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現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


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第120話 令嬢よ婚約破棄だ(婚約してない)

18時少し前の夕方。


「……なんか、緊張してきたなぁ」


思わず漏れた俺の独り言に、隣のセリフィアが小さく笑う。


「大丈夫ですよ、マスター。言ってみれば今日はただのお礼と確認の場ですから、

それに鷹司さんは敵ではありませんし、むしろ味方ですので。」

「いや、まぁ……そうなんだけどさ……」


『婚約の話を正式に断る』

その一点だけで、少し胃がキリキリしてきそう。


向かう場所は、宿泊も可能な高級料亭『霞月庵』の離れ。

料亭の門をくぐり、女将から超丁寧な挨拶を受けて、詩乃の待つ離れへ案内されている。


向かう道中の庭園も広く、そして雅だ。


鷹山さんの説明では、鷹司家が昔から使っている迎賓館扱いの特別室らしい。

そんな場所――言ってみれば完全に向こうのテリトリーに入っていって婚約破棄の話をするってシュチュエーション。

緊張しない方が無理ってもんだ。


「……なんかちょっと場違いな気がしてくる。」


立派な建物に入る事には慣れてきたけど、俺の中の小市民は、まだまだ小市民なんだぜ。


「ふふふ、マスターは『この国で最も価値のある人物』ですから、この程度は当然かと。」

「いやいやいやいや。」


サラッと言うんだよな。

最近、刷り込み狙ってね? とか思っちゃうよ。


俺があと10年若かったら真に受けて完全に調子に乗ってるよ? マジで。

だって、今の俺でも結構調子に乗ってる気がするんだもの。


「それに、詩乃さんも『そのつもり』で準備しているはずです。」

「それもそうか。」


鷹山さんはセリフィアの秘書っぽい動きをしている。

だけど、本業は鷹司家側だから、俺とセリフィアのしていた会話の内容が詩乃に伝わっていないはずもない。

つまり、車中の会話は筒抜け。その理解で間違いないだろう。

むしろ俺も鷹山さんの姿がある時は、そう思って言葉を選んでいる。


そう思うと、なんとなく腹も決まり、手が勝手にネクタイを軽く整える。


「……うん、腹が座った気がする。ありがとう」

「どういたしまして」


手入れの行き届いた庭園。

そして見えてくる、離れの建物。


「は~……ご立派……」


思わず声が漏れる。


「この離れは鷹司家が『本当に大切な客』を迎える時だけ使う場所だそうですよ。」

「うぉう……」


セリフィアが静かに微笑む。

そのまま案内に従って離れに入る。


「ようこそお越しくださいました。」

「あ、ども。」


三つ指をついて頭を垂れ、静かに待つ詩乃の姿。

和装と、その所作があまりに場に合っていて、思わず息を呑む。


詩乃も黙って令嬢をしていると、これぞ高嶺の花という雰囲気を持っているのだから、なかなか静かな迫力がある。


それにD1免許持ちで修羅場もくぐってるんだから、本当に変わった女性だ。


「募るお話もございます……が、本日は、まずお食事を楽しんでいただければ。」


いきなり婚約破棄を告げるのもどうかという気持ちと、ちょうどお腹も減っていたので、流れに乗る事にした――



詩乃についていった先、襖が静かに開くと、そこはまるで別世界だった。


柔らかな灯りに照らされた畳の香り。

庭から聞こえる水音。

床の間には季節の花が一輪、凛と生けられている。


詩乃に促され上座に座ると、女将か料理長の直筆だろう丁寧に筆で書かれた献立表を手渡されたので、受け取って目を通す。


【先付】

 ・胡麻豆腐 山葵美味出汁

 ・季節野菜のお浸し


【八寸】

 ・鴨ロースの低温仕立て

 ・菊花蕪

 ・銀杏の塩煎り

 ・いくら醤油漬け

 ・季節の酒肴盛り合わせ


【椀物】

 ・清汁仕立て

   白身魚、湯葉、柚子


【向付(お造り)】

 ・中トロ

 ・真鯛

 ・甘海老

 ・霞月庵特製昆布締め

   山葵、土佐醤油、藻塩


【焼物】

 ・のどぐろ塩焼き

   または

 ・和牛朴葉焼き 味噌仕立て


【煮物】

 ・里芋の含め煮

 ・蟹と蕪の餡かけ


【強肴】

 ・季節の天ぷら盛り合わせ

   抹茶塩、檸檬


【食事】

 ・土鍋炊き白米

 ・赤出汁

 ・香の物三種


【水物】

 ・季節の果物

 ・黒蜜きなこ わらび餅

 ・抹茶アイス


【薄茶】

 ・お点前



……期待しかない。


なんだろう。

こういう懐石の品書きみたいなのって、読んでるだけでテンションが上がる。

実際に格式高いんだろうけど、普段とは違う雰囲気を感じて、めちゃくちゃ楽しみが増してくる。


ふと、足を突かれるような感触に目を向けると、影から少しだけ顔を覗かせたヨウコが、珍しく両目を開けて、うるうるとした瞳で俺を見上げていた。


…………うむ。


「………あ~、詩乃。急で悪いんだけど、もう1人前って……増やせたりする?」


俺の言葉にヨウコの表情が明るく輝く。

セリフィアが居る以上、毒の危険が皆無だからな。

『ニンジャ』のヨウコが、和の空間での『カイセキ』に惹かれないはずがない。


うん。これは仕方がない。


快く承諾してくれた詩乃の計らいで、ヨウコも懐石を楽しむことになった。



★ ☆ ★ ☆彡



料理はどれも驚くほど美味しい。

美味しい料理は、それだけで気分を良くしてくれる。


詩乃との会話もゆるやかな雰囲気で、どちらかといえば食事を楽しみながらの報告会のよう。


協力して公開した動画の反響、その後の取り組み、周囲の対応の変化など――どれも興味を惹かれる話ばかりで、気がつけばあっという間に時間が過ぎていた。


詩乃の報告をまとめると、ちょっかいをかけてきそうだった連中は、今は揃って様子見に回っている。

総じて敵対的な動きは見られず、むしろ『鷹司が絡んでいる』と知ったことで、間を取り持つよう願うアプローチが増えているらしい。


……なるほど。

こうなると、鷹司との協力体制は俺にとってメリットが多い。


報告の内容を聞く限り、詩乃の父親、鷹司家の当主からも、俺との関係について一定の理解は得られているようだ。

見えないところで『絶対逃がすな』みたいな感じだろう。俺だったら、そう言う。

話している雰囲気として、そんな感じが見えないのは流石だけど。


もし俺が詩乃と婚約していなくても、鷹司家は俺を手放したくないはずだ。


俺としても鷹司のサポート体制があるに越したことはない。

鷹山さんみたいなセリフィアの手伝い役がいると、セリフィアのリソースを他のことに割けるからな。セリフィアがやりたいことがやれるようになる。


鷹司は『無くてはならない』わけじゃないが、『あるならありがたい』。

そんな風な存在だ。


「さて、中村様。なにか気になった点などはございませんか?」


詩乃に水を向けられ、切り出すタイミングだと判断し、一度襟を正す。


「詩乃……いえ、鷹司さん。もう耳にしていると思いますが、一度はっきりとしておこうと思いまして。聞いていただけますか?」

「……はい。お伺いします。」


詩乃の凛とした雰囲気に変化は見られない。

腹の座りように、逆に気圧される気がする。


だが、真っ直ぐに詩乃を見て、口を開く。


「私は、貴女と婚約はしません。」



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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 婚約破棄(元々してない)やったぜ…と感じてしまうのは何故でしょうかね? まぁ最初から中村さんを利用したれ…という「俗物が!(ハマー○様ボイス」と言いたくなる思考が丸見えだった→好…
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