第130話 いや、分からんて
「うーん、ちょっと待て? ちょっと、いきなり情報量多すぎない?」
いや、お姉さんセリフィアが言った言葉は理解できた。
理解できたけど……いや、理解できてない。
『ラスボス』って、もっとこう……
禍々しいオーラとか、圧倒的威圧感とか、
そういう『ラスボス然』とした雰囲気があるだろ?
そんな親戚の子供を見るみたいな顔で、コロコロ楽しそうに笑わないと思うんだ。
それに、その前よ。
偽物の俺は、なんでセリフィアに変身できるのよ?
なんかウチのセリフィアは『あぁ、そういうことですか』みたいな分かった顔してるけど、俺は全く頭が追い付かないんですが?
「ふふ、どうぞ。質問にお答えしますよ。中村さん。」
「あ……うわぁ、なんかセリフィアの顔で『中村さん』呼びされると、ものすっごい違和感あるわ……」
「ふふふふ。」
どうでもいいところが気になってしまうのは、人間の性だよね。
「マスター。しっかり。」
「はい。」
現実逃避して、すみません。
ちゃんと戻ってきて考えますとも。
「あら、すっかり尻に……失礼。」
お姉さんセリフィアが咳払いをして誤魔化している。
いや、美少女の尻には敷かれてなんぼでしょう?
何を言ってるんだ、このセリフィアは。
………イカン。違う違う。
和やかムードに流されてる場合じゃない。
内容が内容だ。ちゃんと考えなきゃ。
とりあえず、さっきのお姉さんセリフィアの反応を見ている限り『偽物の俺』って言い方は控えた方が良さそうだ。
「えっと……まず、そっちの俺と、そっちのセリフィアは……同一人物になってるってこと?」
「えぇ、私は中村であり、セリフィアでもあります。そしてルミナやココナ、覇王院でもあります。」
「えぇ……なんでそこで覇王院が出てくるの……」
「マスター……私たちの発信した動画の内容を把握しているのだと思います。
情報を集めているダンジョンもありましたから。」
「あ、そういうこと。」
「そういうことです。」
お姉さんセリフィアが頷く。
「勝手に説明しますが、言ってみれば私たちはダンジョンそのものでもあるので、ダンジョン内の会話も全て把握しています。」
「えぇ……」
いや、分からんて。
「時事系列おかしくない?
だって、君らが生まれたのって、俺が天哭の塔に入ってからでしょう?
ダンジョンは、その前からあったじゃん……」
「多次元を超えてますので。」
「…………そっか。」
うん。分からんて。
「ふふふ、全てを理解していただく必要はありませんが……
元々、超越魔力の塊だった私たちは、各々が意思を持ったことで起きたイレギュラー……ざっくりと分かり易いイメージで言えば――」
お姉さんセリフィアが俺を見て告げる。
「水晶に触れた後、異世界転生して、超強くなって帰ってきた。そんな感じですね。」
「……いや、分かり易いけど、そんな説明? えぇっ?」
「ただ、その代償として、全が個になり、個が全になったのです。」
お姉さんセリフィアの姿が、スーツ姿の俺に変化してゆく。
「だから、俺は俺だけど、セリフィアでもあるし、他の子でもある。そんな存在になっちゃった。というわけだ。その代わりダンジョン作れるくらいには強い。」
「それ、もう無敵じゃん……」
偽物の俺が頷く。
「うん。そこは否定しない。
でも、それなりに苦労して手に入れた力なんだぞ?
まぁ、というわけで、お前たち前にダンジョンで話してたろ?
『ダンジョンって会社みたい』って、大体合ってる。
俺がCEOで、それぞれのダンジョンの方針は各意識たちに任せてる。」
理解はできる。
だが、理解できない。
ただ、一つだけ言える。
話が通じそうなラスボスで良かった。
「あの、そちらのマスター。」
「ん? おぉ……なんか、その呼ばれ方、久しぶりだわ……なに?」
「率直に伺いますが、ダンジョンの目的って何なんですか?」
「「さっすがセリフィア」」
俺とラスボスの俺の声が被る。
俺は混乱せずに話を進めてくれたことに、ラスボスの俺は、恐らく『聞いて欲しい質問』をしてくれたことに感嘆しているのだろう。
「いくつかある。でも本当の理由は単純だ。
『俺の為』だよ。」
ラスボスの俺が俺を見る。
「『俺たちの為』ってのが正しいかもだけどな……
本物の俺は特別な能力を得て幸せになれる。
そして俺はフィードバックをもらって、俺としての個、それぞれのキャラクターたちの個を取り戻す。その為さ。」
溜息を一つつく偽物の俺。
「俺たちだけ幸せになるのも申し訳ないから、ついでに人類にも幸せのおすそ分けをしようって考えもある。
ダンジョンとして介入しなかった場合、いくつかの人類は滅んでるんだ。
俺たちの子供が不幸な未来に進んでいくのは嫌だろ?」
おどけて見せるラスボスの俺。
回答には納得できる。
俺は利己的な人間だ。
最終、自分だけでも良い生活ができれば、それで良い。
でも、自分が余裕で生活できるなら、周りも幸せであれば良いなと思わないでもない。
「未来のため、ダンジョンができた……ということですか。」
セリフィアが呟く。
「これから、もっと面白くなるぞ。
お前たち、どんどんダンジョン攻略進めるだろ?
超越魔力を取り込んで力を得ていく人間も増えてくる。
そうしたら次は、異世界への扉を開いてやるよ。」
「異世界の扉?」
「俺が飛ばされた世界さ。何人かはもう行ってる。
行った途端、即死する世界もあるから、公開はまだ早い。
だから、どんどん人類にアイテムの貸し出しとか、ポーションの提供とかやっちゃってダンジョン攻略を進めると良いさ。」
…………ふむ。
俺のニコニコ笑顔。
うん、これは営業スマイルだな。
ってことは裏で何か別の考えがある。
きっと人類に異世界に行って欲しいって感じなんだろう……けど、敢えてそこを突く必要は無い。
なにせラスボスが俺の事業を推奨。後押ししてくれてるんだ。
ある意味、公認。
大手を振って遠慮することなく色々やって良いってことだ。
「で、差し当たってなんだが。」
「うん?」
唐突な話題転換。
「本物の俺よ。」
「うん。」
「今……不便してるよね?」
「うん?」
「ほら、能力とかで魔石とかが切れないか……気にしたりさ?」
「……うん。」
なんか………いやな予感がするな。
「あと、あれだろ?
セリフィアとの間の子供とかも欲しいだろ?」
「…………うん。」
……これはアレだ。逃げ道を塞ぐパターンの質問だ。
「そっちのセリフィアってさ、言ってみれば、超越魔力の塊なワケよ。
俺と一緒な? で、お前とは、やっぱり、すこーし違うのよ。」
「うん?」
「俺たちって、病気とかもしないんだよなぁ……超越魔力だし?」
「………何が言いたいの?」
偽物の俺が頭を掻く。
「まぁ、なんだ。お前も超越魔力にならないか? ってお誘い。」
「えぇ……なにそれ、どうやってよ……」
「簡単だよ。復活できる首飾りつけて、一回死ねばいい。
大丈夫! 俺も復活したぜ!」
………………うわぁ。
「ちょっとお待ちください。」
セリフィアが声を張った。




