第15話 キャラクタースキル発動!
セリフィアの可愛いさに心を撃ち抜かれるも、検討事案の多さに、かろうじて気を持ち直す。
――セリフィアの提案してくれた金策は、俺にこれまでに無かった視点をくれて、本当に助かった。
もちろん、実行するには検討と擦り合わせが必要だし、案を煮詰めなくてはならない。
でも、そこでも彼女はきっと知恵を貸してくれる。そう思えるだけで心強い。
「なぁセリフィア。
金策を実施するに当たって、俺が今からするべきことは――まずはこの場でできる情報収集だと思うんだ。」
「賛成ですね。正確な情報を基に検討しないと、必ず間違えてしまいます。」
セリフィアが笑顔で頷く。
「とりあえず……『召喚した武器やアイテムが使えるかどうか』あたりから調べるかな? どう思う?」
「ええ。よろしいかと……可能であれば、時間や距離などの条件を変えての確認もしたいところですね。
マスターから離れても召喚したモノが存在できるのか――など。」
「あぁ、なるほど。確かに俺から離れたら消えるなんてことも考えられるのか。なんだか試してみなきゃいけない事が多そうだな。」
「微力ながらお手伝いさせていただきますので、頑張りましょう。」
両手をグっと胸の前で握って微笑むセリフィア。
ほんと美少女は、いちいち可愛いくて心がホッコリしちゃう。
自分の顔がニンヨリとした笑顔になっていくのが分かるが、もう緩んだ表情はどうしようもないので、そのまま続ける。
「このダンジョンなら俺でも倒せるモンスターがいるし、とりあえず『武器が使えるかどうか』の確認からやってみよう。
その後は、ダメージエフェクトが見えるおかげで武器の威力が数字で分かるし『武器のレア度が高いほどダメージが高いかどうか』とか、『離れられるか』とか、そういった情報の確認か……『他人が使えるかどうか』は、また今度、俺の友達に貸し出して使ってみてもらって検証。こんな感じでどうだろう?」
セリフィアがさっきのポーズのまま、目をまん丸に見開いて固まっている。
変な事を言ってしまったか? と思い、首を傾げると、セリフィアが戸惑いながら言葉を発する。
「……マ…マスターも……戦う…のですか? えっ? あの……私たちではなく? 」
「あ~……なるほどね。」
ゲームの中の主人公は戦わない。というか戦えない。
戦うのは編成を組んだゲームキャラクターだけだ。装備も全てゲームキャラクターが装備するもの。
だからセリフィアの頭には『俺が戦う』『俺が使う』という選択肢が存在していなかったのだろう。
――だが、俺も召喚できる武器を使えるなら使ってみたい。
武器を使う上で、なにか代償があるとかなら泣く泣く諦めるが、そういった武器かどうかはセリフィアが確認してくれるだろう。
うん。
おれ。
伝説の剣、振ってみたい。
「よし。論より証拠だな。とりあえず……あそこにモンスターの化石カニがいるから、俺がモンスターを倒せるところを確認してもらおう。ちょっと見てて。」
「あ……え? はい…………」
固まったままのセリフィアを放置し、狩り慣れた化石カニを手持ちのピッケルで叩く。
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……普段はツルハシだから。
俺、急いでダンジョンに来たせいで間に合わせのピッケルだから……ね。うん。
まだ生きている化石カニに再度ピッケルを振るう。
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化石カニは無事ご臨終なされた。なむ。
「一応、こんな感じで攻撃はできるんだ。どう?」
驚愕の表情のまま固まっているセリフィア。
とりあえず彼女の反応を待ってみる。
やがてセリフィアの目が忙しく動き出し、口元に手を当てて、なにやらブツブツと小さく呟き始めた。
何を言っているのかは分からないが、セリフィアが衝撃を受け、それに対して思考をまとめているだろう事は分かるので、大人しく彼女が落ち着くのを待つ。
すると、1分もしない内に、セリフィアの考えがまとまったのか、俺に向き直り勢いよく口を開いた。
「マスターに私のスキル『魔力干渉解析』を発動してもいいでしょうか!」
「うーん、ちょっと待って!」
これまでに無かったレベルの圧で迫ってこられ、思わず両手でセリフィアを抑える。
「ゴメンだけど、ちょっと教えて! 『マナ・インタラクト・スキャン』って、どんなスキルだったかな? 痛くない?」
「『マナ・インタラクト・スキャン』は、私の魔力を干渉させて対象の状態や情報などを探るスキルです!
得た情報を元に有効な攻撃手段を確立し、攻撃手段を共有することで、その後、対策されるまで通常より約2倍のダメージを与える事が可能になります!
スキルが対象にダメージを与えることはありません!」
あ~……バフスキルか。
いや、モンスターへのデバフスキルの方が正しいのか?
要はしばらくのターンのダメージアップ。そんなスキル。
セリフィアらしいっちゃらしいスキルだ。
新しめのキャラだとダメージ与えた上で、次回の必殺技の時に10倍ダメージとかの設定がありふれてるし、さらにスキル変化で連発できたり、重ねがけとかも加えられてたりする。
セリフィアのスキルが2倍で単発のみ、しかもダメージ無しってのが、それだけでインフレ前、初期に近い頃に参戦したキャラクターなんだって感じさせるな。うん。
それにしても、これまでにない強い要望だ……美少女のお願いとあらば叶えてあげたい。
俺にダメ―ジが無いのであれば、セリフィアに何か目的ができたんだろうし、彼女の納得の為に、スキルを俺にかけてもらっても良いな。
ただし――
「スキルを俺にかけて貰ってもいい…………けど、念のため化石カニに試してもらってからでもいい?
セリフィアの事は信頼しているんだけど、ほら、何事もイレギュラーってありえるからさ。」
「ええ、マスター! もちろんです!」
嬉しそうに化石カニへ向き直るセリフィア。
なんで化石カニがいる場所が分かってたんや……この娘は。
「では、スキルを発動します。」
セリフィアが指先を軽く掲げると、空間に淡い魔導式が、いくつも浮かび上がり、白銀の光が幾何学的に展開。セリフィアの髪先がふわりと少し浮きあがる。
そして浮かび上がった光は化石カニに向かい、ゆっくりと収束していく。
「魔力干渉解析――」
化石カニの周囲に薄膜のような揺らぎが生まれる。
まるで水面に魔力の波紋が広がるように、見えない層が何重にも重なっていく。
セリフィアの眼鏡が一瞬だけ光を反射し、魔導式が静かに収束――やがて化石カニを覆っていた被膜が消えていった。
「……スキャン完了。」
「かっこよ……」
単純にかっこよかった。
魔法使ってる感じが、とってもかっこいい!
そんな感想を持ちながら、俺も化石カニを観察するが、化石カニは何ごとも無かったように、ただその場で威嚇のポーズをしながら立っている。
ダメージエフェクトも発生していない。完全にノーダメージだ。
「解析結果を報告しますか?」
「あ、はい。」
解析対象名――岩殻魔蟹幼体。
通称、化石カニ。
分類は準鉱物型魔獣。
外殻は石化した甲殻類の構造を模しており、硬度は魔導金属の第三等級に似た構造を持つが、内部の魔力結合が不安定な為、衝撃に対する耐性は非常に低い。
内部魔核は微弱ながら活動を維持しており、魔力の流れは断続的。
行動パターンは低頻度の徘徊型。刺激に対して反応速度が遅く、戦闘能力は限定的。
ただし、甲殻の隙間に魔力結晶化の兆候あり。
「おおう……」
謎のテレパシー。
『こいつ直接脳内に……!』ってこんな感じやったんか……
突然、情報を押し付けられた感があるけれど、なぜか瞬時に理解ができてしまう不思議。
これがスキルなのか……
「この個体の弱点は人間でいう眉間を狙ってください。物理でも魔法でも、なんでも効きます。」
セリフィアが言葉を終え、一仕事を終えたような雰囲気に変わる。
折角なので、教えてもらった弱点を狙って攻撃を加えてみる。
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「おぉ……倍ダメージだっ! セリフィアすごい!」
上がった攻撃力に嬉しくなりセリフィアに向き直ると、セリフィアも何度も首を縦に振りながら、満面の笑み。
そして――まるで褒められた犬のように、喜色満面で俺の前に駆け寄ってくる。
「ではマスター! ダメージが入らないことの確認ができましたよね!
『魔力干渉解析』を、マスターにかけたいですっ!」
「あ、お、おう! ……でもなんで俺をわざわざスキャンしたいんだ?」
「そんなの決まってるじゃないですか!」
セリフィアの顔がこれまでに見たことが無いほどに輝いている。
瞳は星のようにきらめき、頬はほんのり紅潮――
「マスターのことを、いっぱい知りたいからです!」
セリフィア……俺のこと、好きすぎん?