第14話 賢い人って賢いから賢い人なんだな
「早速セリフィアに相談したいんだけど、俺の現状……聞いてもらえる?」
「喜んで。現状の整理と分析は、私の得意分野ですから。マスターのお役に立ってみせます。」
俺は少し迷いながら、言葉を選んで現状の説明を始める。
言葉を選ぶ理由は、セリフィアに『お前はソシャゲのキャラだ』と伝えるべきか──それを悩んでいるからだ。
「……マスター。話しにくい事であっても、知っている事は教えてください。
フィルターのかかっていないマスターの認識を、私は知りたいのです」
彼女は一瞬で俺の考えを見抜いていた。
彼女の言葉に、俺は諦めて心を決め、友人のナベに話したように、俺の認識している現状をそのまま伝えてみた。
『お前。ゲームキャラクターやぞ?』と。
「なるほど。今回はこういう世界ですか……面白いですね。」
と、ニッコリ。
……考えてみれば、このソシャゲでは村、城のような定番の舞台の他に、天空、海中、氷の大地、灼熱の谷、暗黒大陸、さらには天国、地獄、幻想世界、等々。ありとあらゆる所が舞台になっていた。
なんなら水着キャラを楽しむために『南国リゾート』だの、バレンタインイベントで『現代デパート』まで出てくる始末。
過去も未来も神話も日本も、もう上下左右だろうが何もかもがごちゃ混ぜなカオス世界。
そんな世界で生きているのが、このゲームのキャラクターたち。
だからこそセリフィアに『お前はゲームキャラクターだ』と説明しても『あ~はいはい。今回はそういう感じね』にしかならなかった。
そんな彼女の様子に安心しつつ、俺が金策として10級ダンジョンでゲーム内の物を召喚してみたが、ダンジョンから持ち出せなかったことまで説明を終える。
「ふむ……まだまだ情報不足ではありますけど、マスターが気にしている金策について、いくつか提案をさせていただいた方が良さそうですね。」
「お、スゴイね。何か思いつく?」
「はい。現在のマスターは『召喚の能力を使った金策』を検討しているようですので、諸々条件を付けずに検討すれば……すぐに思いつくのは4つ程でしょうか。」
「4つも思いつくの!?」
「認識が完璧ではないので、色々甘さがあるかと思いますが。そういった案でも許してくださいますか?」
「許す許す! 当然許すよ! だって俺には思いつかないんだもん! 思いついてくれるセリフィアには感謝しかないよ!」
「うふふ。マスターったら……コホン。
では、すぐに思いつく金策の一つ目ですが……『ダンジョン内で完結する商業活動の構築』です」
「……ほう?」
なんだか漠然としていて内容がイメージできないな。
そんな様子を察したのか、セリフィアが教鞭をとるように1本立てた指を動かしながら言葉を続ける。
「『召喚した物を持ち出せない』。ならば、持ち出さなければ良いのです。
ダンジョン内でマスターの召喚した物品を販売・提供して対価を得る。
他の探索者がダンジョンに持ち込んだ物資や金品は持ち出せますから。」
「……なるほど。」
俺が召喚したアイテムや道具を販売すれば良い。これは分かり易いな。
あり余ってるポーションだって、かけるか飲むかで傷が治るような薬なんて日本には存在していないから、ダンジョンの外に持ち出せなくても売れるかもしれない。
「……ダンジョン内限定でポーションを使っての闇医者とかもできるな」
「仰る通りです。では次です。」
セリフィアが2本目の指を立てる。
「『召喚物を素材にした現地加工品の生成』が考えられます。
召喚した素材を使いダンジョン内で加工し、外部に持ち出せる『新規アイテム』を作ることですね。」
「……ふむ。」
「召喚物が消えるのは、原型を保ったままダンジョンの外に出そうとするからです。ならば、構成を変えればいい。
素材を分解し、ダンジョンの外の物質やダンジョン内に元々あった現地の魔力と融合させて、新しく生まれたものにすれば、持ち出し可能になる可能性があります。」
「なるほど……なるほどな。」
流石セリフィア。さすセリ。
「……あれ、ちょっと待ってね。」
「はい。なんでしょう?」
「今の案…………なんかすごく気になるところがあったかもしれん。」
「あら? どの部分が気にかかりました?」
「……えっとね、多分だけど……まだ頭が整理できてないから、曖昧だけど……多分、俺は『ダンジョン内のなにかと融合』が気になってるかもしれない。」
「ダンジョン内の何かと融合……宝や、モンスター……土や石、壁などダンジョンそのものなどなど、沢山ありますものね。」
セリフィアのアシストにピンと来た。
「モンスターだ! 俺が気になったのは!」
「モンスターですか?」
「そう。俺たちの社会はモンスターから取れる魔石が換金できて、収入源になってる。
で、俺はダンジョン限定だけど、魔石を大量に召喚できる。これがなんか繋がりそうで気になったんだ!」
セリフィアが俺の言葉を噛みしめるように小声で反芻し、やがて嬉しそうな表情に変わる。
「……つまり、こうですね? 貝が真珠を作り出すように、モンスターを利用し召喚魔石を核とした『魔石の養殖』が可能ではないかと?」
そんなことまで考えてなかった!
なんか俺、魔石いっぱいあったよな? くらいしか思ってなかった!
でも、コレは試す価値しかなさそうな案だ!
どう反応した物か一瞬悩んだ俺は、ただセリフィアを見つめて頷くことしかできなかった。
「流石ですマスター……やはり私のマスターは素晴らしい。」
思ってもみなかった誉め言葉に照れる。
若干『あんたが全部いったんやで?』と思わないでもないが、美少女に褒められて、尊敬のまなざしを向けられるのは滅茶苦茶気持ちいいからもっと褒めてほしい気にもなる。
「コホン……では魔石養殖も金策に加えつつ、当初の3つ目の金策についてですが、これは『情報・知識の売買』です。」
「情報?」
「はい。物質は持ち出せなくても、情報は持ち出せます。
マスターの召喚能力は、他者が得られない情報を得られますし、それは十分に価値ある商品になります。
僭越ながら、私の魔力解析などでダンジョンの詳細を調査して得られる情報などもお役に立てるかと。」
「確かに……情報は金になるもんな……」
セリフィアの言っていることとは違うかもしれないけど、ネットで流れてるルミナの映像とかも情報っちゃあ情報だよな。
情報売買の一環として動画配信サイトとかを利用した金策もあり得るのか。
「最後に4つ目ですが『召喚能力を使用した探索者への一時的な支援契約』です。」
「あ~……はいはい。なるほど分かり易い。『一時的な支援』できるわ。」
俺が召喚したキャラクターの力を活かして、護衛とか、戦力として派遣するって感じだろう。
いや……キャラクターを派遣するよりも、武器やアクセサリーの貸し出しなんかをメインにした方が良いのか?
「武器のレンタルなどであれば、ダンジョンの外に持ち出せない事が逆にメリットにもなります。」
「あぁ、持ち逃げしようにも消え去っちゃうもんな。この案も良いなぁ……」
いや、ほんと俺はただ叫んで悲観に暮れるくらいしかできなかったのに、セリフィアはポンポン金策を提示してくれるんだから本当に助かる。
「セリフィアがいてくれて良かった……」
「………………いえ……光栄です。」
心からの思いで漏れた言葉に、セリフィアが顔を真っ赤にして俯いた。
何?
この子、可愛すぎんか?




