第18話 レベルを……あげる?
俺だけレベルアップできる!
限界突破もして『俺は人間をやめるぞーー!』が、できるんだ!
一流アスリートや格闘家のような、人間技じゃないと思えるパフォーマンスを見せつけたり、プロ探索者のように華やかな注目を集めることだって出来るようになるんだ!
これは夢があるな……
いや、夢しかない。
……と、思った。
思ったんだけど――
レベルは。
俺のレベルは……いったいどうやって上げるんだ?
ソシャゲのキャラクターなら、キャラクター画面の『強化』をタップして、属性魔石を使えばレベルアップできる。
でも俺は、キャラクター画面に存在していない。
俺はゲームキャラじゃないから、操作も不可能。
つまり、強化の方法が不明。
うん。これは、もうわからんな。
……どうしよう。
また『召喚できた!でもダンジョンから持ち出せない!』と同じパターンか?
もう既に、とんでもない落差でのぬか喜びをしてしまったと感じずにはいられない!
――だが、大丈夫。
今の俺には頼れる頭脳。
そして癒してくれる存在が、そばにいてくれる。
「はい集合っ!」
なんとなくコーチや先生のようなノリで号令をかける。
セリフィアは既に隣にいるので関係ないが、スキルを使っていたカグヤが素直に小走りでやってきた。
「え~、今、課題がひとつ判明しました。悪いんだけど相談に乗ってもらえないかな?」
「喜んでお手伝いさせていただきます!」
「わたくしも、どれだけお役に立てるか分かりませんが、お手伝いさせていただきます。
ほら、3人揃えば文殊の知恵といいますし。」
うむ。予想通りの反応で助かる。
知ってはいたけれど全力で協力してくれそうな雰囲気は、本当に嬉しい。
2人とも、俺に対する好感度が高いんだよな……
社会人をやってると『協力する空気だけ』っていうのを色々なところで感じるから、こんな本気で協力してくれる気持ちが感じられるのは、それだけでオジサン、ありがたくなっちゃう。
しかもそれが美少女たちというオマケ付き。ありがてぇ。ありがてぇ。
落ち込む気持ちが、もう消えて無くなっていくわ。
「えっとね。俺のレベルを上げたいなと思ったんだけど、ゲームの画面には俺が存在しないのね。だから俺のレベルの上げ方が分からないんだ。」
「ふむ……興味深いですね。」
やはり、相談事になるとセリフィアの反応が早い。
一言の後、顎に手を当てて、すでに検討モードに入っている。
カグヤは、とりあえず一旦『見』に回っている様子。
召喚されたばかりだし、諸々の説明はセリフィアにしかしていないから、分からないことだらけだから仕方ない。
でも、まったく何も知らない状態だからこそ、俯瞰的な視点で気が付ける事もあるものだ。
「カグヤとの共有もしていきたいので会話をしながら検討しても良いですか?」
「もちろん。」
「あら、お気遣いをありがとうございます。助かりますわ。」
「それでは……私が気になった事なのですが、そもそも『ゲームにおけるレベル』とは、どのような物なのでしょう。」
「なるほど、根本だね。」
セリフィアの言葉に、改めて考える。
考えはみんなと情報を共有したいので、思いつくまま言葉にしてゆく。
「えっと、俺の認識だと……ゲームのキャラクターに強化アイテムを使ったり、戦闘を行った後に手に入る経験値で上がっていくものだね。
強化アイテムもアイテム毎に数値が決まっていて、規定値を超えるとレベルが上がり、そしてステータスが上昇する。」
言いながら気づく。
俺。戦闘すれば良いのか。
「なるほど……戦闘でのレベル上げが可能であれば、実験を――と考えるのが普通ですが……それは最終手段にしたいです。」
「それは、わたくしも同じ気持ちです。ご主人様には、危ない事をしてほしくありません。」
2人とも心配が表情に出まくっている。
それくらいにはザコ過ぎるステータスだからな。
「それもそうだよね……化石カニ程度で経験値が入るなら良いんだけど、これまでカニを結構倒してるのにレベル1だからなぁ。」
「それだと経験値が、ほぼ無いほどに低い可能性がありますね。」
「ゲームって、強いモンスターほど経験値が高いからね……そっか。経験値が入る基準が『デイリークエスト』くらいのモンスターが最低基準って可能性があるのか。
だとしたら、俺は、あんなモンスターに対峙するのはハードル高いなぁ……」
「安全第一ですよ、ご主人様。まずは他の案から検討してまいりましょう。」
「マスター。ゲームで強化アイテムを使用してレベルを上げる時の事を教えていただけますか? 具体的に。」
「具体的に……か。具体的なら実際にやってるのを見てもらうのが一番わかりやすいよな。」
全キャラのレベルを最高にしてあるので、ガチャを回して新しいキャラをゲットして育成してみよう。
スマホを取り出しステータスオープンよろしくゲーム画面を起動する。
「そういえば、ダンジョン内でガチャとか回した事なかったな。」
アイテムを召喚する時は説明欄に『つかう』ボタンが追加されていたが、ガチャの画面はいつも通り変わりはなかった。
有料限定ピックアップキャラクターガチャや、課金や詫び石で回せるキャラクターガチャ。
その他に、1日1回限定で、あの使用用途の薄いゲーム内通貨5000枚で引けるノーマルガチャがあった。
ノーマルガチャは、レア度がクソ低いキャラか、クソアイテムしかゲットできないから、正直このガチャの存在すら忘れていた。
普段引かないけど、これでもレア度が低いキャラが引けたと思うし、実験だから、このガチャを回してみるので良いか。
「とりあえずノーマルガチャを回して、キャラを手に入れるところから実践してみるよ。」
2人に声をかけガチャを回す。
……美少女に覗き込まれながら美少女ソシャゲやるのは、なんか、こう……背徳感があるな。
金貨5000枚を使ってノーマルガチャを回す。
もしかすると金貨を使うことで、ダンジョンに出てくるかもしれないとも思ったが、見慣れたゲーム画面内だけでお決まりの演出が始まり、いつものようにゲットできたアイテムやキャラクターのアイコンが並んだ。
「うん、普通にゲット。」
結果は
アイテム
・火属性魔石(中)×1
・風属性魔石(小)×1
・無属性魔石(大)×1
キャラ
・ララ×2
・ナナ×2
・ノノ×1
・マリィ×1
・リゼット×1
キャラが多くて、ちょっと驚く。
レア度は、コモンがララ、ナナ、ノノ。
アンコモンがマリィ。
レアがリゼット。
後はスーパーレアとウルトラレアのレア度もある。
基本的にキャラクターはウルトラレアしか使った事が無い。
もちろんレベルだけはレア度関係なく全キャラを最大化してある。
アイテムが余っているのは、なんだかもったいないからな。
「はー……」
「あらあら……」
ノーマルガチャをする様子を眺めていた2人から、ぽつりと言葉が聞こえる。
セリフィアが右隣。カグヤが左隣の美少女サンドイッチ状態。
「……こんな感じでキャラクターが手に入るんだ。」
2人が受ける印象が気になり、声をかける。
「面白いですね。」
「ええ。なんだか興味深いです。」
普通にゲームを見ている人のような感想。
でも、見知った仲間だろう人が、こんな扱いをされているのは、気持ち的に大丈夫なのだろうか?
ちょっとばかり居たたまれない気持ちが生まれないでもない。
「なんか、申し訳ない気持ちが少し生まれちゃうんだけど……」
「どうしてでしょう? これはこういう物なんですよね?」
「うふふ、セリフィアさん……恐らくご主人様は、わたくし達が『物扱い』されていると気を悪くしていないか、気遣ってくれているんですよ。」
「あぁ、そういうことだったんですね……ただ身内の写真が並んだような印象ですので、お気になさらずに。」
そんな印象なのか。
なら問題ないか。
「それよりも、キャラで枠の色が違うのは何を表しているのでしょう?」
「あぁ、それはキャラクターのレア度で色が違うんだ。
全部で5段階あってコモン、アンコモン、レアと、そんな順でレア度が上がっていく。」
「なるほど……推測になりますが、レア度とレベルには関係がありますか? ララやリゼットの強さを考えると関係がありそうに思えます。」
「あ。忘れてたけど……関係あるわ。」
そうだ。キャラクターのレア度に応じて最大レベルが決まっているんだった。
コモン:レベル50
アンコモン:レベル70
レア:レベル80
スーパーレア:90
ウルトラレア:100
キャラクター選択画面をスクロールし、みんなでレア度とレベルの関係を確認していく。
もちろんセリフィアやカグヤは、当然のウルトラレアである。
2人に関係性の説明を終え、レベル強化の検証を進める。
「試しに、リゼットのレベルを最大まで強化してみよう。」
キャラクター画面で、レベル80とレベル1のリゼットが並んでいる。
レベル1をタップして詳細から強化画面へと移る。
「リゼットは火属性だから、火属性魔石を使うと効率よくレベル強化ができるんだ。」
「相性が同じ属性の魔石は経験値が多いということですね。」
「そうそう。その相性の良い魔石を最大レベルになるまで選んで、強化をタップ。これでレベルアップ完了っと」
「あら簡単ですね。」
「マスター……リゼットの最大レベルが30となっていますが。これは?」
「あ~……思い出した。
強化することが作業になってて忘れてたけど『レベルキャップ解放』ってのがあったんだった。これも実際にやっていこう。」
作業は指が覚えてしまっているので、すぐに『レベルキャップ解放』をタップ。
レベルが30のレベルキャップ解放には、アイテム『輝石のかけら』を10個使用し解放する。
この解放でコモンキャラのレベル限界。
「んで、また属性魔石でレベル強化をして……レベル50まであげて……」
レベル50のレベルキャップ解放アイテム、輝石のかけら30個、輝石の結晶10個を使用し解放。
この解放でアンコモンキャラのレベル限界。
「んで、レベル70まであげて……次のレベルキャップ解放がリゼットの限界。」
レベル70のレベルキャップ解放アイテム、輝石のかけら50個、輝石の結晶20個、輝石の硬核5個を使用し解放する。
この解放でレアキャラがレベル限界となる。
さらに上の解放は、同じような感じ使用アイテムの数と貴重品とかが増えて、追加で『輝石の核晶』や『輝石の真核』が必要になっていく。
輝石の真核は貴重品ではあるが。イベントで簡単に手に入る系のアイテムなので、正直使いきらない数があるくらいには余裕がある。
「ここまでの流れが、ゲームでのアイテムを使ったレベルアップの方法なんだ。」
セリフィアは頷きながら、何かを記憶しているようだった。
カグヤは穏やかな笑みを浮かべながら、俺の説明を静かに聞いている。
ふとカグヤが思い出したように口を開いた。
「レベルキャップの解放は……ご主人様との絆の深さを表しているようです。」
「え? 絆の深さ……?」
「ええ。わたくし達が、ご主人様と心を通わせ、信頼を重ねて生まれた絆。
その絆が、わたくし達の力の限界を、少しずつ解きほぐしてくれる。そう思えました。」
カグヤの言葉に、セリフィアが静かに頷く。
「なるほど……そう考えると、輝石の名称や使用条件などにも納得がいきますね。
高レベルになる程、絆の深さが必要になり解放が難しくなっていく。私もしっくりきました。」
2人が揃って笑顔になる。
それは、俺との絆の深さを感じ入っているように見えた。
――ただ、俺は思う。
俺は君たちと、初対面なんやで。