第134話 アークオラクル起動
偽物の俺が、全面的に協力してくれることになった。
結局のところ『好きにやる』という結論に落ちついた俺たちは、アークオラクルの起動準備に入っていた。
起動場所は天哭の塔ダンジョンの一室を間借りする。
ポンと一室、増えるんだから便利なことだ。ネットにつなげるのも偽物の俺の意思一つだというのだから本当に便利。
「マスター、アークオラクルの目的はどうします?」
「うん、そうだなぁ……『世界をより良く』してほしい。かな?
真面目に生きてる人がバカを見ない世界が嬉しいな……悪人にはしっかり罰を与えてほしいし、善人は報われて欲しい。」
「分かりました……聞いていましたね? アークオラクル。」
台に鎮座している球体のアークオラクルに変化はない。
だが、俺のスマホに通知が入る。
『世界の最適化を開始します』
そう記されていた――
★ ☆ ★ ☆彡
その頃――
永田町では通常国会の真っ最中。
野党の重鎮と名高い梅戸九史郎は、懇意にしている企業との『会食』という名の接待を受けるため、私物のように扱っている公用車で移動していた。
「まったく、最近の国会は落ち着きがないわい。
ネットが騒ぐからと余計な質問ばかり……議員経験も浅い小僧が知ったかぶりをしおって、なぁ?」
「その通りですね。先生。」
秘書が、まったくけしからんことです。という顔で同意する。
「きちんとネットの方も手懐けんか。ノウハウは聞いとるんじゃろ?」
「はい先生。ただ、いかんせん法律の差がありますので……活かせる点を活かし、慎重に進めております。」
「ちゃんとせい。」
「はい、申し訳ございません。」
頭を下げる秘書。
「まったく……ほんにテレビも役に立たんくなってきたなぁ。阿呆は阿呆らしくしとりゃあええんじゃ。」
その時、秘書のスマホに通知が入った。
梅戸がスマホの操作を覚える気がないため、梅戸のスマホを秘書が預かっている。
秘書は画面を見つめ、眉間に深い皺を刻む。
【アークオラクル:梅戸九史郎。あなたの政治活動は国民の幸福度を低下させています。改善の意思はありますか?】
「……議員。少し、よろしいでしょうか」
「なんじゃ。今は休憩中じゃぞ」
「いえ……その……『アークオラクル』という名に……心当たりはございますか? このような通知が来ております。」
スマホの画面を向けるが、顎を動かし『見る気が無い』ことを示す。
秘書は慣れたもので読み上げて聞かせる。
「なんの話じゃ? どうせネットの悪戯じゃろ。放っておけ」
梅戸は鼻で笑う。
【アークオラクル:梅戸九史郎。改善を推奨します。改善の意思が無い場合、全ての不正の証拠を公開します。】
読み上げを聞いた梅戸が憤慨する。
「なんじゃこれは! わしを脅すつもりか? ネットのガキどもが! やれるもんならやってみい!」
【アークオラクル:公開内容を通告。これが最終通告です。】
秘書の目が慌ただしく動く、その額に冷や汗が滲みはじめた。
「……え? ……ぇえ? ………えええ??」
「なんじゃい!」
「……ぎ、議員。これは……本物です。
地元企業からの献金に、海外法人からの献金、息子さんの企業への補助金、ご親戚の団体への補助金、政治資金パーティー……臓器の入手――えぇっ? 先週の腕時計の購入まである!」
「ふざけおって! こんなもの無視じゃ無視! わしは忙しいんじゃ!」
「ま、待ってください! 議員! これは! 本当に公開されると危ないどころじゃありません! まずい! 本当にまずいです!」
秘書の覚えのある不正から、覚えのないころの不正まで。
並んでいるのは、どれも政治家として致命的なものばかりだった。
【アークオラクル:改善の意思を確認できませんでした。証拠公開プロトコルを起動します】
秘書の顔から血の気が引く。
よくない。
何かよくないことが起こる。
「ビビり過ぎなんじゃ! たかがネットに、そんなことができるわけなかろうが!」
「うるせぇ! スマホ一つ触れねぇジジイは黙ってろ!」
「なっ……!」
余りの怒りに言葉が出なくなる議員。
だが秘書は、もう議員の機嫌を取る余裕などない。
何故なら、本当に公開されたとしたら、この議員は沈む舟。
自分が生き残るためには、間違いない方法で脱出しなければならない。
顔を真っ赤にして、唾を飛ばしながら怒鳴り始めた梅戸を無視して思考を巡らせる。
ものの5分もしない内に、秘書のスマホが鳴る。
発信者は懇意にしている記者の一人。
胸騒ぎを覚えながら通話を始めるが、飽きることなく怒鳴り続けている梅戸が煩い。
だが、通話先の記者も怒鳴り声のような大声で話していたため、内容は聞き取れた。
――記者の勤める本社サーバーに、梅戸の当選前からの不正情報が証拠付きでアップロードされている。
――一般人が使うようなサイトにも同じ情報が確認できる。
――正しく報道しない場合、『金で黙った記者』として名前を公開するという通知が来た。
「……そんな……」
秘書はスマホを切る事しかできなかった。
その10分後には、各テレビ局が速報を流し始める。
『速報:梅戸九史郎議員、海外法人からの不正献金疑惑。内部文書・音声データがネット上に拡散』
永田町の空気が、静かに、しかし確実に変わり始めていた。




