第124話 覚悟
詩乃みなも連合との戦いは、俺に新しい知見を広める機会をくれた。
結局のところ――
セリフィアがあれこれ気を回しすぎていたのも、
元を辿れば、俺がビシッと『こうだ』と示してこなかったせいだ。
もし俺がもっと主体的に動き、堂々と引っ張っていれば、セリフィアはそれを補佐しながら
「マスターのご意思ですから」
と胸を張って言えたはずだ。
例えば、みなもが『セリフィアが正妻になる』と知って絶望したとしても、その時に俺がすぐに
「セリフィアが奥さんだ! そしてみなもも奥さんだ!」
と宣言していれば、みなもはそれで納得してくれたのだ。
要するに、俺には覚悟が足りていなかった。
セリフィアを奥さんにする。
その覚悟はできていた。
でも、それだけじゃ足りなかったんだ。
俺には、俺に宿った超越魔力が生み出した『彼女たち』を幸せにする義務がある!
最初からその覚悟を持っていれば、みなもに
「ごしゅじんさまが……わたしを……いらないって……思ってるなら……」
なんて言わせずに済んだ。
詩乃に
「誰かを傷つける覚悟があるのか」
と問われることもなかったのだ。
腹を括っていなかったのは、俺だ。
俺が悪かった。
一般常識の中に留まり、
一般人のふりをして、
悪者にならないように振る舞って――
そんな『ことなかれ主義』を貫いていた。
出る杭にならないように、控えて責任を負わなくて良いように。
それは、セリフィアに悪役を押し付けているだけだ。
俺は、世界中から狙われるような力を持っている。
そして、世界中から狙われようが、牽制できる程の力、撃退してしまえるだけの力を有している。
俺は、一般人じゃない。
そんな枠に収まっちゃいけない。
常識の中に収まれないから、常識を壊して行かなきゃいけない。
セリフィアが言うように、王様のように振舞っても当然の力を持ってしまっている。
そしてその力を、自分の目的のために活用している。
その影響のせいで注目を浴びることになったのだから、ぜーんぶ自業自得、因果応報。
これからも力を使うことを改める気が無いのなら、もう『そう振る舞う』べきなのだ。
200人だろうが300人だろうが、全員お嫁さんにしても『それが当然ですけど何か?』 と平然と言えるくらいの覚悟が必要だったのだ!
「――などどマスターは考えているでしょう。とても良い傾向です。
あなた方はとても良い刺激をマスターに与えてくれました……が、正妻は私です。いいですね?」
「ええ。」
「あ、あ、はい。」
どうにも奥さんの序列話になっているが、今はみんなで横になっている。
いわゆるピロートークというやつだ。
……ちゃんとそういう部屋が用意してあるんだから、詩乃は抜かりがない。
「なんで、そんな具体的な俺の心の動きがわかるんだろ。」
「愛です。」
「……そっか。愛ならしゃーないか。」
正妻は強い。
尚、ポーションは4本使った。
何がとは言わんが、詩乃みなも詩乃セリフィアである。
4本目いらなくねって?
そう思う?
「やっと次は私の番。」
両目開いたヨウコがいるんですよ。はい。
まぁ、覚悟ガンギマリの俺は、もういつでもウェルカムですので!
「マスター。」
「うん?」
「牛丼を食べて幸せを感じる王様は、親しみがあって良いと思いますよ。」
「……そうだね。王様だからって無理して王様らしくする必要はないんだよな。
色々な人がいて、それでいいんだ。」
★ ☆ ★ ☆彡
俺の腹が括られた夜が明け、ゆっくりと朝食をいただき、ついでに朝風呂を楽しんでいると詩乃が浴室に入ってきた。
なんというか、うん。
はい。
もう、そういう間柄ですもんね。
「セリフィアさんとお話していたのですが、直接お話ししておいた方が良いとアドバイスを頂いたので、少しお邪魔しに来ました。失礼しますね……」
昨日から裸の付き合いの連発だな。うん。
なんて、しょうもない事を考えつつ、詩乃が湯につかるのを待つ。
「ふぅ……」
「なんか今さらなんだけど……色々とゴメン。」
「ふふふ、いえ、婚約は出来たら幸運だなくらいに思ってましたので……それに縁は深まりましたから、今はそれで十分です。」
ゆっくりと横でくつろぐ詩乃。
詩乃は、やっぱり虎視眈々と色々と狙ってそうな気もするけど、それはそれで俺との縁を深めるためにやっていて、彼女の主軸は常に『俺』なんだよなぁ。
そして恐らく、詩乃は俺に対する害意は無い。
浮世離れした人生を歩んできたせいで、人との付き合い方に癖が強すぎるだけのいい子なんだと思う。
セリフィアやみなもと一緒に色々と話を聞いて、みなもが詩乃の頭撫でたくらいだからなぁ……
「うん。可愛い子なんだよな。」
「ん?」
微塵も自分のことだとは思ってない様子で俺の言葉を拾い、首をかしげる詩乃。
「いや、ただの独り言だよ。」
「そうですか? それでは、少しご報告になりますが……お話しても。」
「うん、どうぞ。ただ正面だと意識が別に向いちゃいそうだから隣でお願い。」
「あら、うふふ。」
少し照れつつ、隣に移動する。
「まず確認なのですが、セリフィアさんが公開した動画の意図は『力の誇示』と『警告』で合っていますか?」
「合ってるね。高難度ダンジョンすら楽に攻略できる力、医療では不可能なレベルで人を癒せる力、一般人を超人にできる力。そして――敵対したらどうなるか……そういう意図でセリフィアが情報を発信してる。」
「そして、次あたりの動画で中村さんが出演予定でしょうか?」
「……うん。セリフィアから企画内容とか聞いた?」
詩乃がクスクス笑う。
「いいえ、聞いてませんよ。ただ想像はできますから。ふふ。」
そう。まだ撮影はしていないけれど、セリフィアの次の動画の企画は、セリフィアたちが俺を接待しつつダンジョンを攻略する動画を撮りたいらしい。
ルミナの行動とかで、セリフィアの言う『マスター』や、ルミナたちの言う『ご主人様』が『戦うスーツおじさん』こと俺だってことは、やんわりと伝わるような構成になっているらしいのだが……
セリフィアの想定した以上に、いわゆる『ガチ恋勢』のような人が湧いているらしい。
セリフィアは自分自身の美少女力を低く見積もっているから仕方ない。
ルミナたちといると『自分は普通』と思ってもしまうのかもしれないが、セリフィアは超絶美少女なのだ。
だから、そういった人が出るのは当然のことだと俺は思う。
変な説が生まれる前に『誰がマスターで』、『誰に手を出してはいけないか』を伝える趣旨の動画を撮りたいのだと。
これまでの俺は、そんなガチ恋勢にケンカを売るような真似はしたくないと思って、やんわり拒否していた。
だけど、もう俺の腹は決まったし、動画は今度撮影するつもりだ。
「中村さんは会社でお名前も出ていますから、動画でも発信された方が、より分かり易くなるでしょうね。」
「あー、うん。会社でも分かるか。」
「はい。現状でも、ちゃんと分かる人は分かっている状態ですが……世の中には、どれだけ分かり易くしても『分かろうとしない人間』もいますから。」
詩乃が溜息をついた。
「……困りごと?」
「そうですね……盾としての機能は果たせているのですが……動画の影響が強く、結構大変になってきています。セリフィアさんも、もう少し小出しにしてくれても良かったのに……」
ふむ。
この詩乃の苦労は、本来なら俺がするはずの苦労だ。
それを防いでくれている人が大変なのはよろしくない。
……それに詩乃は俺の子供を産んでくれる人だし、疲れの原因は取り除きたいな。
「具体的には、どんな感じで大変なの?」
「主に利権関係です。薬、ダンジョン、ダンジョン資源に絡む企業など。特に薬関係に至っては国内外問わず権力者も寄ってきて大変です。」
「権力者って?」
「いざという時に責任逃れが出来るような、逃げ道を作れるような人間ですね。実行部隊が二の足を踏んでいても、ソレがせっついて動かそうとしている感じです。」
「あ~~……」
よく『秘書がやったこと』とか言うアレだ。
監督責任でトップが責任取れよとしか思わんけど、それで余裕で逃げられる政治家とかが、すぐにイメージできちゃう。
たしかに、そいつらにしてみれば、どれだけ私利私欲で指示を出そうが、自分は痛い目を見ないもんな……そういう立場の権力者だ。
「なんか、自分だけ安全な所から文句言ってそうな人が思い浮かぶよ。」
「仰る通りです。」
詩乃が俺を見ている。
「例えばさ……そういう人って『自分が安全じゃない』って気がついたら、どういう行動をするのかな?」
「それはもう、これです。」
詩乃が手のひらを、ひっくり返すジェスチャーをする。
「なるほどね……」
「逆に言えば……そう思わない限り、止まらないとも言えます。」
「ふむ……つまり、いつかは俺かセリフィアが行動することになる……」
詩乃に微笑んでみせる。
「……なら、早い方がいいよね。」
詩乃が少し驚いたような表情をし、ゆっくりと嬉しそうに微笑んだ。




