第123話 詩乃 vs 滲みなも=
「あ、わ、わたし……こ、この人と、やだ……」
みなもがこっそり呟く。
その声を拾った全員の視線が一斉に集まると、みなもは完全に俺の後ろに隠れた。
「だ、だって……こわい……お、おかねと人、いっぱい持ってるって……こわい……」
詩乃のぶつけた『財閥パワー』の圧は、みなもに効果テキメンだったらしい。
『滲みなも』って名前からしても、日本っぽい感じがあるから『お金と人脈を持ってる人は怖い』って感覚には納得しちゃう。うん。
……いや、でもこれ。試練になるのか?
みなもが詩乃に勝てるイメージができないんだが?
完全に怯えた小動物なんだが?
セリフィアが詩乃に向き直る。
「始めても……よろしいですか?」
「私のことを信頼いただけているからの試練なのだと理解しています。
ご安心ください。私は全キャラクターの性格、傾向をしっかりと把握しています……だから大丈夫です。」
詩乃の言葉に、セリフィアがゆっくりと頷く。
そして、みなもに視線を向ける。
「こちらの鷹司さんは、ご主人様と関係を結びたがっています。身体の関係を。」
「…………あ?」
静寂。
室内の気温が一気に下がったような錯覚。
俺の背後から何かが動き出すような気配がし、得体の知れない怖気に身体が強張る。
みなもが、俺の背中に貼りついたまま震える。
「……か、か、か……かんけい……?」
声が震えているのに、空気がどんどん重くなる。
みなもが、ゆっくりと俺の背中から顔を出して詩乃をじっとり見つめると、しっとりした湿気が、部屋の中に満ちていくような感覚。
俺は無性に『ヤバイ』という思いに支配されてしまう。
だが詩乃は、この変化の中でも、ゆっくりと優雅に微笑みを浮かべて口を開いた。
「みなもさん。なぜ、私がそうするのか理由を聞いてくださいませ。
セリフィアさんは、もうあなたのご主人様と『結婚』するつもりでいらっしゃるのですよ?」
「…………え?」
みなもの動きが止まる。
セリフィアが、珍しくそっぽ向いた。
詩乃がさらに言葉を続ける。
「私の申し出は事実です。ですが、あなたのご主人様を真に独占しようとしているのは……実はセリフィアさんなのです!」
な、なんだってー!
……ノリで言ってしまったけど、それはセリフィアじゃなくて俺が言い出したんだけど?
みなもが怖いから、言えないけど。
「……セリフィアさん…が…ご、ごしゅじんさま……と……け、けっこん?」
みなもは、ゆっくりと俺の背中から出している顔をセリフィアに向けていく。
目は髪で隠れているのに、なぜかじっと見ていることは分かる。
そしてセリフィアは、みなもの視線をプイっと避けた。
「そうです。ご主人様を独占しようとしているのです。これは……みなもさんにとって看過できないことでは?」
「……ごしゅじんさま……と……けっこん? ……セリフィアさん?」
セリフィアをじっと見るみなも、そっぽ向いたままのセリフィア。
そんなみなもに詩乃は畳みかける。
「みなもさん。あなたはマスターを大切に思っているのでしょう? ならば……独占されるのは、嫌ではありませんか?」
「……やだ……ごしゅじんさま……とられるの……やだ……」
みなもは、愁いを含んだような、しっとりとした声で呟き、詩乃は微笑む。
「では、私と協力しませんか?」
「……きょうりょく?」
「ええ。ご主人様を……思いとどまらせるために、です。」
みなもは、ゆっくりと詩乃の方へ顔を向ける。
「……ごしゅじんさまを……思いとどまらせる………いっしょに?」
「はい。ご一緒に」
詩乃が手を差し出す。
みなもは、ためらいながらも――その手に、そっと触れた。
「……でも、ど、どうやって?」
「簡単ですよ……わたしたち二人でご主人様を篭絡するのです!」
「え、え……え?」
みなもが戸惑う。
俺も戸惑う。
セリフィアはそっぽ向くのを止めて二人を見ている。
「ご安心ください。みなもさんが普段は強気なのに、受けになった途端ヘタレになる部分は、私がカバーします!」
「へ……へ、ヘタれじゃないもん……」
みなもが、うりゅ、とした顔になる。
「私たちで、あんなことや、そんなこと、あまつさえ、そこまで? なことを繰り広げ、ご主人様をメロメロの骨抜きにするのです!」
「あ、あんなことに……そんなこと……ぐふぅ、ふ。」
みなもがねっとりした視線で俺を見た。
すごく……捕食者です。
「あー………そういうことか。」
そして、俺もなんとなく分かった。
いや、詩乃は理解していたっぽいし、俺の理解が追い付いたって言うのが正しいか。
セリフィアは、みんなより抜き出る形で『正妻』の立場を射止めたことを、少し申し訳なく思っているのかもしれない。
そして仲間の思いを知っている。
だからそれを自分で伝えるのが、心苦しかったり、もどかしかったりしたのだろう。
特に、みなもみたいな………愛情が深い? タイプには色々と思う所も多かったに違いない。だから詩乃を緩衝材に使ってみた……そんな可能性があるのかな?
あと、俺の『詩乃を抱けるなら抱きてぇ』ってのは本心ではあったし、一石二鳥?
いや鷹司と良好な関係をキープできることも考えれば、一石三鳥を狙ったという計算もありうる。
代償は詩乃と俺がいたしてしまうこと。
だけど、なんとなく、ここは元から許容しているっぽかったしな。
詩乃なら、こう動くだろうという予想込みで、成り行きに任せてみたのだろう。
「ふふ、ならばあなたたちで、マスターの私への思いを変えられるか……試してみると良いでしょう。」
うむ。
セリフィアの後押しも来た。
多分、合ってるなこりゃ。
つまり、俺はこれから、詩乃とみなもに襲われるわけだ。
ならば、甘んじて全てを受け入れよう。
否、受け止めること。これこそが俺の仕事!
「望むところだぁっ!」
かかってこいやぁ!




