第133話 確認
「はぁ……」
大声を出すと、意外とスッキリするもんだ。
そもそも怒りのピークは『90秒』と言われている。
怒りの感情自体が長続きするように人間の身体はできていない。
それ以上続く怒りは、自分で薪をくべて燃やし続けているだけだ。
偽物の俺も、絶叫してすぐスンってなってたしな。
今の俺も、まさにその気持ちだ。
まして……隣でセリフィアがラスボスの俺に掴みかかっていれば、なおさら。
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて。」
「…………」
うん。ラスボスの俺の声は、セリフィアには一切届いていない。
ただ限界突破済みのセリフィアに力負けする気配がまるでないあたり、
やっぱりラスボスの俺の力はとんでもないのかもしれない。
子供をあやすみたいな余裕すら感じる。
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて。」
「……マスター。」
俺の声には、憤懣やるかたなしと言った雰囲気ながらも、セリフィアが力を緩めてくれる。
なんとなく、同じ言葉でも『俺の方が効いてる』感じがして、ちょっと勝った気分になる。
セリフィアの様子で少し落ち着いたので、改めてラスボスの俺に向き直る。
「で? なんでまたこんな真似を?」
「ん~……なんか壁がありそうだったから?」
うーん、うん。やっぱ一回くらい殴るべきかもしれん。
「まぁ、アレよ。
そういえばルミナとイチャつかれながら必殺技くらわされた時、超腹立ったなぁって思い出しちゃってさ。あと、俺は俺なんだって思い出す為かなぁ、多分。
ある意味おあいこさまってことで許して。」
軽く片手で『ゴメンね』してくるラスボスの俺。
いや、もうやっぱ『偽物の俺』呼びでいいわ。
こんなヤツに気を使ってるのもバカらしい。
ふと気づくと、俺は頭を掻いていた。
そういえば偽物の俺も同じ仕草をしていた気がして、思わず笑ってしまう。
「まぁ、いいよ。偽物の俺も、やっぱ俺なんだなって思えたし……
確かに俺、壁作ってたしな。
それに、あの時、こんだけ怖い思いしてたんだって思い知れたし。」
「……うーん、流石俺。
俺が一番『悪かったかも』って反省しちゃう対応。」
偽物の俺が肩をすくめて笑う。
俺もつられて笑ってしまう。
ラスボスの俺も、偽物の俺も、そして俺も。
全部『俺』なんだ。
怖がる必要なんてなかった。
「もう変な遠慮しないから、隠してること全部話せ。キリキリ話せ。」
「オッケーオッケー。
って言っても、大事なことはちゃんと話したんだよな……」
偽物の俺が顎に手を当てる。
「伝えるか隠すか悩んだのは『個性のフィードバック』だけだしな。
ダンジョンの目的も言っただろ?
逆に気になる事があれば聞いてくれ。」
少し考えてみる。
ダンジョンが『俺の為』ついでに『人類の為』って感じの説明だったけど、引っ掛かるところが無いわけじゃなかった。
『異世界への扉を開いてやる』とかも言っていたけど、あれも同じくらいな目的な気がする。
「俺のバックアップしてくれるって感じで言ってたし、それはそうなんだろうけど……人類を異世界に行かせたがってない?」
「あ~……うん。ぶっちゃけ異世界、人材不足、人不足とかが深刻で、あわよくば送り込みたいって意図はある。」
「その異世界ってなんなの?」
「これは話すとややこしくなるけど、色々ある、もろ絶対王政ナーロッパ的な世界もあるし、世紀末伝説みたいな世界もある。」
「……なんかろくでもなさそう。」
「安心しろ。エルフもいるし、獣人もいる。」
「ほなええか。」
要は、この世界。
俺の居る世界で『超越魔力だとやり難いこと』を俺がやってくれると嬉しいんだろうな。
「とりあえず俺は、思うようにアークオラクルとかって使って、思う様に行動していいんだよな?」
「あ~……うん。好きに使えば良いよ。」
「ん? 歯切れ悪くね?」
「アークオラクルを生み出すことができるレベルの俺たちだぞ? そっちの進み方に合わせていくさ。俺に確認はいらんよ。」
……俺を『便利に使いたい』のかと思ったんだけどなぁ。
「一つだけ言っておくぞ。
俺はお前が幸せに過ごすことを心から望んでる。
だから俺から変な干渉をすることはない。」
真剣な表情だった。
「まぁ、意見を求められればアドバイスくらいはするし、調子に乗ってたら苦言は提するかもしれんが、その程度だ。」
口角を上げる偽物の俺。
「お前はお前の人生を楽しめ。
俺は俺の人生を楽しむ。」
「……分かった。
俺は俺が最善だと思う事をやっていくよ。」
気がつけば、互いの手を強く握っていた――
ただ『同じ俺』として、まっすぐに。
その温度が、妙に心に残った。




