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第2話 初めてのダンジョン体験

アラフォーのオッサン達というのは、意外と少年である。

というよりも人間というのは、どれだけ年を重ねても『この年齢って、もっと大人だと思ってた』なんて思っていたりするくらいには子供なのだ。


ただ、経験を積んだ分だけ慎重に物事を考えられるようになり、失敗のリスクが減っていく。

スマホで向かうダンジョンの情報収集を行った後、対策を全員で話合い、意思疎通をしっかり行って、それぞれの認識に食い違いが発生しない様に心がければミスは減る。


「「「「ホームセンター!」」」」


全員で向かったのはホームセンター。

このダンジョンが浸透した現代において必要最低限の物はホームセンターで大体揃ってしまう。


「軍手はあれば良いよな?」

「急に安全靴を履いても、逆に動きづらいかもしれん」

「作業用ヘルメットは買おうぜ。頭丸出しは危ない。」

「お水お水~。水は生命線~。」


オッサンというのは安全マージンを取りがちである。


「おいおい見ろよ、ここに『お手軽探索者セット』ってのがあるんだけど?」

「それ良いんじゃね? アリアリ。」

「スコップは立派な武器! 俺スコップも買う!」

「いいな! 俺はツルハシにしよー!」


ウキウキの買い物タイム。

向かうダンジョンでは鉱物系のモンスターが出るらしいので、俺はツルハシ一択だ。


普通の買い物であれば、だんだん疲れてテンションが下がっていくものだが、遊びの為の買い物は逆にドンドンテンションが上がっていく。


結果


「の、飲みに5回行ったと思えば……」

「あらー、コッチは余裕があってゴメンなさいね~!」


家族持ちの悲痛な声を、独身貴族が鼻で笑う光景がそこにあるのだった。

奥さん子供は内心で羨ましくもあったりする。なので、取れる時にマウントを取っておくのである。


★☆ ★ ☆


そんなこんなで、しっかり夜も更けた頃に到着した不人気ダンジョン!


お宝と遭遇する確率が低く旨味が無い。売りとなるのは安全度くらいの為、不人気すぎるダンジョン。

10級の中でも、成人ならスマホで専門サイトから「入ります」と登録するだけで入れてしまう観光地レベルダンジョン!


「ご安全に!」

「「「ご安全に!」」」


安全第一を念頭に、いざ初ダンジョン!

俺たちの伝説はここからだ!


――10級の不人気ダンジョンに足を踏み入れると、そこは洞窟だった。


大人4人が余裕で横並びに歩けるほど広く、閉塞感も感じられない。

なんなら、ほんのりとした光が街灯のように道を照らしている安心設計。

『ダンジョンは人にやさしいのか?』と思わず言葉が漏れるくらいには不安を感じない洞窟だ。


「……こんな感じか」

「だなぁ情報通りとは言え、なんかアレだな。」

「観光地感あるな」

「ってことは……お土産……探しとく?」


少しの緊張と、友達との冒険ということでワクワクしていたが、いざ入って進んでみると、洞窟をお散歩しているような気すらしてくるレベルだった。

罠というほどの罠もなく、時々ある段差や窪みに気を付ける程度。

窪みが無いか目を凝らしていた俺は、ふと気が付き全員に情報共有を計る。


「なぁ、アレがモンスターじゃね? 化石カニってヤツ」


全員が俺の指先を辿ると、そこにはモゾモゾと動くヤドカリのような生き物がいた。

ただ背負っているのは小ぶりな石。


「あ~……ね。」

「はいはい。うん。」

「じゃあ、第一発見者さん。ドーゾー!」

「え~、ほな、お先にツルハシでヤってみますよー」


調べた情報通りであれば、ザコ中のザコモンスター。

戦闘経験ゼロの大人でも一人で倒せると書いてあった。

動きは遅いが、ハサミが指を切り落とすくらいには切れるらしいので、そこだけは気を付けなくてはいけない。


複数人で同時に叩くようなサイズでもない為、遭遇したら一人ずつ戦ってみることにしていたので、事前の打ち合わせ通り発見者の俺が向かう。

初めてのモンスターということもあり、少し緊張感が戻ってくる。


モゾモゾ動く化石カニとその周囲を確認しつつ、ゆっくりと近づいてみると化石カニも、こっちに気が付いているようで、両手のハサミを広げバンザイのポーズで俺を威嚇しているように見える。


飛んだきたりすることは無いらしいので、意を決してカニにツルハシを打ち込む!


ガインっ!

硬い感触。しっかりとツルハシはカニに刺さった。


が……


「いってぇっ!」


思わずツルハシから手を離す。

ツルハシなど振るったことがなかったので想像以上の硬い反動に手が痺れ、痛みが走ったのだ。


「大丈夫かっ!?」

「大丈夫大丈夫! 思ったより反動が強かっただけ、ツルハシって難しいわ!」


モンスターが目の前にいるので会話しながらも注意を払っているが、化石カニのカニ部分にしっかりとツルハシが突き刺さっていて、もう徐々に死んでいくであろう状態なのは一目瞭然。


ナベ達が横にやってきて一緒に化石カニを眺めていると、1分程で化石カニは動かなくなり絶命した。


「カニさん! 初勝利! 有難うございます!」


なんとなく合掌して礼を言ってしまうと、俺につられて全員が手を合わせていた。

『殺す事だけを目的に生き物を殺す』

お礼を言うことで、そんな罪悪感を誤魔化せた気がしないでもない。


「コレを解体してみるんだっけ?」

「そうそう。化石部分から魔石が出てくることがあるらしい。大体はハズレらしいけど……ほいトンカチとタガネ」

「石とか割ったことないな~、楽しみ。」


トンカチとタガネを受け取り、コンコンと線を描くように打ち込んでみると化石の中は空洞になっているようで、5分もせずに割ることができ、全員が空洞を覗き込んで確認する。


「……なんもなくね?」

「……ハズレっぽいな」

「ドンマイ!」


薄々ハズレだと思っていたのが、言葉を掛けられた事によりハズレの確信へと変わる。


「まぁ、そんなもんだよな。ちぇっ、ビギナーズラック無しか! でも、コレちょっと面白いぞ。次、探そうぜ!」


ハズレてしまって悔しい気持ちもある。

でも、なんだか宝探しをしているようで楽しくもあるのだった。



★☆ ★ ☆



ダンジョンに入ってから1時間ほどが過ぎた。

全員が化石カニをハズレで1巡、天上から落ちてくる『頑固石』というモンスターとも遭遇し、10級ダンジョンの1階層に慣れてきた為、ツーマンセル、俺・ナベ、スー・オノの2班に分かれて効率よく化石カニを狩ることにした。


そう。オジサン達は、思いのほかカニの化石割りが楽しめてしまっているのだ。

お手軽な冒険&宝探し感。とってもイイ。


「なぁナベ。ダンジョン来て良かったわ。良い提案ありがとうな。」

「コッチこそだって。思った以上に楽しいし色々なダンジョン行ってみたくなるな。」


「だな。このダンジョンが不人気って事は、他ってもっとお宝が手に入りやすいんかなぁ?」

「かもなぁ。でもカニだけでも十分おもしろいよな。」

「んだんだ。」


話ながらも周囲をしっかりと警戒しカニを探す。


「カニさまー♪ 当たりのカニさまー♪ どこにおわしますカニー?」

「何うたってんねん。ドコデスカニー♪」


「おった! アレ俺の!」

「あ、クソ! 出遅れた! しゃーない!」

「はい! ご安全にーしゃおらぁっ!」


モンスターは、やはりモンスター。

注意を怠ってはいけない存在なので呪文ごあんぜんにを唱えることを忘れない。

何事も『慣れた頃が危ない』というからこそ気を付ける。コレ大事。


ツルハシの打ち込みは、かなり上達しており反動にも慣れ、しっかりカニを打ち抜いた。


「いたーっ! ご安全オラァっ!」


俺がカニのご臨終を見とっている内に、ナベも発見し、ご安全をお見舞いしている。

これは同時にワクワク解体ガチャタイムだ!

きっとその内に大当たりが出てくるはずだ! きっと! その内! たぶん! 大当たりっ!


――オッサン達が、慣れないツルハシやトンカチで、手の皮が限界を迎え、探索を諦めるまで、そう時間はかからないのだった。


初ダンジョン……入場時間3時間。

探索成果……化石カニを倒す経験

収入……マイナスちょっと良い飲み会5回分

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