第128話 生きとったんかいワレ!
『お世話になっております。
塔で色々説明するよ。
中村大輔』
受け取った手紙の筆跡は間違いなく俺の字。そう見えるだけで、確信が持てる。
偽物の俺も本物の俺だから、筆跡に差などあるはずがない。
「石動さんが伝言を預かったようです。
『手紙に色々書こうと思ったけど長くなりそうだったし、一回来たら良い』
そう仰っていたそうです。」
……この面倒くさがり方、俺だなぁ。
手紙書くくらいなら電話するとか言いそうだし、電話が無けりゃあ伝言で良いかってなりそうだ。
とはいえ、偽物が消滅してなかったか。
良かった。
本当に良かった。
なんとなく生きてるだろうなとは思ってたけど、本当に生きていた。
なんか今日は、よく眠れそうなくらいには安心できた気がする。
「……ふむ。」
「どした、セリフィア?」
口元に手を添えて考え込むセリフィア。
「いえ、まるで計ったようなタイミングだな……と思いまして。
ただ相手もマスターですし、案ずるより産むが易しなのかな? と。」
「うん。そんなに気にする必要はないんじゃないかな? だって俺だし。」
天哭の塔が生み出した存在ではある。
だけど、あっちはあっちで本物の俺だったと思うし、変な企みはしないだろう。
……多分。
「まぁ、アークオラクルを動かしちゃったら色々忙しくなりそうだし、行くなら今じゃないかな。俺も、生きてて嬉しいから話したいわ。
ねぇ詩乃、いつ来いとか指定はあったのかな?」
「いえ、特に指定は無いようです。今から向かいますか?
私も興味ありますので、お供します。」
詩乃の提案に少し考える。
今日は1級ダンジョンの配信がメインだったし、思ったよりも早く終わった。
この後の用事は無い。
偽物の俺の視点からアークオラクルについて意見をもらえるかもしれないし、善は急げだな。向かうなら今からで良い。
詩乃については……天哭の塔で始終を見ていたから、同行しても問題はない……いや、むしろ、こっちの変化について、あっちの俺にきちんと報告しておくとしたら、一緒の方が都合が良いかもしれない。
「うん。一緒に行こう。」
全員で、天哭の塔へ向かうことにした。
★ ☆ ★ ☆彡
以前と同じような状態の紅色の結界膜。
イレギュラー後は、通れない大きさに縮んでいたことを考えれば、今は元に戻っているように見える。
結界膜を超えると、ダンジョン内の景色も以前と同じだった。
そびえ立つ塔、赤黒い空、断崖絶壁だけのダンジョン。
「前と同じ感じだな。」
「魔力干渉解析……ん?」
セリフィアがいつものスキャンを行うが、首をかしげている
「……異常はありません……が。んん?」
「何か気になることがあった?」
「いえ、以前と比べて完全にスキャンできなくなっています……念のため、気を付けていきましょう。」
「……わかった。」
セリフィアの言いたいことは理解できる。
最悪の場合、詩乃に『スマホが必要ない』ことがバレても構わないから、能力を使えという事だろう。
あの時点から俺も少しは成長している。
特に、スマホがなくても能力を使えるようになった点は大きい。
偽物の俺との差としても、そこは明確だ。
塔に入る前に、万が一の段取りを頭の中で組み立てる。
セリフィアや詩乃、ヨウコと離れた場合は即召喚し直す。
イレギュラーが起きたら、脳内で即ルミナ召喚。
最低限の準備を終え、二人の様子を見れば、セリフィアも詩乃も進むことに問題は無さそうな雰囲気。
「よし。行くか。」
黒い結界膜に足を踏み入れた――
――と同時に、小洒落た水飲み場が設置されている待合室へと転移していた。
すぐ後から、セリフィアと詩乃も姿を現す。
……これ、二人が偽物と入れ替わってても分かんねぇな。
まぁ、それは俺にも言えることだから、もう考えても仕方ないわな。
余計な考えを引っ込め、周囲を見回す。
人の気配はない。
「ん~……」
思い切り息を吸い込む。
「おーい! 俺ーっ! 来たぞー!」
田舎で友達を呼び出す時のように声を張ってみる。
すると「ゴゴゴ」と壁から低い音を立てて上階へと続く階段が形成されていく。
「あ~……こんなんだったな……あ。」
今、思い出した。
天哭の塔……スキル押し付ける水晶あるじゃん。ヤベェ。
「恐らく大丈夫でしょう。
最悪、また魔石を大量に得て、追い出してもらえば良いのです。」
「あ、うん。」
言わなくても欲しい言葉が来るのね。さすセリ。
どうとでもなる気がしたので、さっさと階段を昇ることにした。
階段を昇り、上階の景色が見えてくると――見慣れた姿。
偽物の俺がスーツ姿で水晶の近くに立っていた。
「お。」
「おう。」
俺が手を上げると、偽物の俺も手を上げ、そして小さく笑った。
なんとなく嬉しいような、不思議な気持ちが湧き上がってくる。
偽物の俺に向かって足を進めながら言葉を選ぶ。
「……あ~、なんだ。『生きとったんかいワレ!』とか言った方が良いかな?」
「好きにしろ。久しぶりだな。本物の俺。」
「何はともあれ、無事で良かったよ。また会えて嬉しい。」
右手を差し出し、がっしりと握手を交わす。
なんとなく笑えて来てしまう俺たち。
「水晶に触れてから、ほんと色々あったぞ。聞いてけ。」
「おう、聞かせてくれ……って、そっちのセリフィアは?」
偽物の俺の姿しか見えない。
「あ~……いるよ。ちゃんと。うん。」
そう言いながら、偽物の俺は少し気まずそうに頭を掻き、
ゆっくりとセリフィアの方へ視線を向けた。




