第118話 方舟の乗組員たち
会議室に残ったのは、俺を含め7人。
俺、セリフィア、鷹山さん。
そして社員として残った永井、松村、神代、九重の4名。
……正確には、俺の影でヨウコが寝てるから8人だけど、ヨウコはもう別枠だからな。
さて、記憶が少し曖昧になっているから違う可能性もあるけれど、永井さんと松村さんは、確かマナ・マテリアルズの社員さんだったはず。
神代さんと九重さんは試験官だったけど……
まぁ、この2人は詩乃の息がかかっている。
鷹司グループの一員として、上の意向で出向してきたみたいな形だろうから理解できる。
だが、このマナ・マテリアルズの2人は一体?
「お久しぶりです、中村様。その節は大変お世話になりました。
改めまして永井結月です。
また、これからよろしくお願いいたします。」
2人揃って丁寧に頭を下げる。
この感じはマナ・マテリアルズで対応してもらった時の記憶を鮮明に呼び起こす。
「えっと、永井さん……と、確か松村?さんでしたよね? マナ・マテリアルズの。」
「覚えていただいていて光栄です。松村真理亜です。」
永井さんがしっかり者系美人で、松村さんはふんわり系美人。
そんな印象で覚えてたんだよな……
あの時は、客と店員という関係だったけど、今は上下関係が生まれてしまっているので、どう声をかけたものか少し悩んでいると、セリフィアが口を開いた。
「私が永井さんと何度かやり取りをしていたのですが、三度目のお電話の際に、少し異常を感じまして……」
「異常?」
永井さんに目を向けると、少し目を伏した。
「はい。あまりに切羽詰まった感じと言いますか……追い込まれているような雰囲気を受けましたので。
恐らくマナ・マテリアルズの上司から『何としてもマスターを繋ぎ留めろ』と強く言われ続けているのだろうと推測しましたところ……その通りでした。」
「…………えぇ?」
そんなことになってたの?
永井さんを見ると、静かに頷き、そして俺を見た。
「冷静になった今思うと、我ながら、けっこう危なかったな……と思います。」
哀愁漂う表情。
永井さん……まだ若いのに、その顔は『疲れ切った社会人』にしか出せない表情だよ……それ。
やだ、可哀想。
「あまり良い職場環境ではなさそうでしたので転職を勧めました。
下手にマスターに突撃されても迷惑でしたので。」
「おぉっ?」
そんな冷たく言うなやと思い永井さんを見ると、何度も頷きまくっている。
「本当に助かりました。あの時は、結構思い詰めてたので……押し掛けたり、やりかねませんでした。」
「おっ!?」
いや、相当やんけ……
「永井さんはダンジョン資源の精製や物流関係にお詳しそうでしたので、私としても渡りに舟でしたのでヘッドハンティングしたというわけです。鷹司さんの手も借りたので穏便に進みましたよ。」
「……そっか。まぁ、なんだ。良い方向にいってるなら良いんだ。」
会社の善し悪しってあるしな。
そこに染まっていると悪いところが見えなくなることも、よくある。
ダンジョン資源の精製・物流事業も手掛けるって言ってたし、ちょうど良いな。
でも、そうなると……松村さんは一体?
俺が視線を向けると、察したように微笑む松村さん。
「永井が辞めると、次にお鉢が回ってくるのは私でしたので。売り込ませていただきました。」
「おぉう……」
松村さんは危険察知能力が高い……いや、嗅覚が鋭いのか。
多分、ウチの会社は働く側にとっては優良企業だろうしな。
「セリフィア。ちなみにあの金鉱石はどうなったの?」
「こっちの仕事に回しています。ですよね?」
セリフィアが永井さんに目配せする。
「はい。マナ・マテリアルズに精製手数料を払う形にはなりますが、純金自体は流通が容易ですので保管をお薦めします。
その他の素材については、そのままマナ・マテリアルズが対応を進めていますが、私に対応をお任せください。」
ニッコリと、目が笑ってない笑顔の永井さん。
これはアレやな。
『勝手知ったるあの会社。遠慮なく色々進めてやりますよ』の顔や。
「じゃあ、永井さんにお任せします。」
「かしこまりました。」
頭を下げると、二人も頭を下げた。
そしてそのまま神代さんたちに向き直る。
「どうも、神代さんは試験以来ですよね?」
「……そうですね。」
ビシっとスーツを着ていて印象が違う。
だが、歴戦の探索者らしく堅苦しいのは得意ではなさそうに見える。
とはいえ、社会人なら、その場に応じて色々対応できて当然とも思うから。
『崩せば良いよー』なんてのは言わない。
ミスしても問題ない俺だからこそ、練習しとけばいいと思う。
つーか……そう見えるってだけで、詩乃絡みだから、むしろ得意もあるのか?
……まぁいいか。
「こちらのお二人は、ダンジョン資源絡みで詩乃の関係?」
「はい。その通りですマスター。補足すると、ダンジョン資源とダンジョン安全管理事業を見越してですね。」
セリフィアの言葉に、俺は思い出す。
「そうそう。その『安全管理事業』って、なんなの?」
「簡単に言うと、ダンジョンマップなどの作成です。
マスターのお薦めアクセサリを装備した神代さんや九重さんが、2級ダンジョンで怪我をしそうですか?」
「あー……全然怪我しなさそう。」
「九重さんはバックアップや撮影、事務関係も得意そうでしたので、合わせてお願いしました。」
「……どうも。」
「……あの。九重さん、なんだか、痩せました?」
どこかクマがある顔。
疲れ切ったOL感が滲んでいる九重さん。
「……えぇ、色々と、ありましたので……天哭の塔とか……D1とか……」
「あ。」
俺じゃん。
やらかした。
九重さんの痩せた原因、全部俺関連じゃん。
「え~……と、セリフィアさんや。九重さんに特別休暇とか……無理?」
「大丈夫ですよ。」
それは……どっち? 良いの?
「九重さんは今日、お話をお伺いしてからリフレッシュ休暇に入っていただきますので。」
「あ、良かった。」
ちょっとホっとした。
いや、カグヤ召喚してスキル使ってもらえばいいのか。
この面子なら……まぁ永井さんたちは見たことないだろうけど、セリフィアに聞いてOKだったら召喚しよう。
「で、聞きたいのは……もしかしなくても天哭の塔の経過?」
「はい。その通りです。九重さんのところに情報が集まっていたようですので、現状をお伺いしたいな。と。」
九重さんが、休暇前の『もうひと頑張り』の顔になる。
「はい。天哭の塔ですが、イレギュラーが起きて侵入できなくなっていましたが、現在は侵入が可能な状態に戻ったようです。
近々に石動さんが塔内部の変化が起きていないか確認に向かう段取りが進んでいます。」
「へぇ……」
天哭の塔が、普通に戻っている。か。
この場合、セリフィアの推測だと――
『ダンジョンをまとめて管理しているような存在がいる可能性が高い』って話だったよな。




