶり出して省く仕組みかもしれない。
そしてその後は、受験者全員が部屋に入れられて、40分の安全講習。
これも単純に映像を流されるので見ているだけ。
んで、外に出たら不合格の人の番号が表示されているので、番号が無ければ合格。
もちろん、大抵の人が受かっていた。
ちなみに高卒認定の無い人は後日、学科試験が入るらしい。
日本では中卒の人の方が珍しいからなぁ……。
後は流れ作業のように取得時の費用1万円を払い、免許の交付を待ってゲット。
ちなみに費用支払い時にダンジョン探索者協会への入会の勧誘もされたけど断りました。
はい。D9免許試験。非常にシステム化されているなぁと思いました。
物凄い作業感のある免許交付でした。おわり。
――おわってねぇ!
俺のダンジョンストーリーはこれから始まるんだ!
緑が多く、なぜか古い日本家屋の残骸のような建物も沢山ある裏庭ダンジョン。
とりあえず人目につかない場所へ移動する。
20分程歩き、人目が無いことを確認し、スマホ起動からのホーム画面オープンで、セリフィアを召喚する。
「おー! セリフィアだ! 久しぶり!」
「マスター! また呼んでいただけて嬉しいです。」
約10日ぶりのセリフィア。
たった10日とはいえ、俺にはとても長かった。
我慢した。凄く我慢した。耐えた。
本当は水着セリフィアを召喚したいところではあった。
でも、水着セリフィアは固有スキルが違うんよ……今日は『魔力干渉解析』を頼りたい。
だから……水着はお預けや。
だが今日の俺は、これまでと一味違うぞ。
「やったー! セリフィアだー!」
もう相手が好意を持っていると知ってしまっているオジサンをなめるなよ。
そんなもん、すぐにハグじゃ。んで、頭も撫でちゃう。
「ふわぁ」
セリフィアから変な声が出た気がしたが、俺もセリフィアの感触で変な声が出そうなのでイーブン!
――あ、ヤベ。
これ、このままだと元気になっちゃう。
今日はやることが多いので、ヤル気を堪えて、しぶしぶセリフィアを抱きしめから解放する。
「また色々、相談に乗ってくれるかな!」
「はい……おまかせくだしゃい!」
オジサンは美少女と一緒に行動できるだけでも幸せを感じられるタイプだから、こうしてお話できるだけでもお釣りが出るくらいに感謝できるわ。
「気が付いてると思うけど、今日は前と違うダンジョン。裏庭ダンジョンって呼ばれているところに来ているんだ。」
「えっと、なるほど……別の10級ダンジョンですか?」
「ふっふっふ、セリフィア君。ここは9級ダンジョンなのだよ!」
「と、いうことは、免許の取得おめでとうございます! また一歩、前進されたこと……とても誇らしいです!」
美少女の賞賛――きもちええ。
「あ~……いいわぁ。」
「え?」
「セリフィアから褒められるの気持ちいい。」
「ふふっ……では、これからもたくさん褒めさせてくださいね、マスター。」
あらヤダ。とてもキモイこと言った覚えがあるのに、めっちゃ肯定してくれる。
やっぱり好感度が高いんだな。
「……あの、もしよければ、私のことも……少しだけ、褒めていただけたら……うれしいです。」
セリフィアが頬を染めて、恥ずかしそうな表情で、そっと呟いた。
「…………」
いろいろと撃ち抜かれ。
衝撃の余り言葉が出ない。
カワイイには上限が無かったんだ。
知らなかった。
「ますたー?」
「もうどれだけでも褒めるよ! 今日も最高にかわいい! いや、かわいいだけじゃない! 賢い! 優しい! 完璧! そばにいてくれてありがとう! ありがとう! 最高だ!」
こんなもん抱きしめずにはおられへんやろがい。
暫く、キャッキャウフフした。
★ ☆ ★ ☆彡
「それでね、今日は金策になる『まぼろしキノコ』探したいと思ってるんだけど、固有スキルで、戦闘後にアイテムを増やせるミレイユ・ピースメンドを編制に加えたらどうかと思ったんだ。」
「なるほど、ミレイユの『残渣の再構成』スキルですね。通常は戦闘後ですが、採取に活かせるかもしれないと……良いのではないでしょうか。」
セリフィアの同意を得て、早速、ミレイユ・ピースメンドを召喚する。
「……呼んでくださって、ありがとうございます。今日も良い日になりそうですね。」
大人の女性の声がした。
振りむけば、森を感じさせるような深い緑の髪を、ゆるく三つ編みにしてサイドに流し、ローブを纏った美女の姿。
少しくすんだ青緑色のローブで隠していても、その豊満な魅力は隠せていない。
「なるほど……これは美女だわ……」
「……あの、見すぎです。少し恥ずかしいです……ふふ。」
「あ、すみません。失礼しました。」
これまでは美少女だった。
だが今回は美女。
どうしても頭が、初対面の大人に対する対応を始めてしまう。
「ミレイユさん」
「はい。どうしましたセリフィアさん。」
「マスターは、今日まぼろしキノコという素材を探しています。
探すこと自体は私ができる可能性が高いのですが、まずは、その素材を増やせるかをミレイユさんに試していただきたいのです。いかがですか?」
「そうですね……現場をみないことには、どうとも言えませんが、努力はいたします。」
「それもそうですね。ではマスター、さっそく探してみますか?」
セリフィアが俺の様子を汲んで説明をしてくれた。
「だな! まずはセリフィアが『探せるか』も要検証だもんな。やってみよう!」
「かしこまりました。それではまずダンジョンを調査します。」
セリフィアが指先を軽く掲げ、呟く。
「『魔力干渉解析』――」
いくつもの淡い魔導式と白銀の光が展開する。
浮かび上がった光は収束ではなく、ドーム状にダンジョン内に広がっていくのだった。




