第116話 反則販促ぅっ!
うんうん。いいぞーいいぞー。
スチールワームを真っ二つにして固まっている真坂君を、俺はしっかりとフレームに収めながら内心でニッコリ微笑む。
俺自身の身体能力も上がっているおかげで見失うことはないが、普通の人なら今の真坂君の『ニンジャめいた動き』についていくのは難しいだろう。
それくらい、彼の動きは素早かった。
「あ、あの? え? ……あれ? 僕……突いただけ……あれ?」
そうよなぁ。そうよなぁ。
スチールワームは鉄みたいに硬いから、普通は切れるはずないもんなぁ。
それが俺の装備の真価なんやでぇ。
混乱して説明を求めるような表情の真坂君を、俺はニッコリ撮影する。
「お見事です。アビスダガーの力、そしてアクセサリの力を実感いただけたのではないかと。」
俺の後ろから拍手しながら近づいてきたセリフィアにカメラを向けると、彼女も柔らかく微笑んでいた。
撮影しやすい位置に立ってくれたので、二人が綺麗にフレームに収まる。
「あの、これが……このダガーと、首飾りの力……なんですか?」
「はい、これが装備の力です。真坂さんが強いわけではありません。」
セリフィアが、まるで『火のついたマッチを持った子供』に言い聞かせるような顔で念押しをしている。
「……はい!」
年下に見えるセリフィアに言われているはずなのに、さっきよりも大きな声で返事をした真坂君。
混乱しているだろうに、ちゃんと理解しようとしているのが偉い。
……まぁ、セリフィアに指導される感じって、クセになるからな。
それを感じ取った可能性もなきにしもあらず。分かるぞ、その気持ち。
俺はカメラ越しに頷きながら、彼の表情の変化を逃さないようにフレームを調整する。
今日の主役は真坂君だ。
「では、探索を続けましょう。このまま坑道をまっすぐ進んでください。
スチールワームが複数出ますが……問題ありません。」
「も、問題ないんですね……はいっ!」
まだ不安そうな顔をしつつも、真坂君はアビスダガーを握り直して前へ進んだ。
★ ☆ ★ ☆彡
「ピギィッ!」
「ピギャァ!」
「ピギャアアアア!」
――坑道を進むたびに悲鳴が響く。
真坂君がダガーで軽く突いたり、撫でるだけで、スチールワームが
縦に、横に、斜めに、
好き放題に真っ二つになっていく。
「……」
「はい、装備の力です。」
「そ、そうですよね……!」
自分の手をニギニギしながら見つめる真坂君。
『もしかして自分が何かの力に覚醒したのでは?』なんて思いそうなタイミングでセリフィアが即ツッコミを入れている。
夢を見せてあげても良いのでは? とも思うけど……こっちの方が真坂君の為なんだよな。
下駄を履いていることを理解しておかないと、後で痛い目を見てしまう。
真坂君が俺たちの企みが基でケガとかしたら、寝覚めが悪い――
「ピギャッ!」
「ギャピィッ!」
少し進んだところで2匹をまとめて倒したところで、ダガーと自分の手を見る真坂君。
5級ダンジョンのモンスターを瞬殺しまくっているのだから、そりゃ考えるよな。
「真坂さん、繰り返しますが、これは装備の力です。真坂さんが強いわけではありません。」
「はい! 分かってます!」
セリフィアは淡々と、しかし優しく念押しを続ける。
……ほんとに分かってる?
そんな気持ちを胸にしまいながら、俺は『ちょっと誇らしげな顔』の真坂君をしっかり撮影した。
歩調も軽く、セリフィアの指示に従って下層に降りたりしながら、しばらく進むと、坑道の雰囲気が変わってきた。
なんだか壁の色が濃くなったような印象、天井の支柱も古いように感じる。
「……あれ? ここ、なんか……」
真坂君も変化に気づいたようで足を止める。
「はい、要注意エリアです。」
「えっ!? 要注意エリア!?
要注意エリアって……採掘ゴーレムが出るっていう……あの……?」
「ええ。採掘ゴーレムが出ますね。普通の探索者の方は少し危険ですね。」
セリフィアがさらっと言う。
真坂君は、ちゃんと下調べしてて偉いなぁなんて思いながら、俺はカメラを構え直す。
「ま、待ってください! 僕、そんな……!」
「大丈夫です。真坂さんの力では無理ですが、今は装備の力がありますから。」
そんな雑な説得でええんか?
「…………はい!」
ええんかい。
まぁ、分かる。
装備で強くなったって頭で分かってるつもりでも、これまでできた実感が『俺ならやれる』みたいな万能感に繋がっちゃうんだよな。
「そろそろ来ますよ。採掘ゴーレムが。」
「えっ?」
セリフィアが指さした方向から、揺らめく明かりと金属の擦れる音、そして重い足音が響いてくる。
ゆっくりと姿を現したのは、錆びた鉄板を繋ぎ合わせたロボットのようなモンスター。
胸の中心に、むき出しの光る炉のような物があり、周囲を淡く照らしている。
「ひっ……!」
真坂君が声を漏らす。
人よりも一回り大きいサイズのモンスター。
真坂君は7級を中心に活動しているから、人型モンスターと対峙したことは無いはずだ。
プレッシャーを感じるのも仕方ないことだろう。
「真坂さん、採掘ゴーレムは胸部の炉が弱点です。そこを狙ってください。」
「……は、はいっ!」
セリフィアが慌てる素振りがまるでない事が、真坂君の気持ちを後押ししたのだろう。
彼の視線がセリフィアや俺、そして覇王院を見てから落ち着いたような気がする。
真坂君がすぐに返事できたのは……覇王が控えている安心感かもしれない。
やる気を取り戻した真坂君が一歩踏み込む。
まぁ、下駄を履かせた『すばやさ』があれば、採掘ゴーレムなど隙だらけにしか見えないはずだ。
――予想通り、何の問題もなく胸の炉に向けてアビスダガーを突き出した。
ガシャアアアンっ!! と大きな破壊音を立てて炉が粉々に砕け散ると、採掘ゴーレムは形を保つことが出来なくなったようにバラバラと崩れ落ちる。
「……えっ」
固まる真坂君。
カメラ越しにニヤニヤが止まらない俺。
セリフィアは優雅に頷く。
「はい、これも装備の力です。真坂さんが強いわけではありません……ですが、お見事でした。」
「……はいっ!!」
真坂君の声は、さっきよりもずっと大きく、そしてどこか誇らしげだった。
★ ☆ ★ ☆彡
この後、覇王院がポーター役をしてくれたので、採掘ゴーレムの魔石や、要注意エリアで採れる質の高いレアメタルをセリフィアの指示で回収した。
これらは全部、真坂君のお土産の予定。
……なにせ、俺たちには別の儲け口があるからな。
「もう撮影は十分ですね。そろそろ帰りましょう。」
「……はい。」
幾分名残惜しそうな真坂君。
追加で2体の採掘ゴーレムを真坂君が倒しているから、もう少しこのダンジョンを探索したい気持ちがあるんだろうな。
ただ、セリフィアの判断は正しいと思う。
少し『ダンジョンを怖いと思っていない』雰囲気が出てきている。
そのまま真坂君無双のまま帰り道を進み――出口が近づいてきた。
「さて、真坂さん。本日はありがとうございました。
そろそろスチールワームが1匹出てきます。
ここで一度、真坂さん本来の実力を実感していただきましょう。
首飾りとアビスダガーを返していただけますか?」
「うっ…………」
あれほど『装備の力』と言われていたせいだろう。
とてつもなく名残惜しそうな、内心で様々な葛藤をしまくってそうな表情を少しだけ浮かべた真坂君。
だが、大人しくアビスダガーと首飾りをセリフィアに返した。
真面目な真坂君でなければ、持ち逃げや奪取を考える可能性はあったと思う。
だが、彼は道を外さない。
本当に良い人だ。
セリフィアも満足そうに頷いている。
……まぁ、万が一道を踏み外しても俺たちに勝てる可能性は皆無だし、仮に持ち帰ることに成功したとしても、俺のボタンポチーで持ち帰った装備が消えるんだけどね。ハハッ!
「でも……あの、武器も無しでダンジョンは流石に……」
「ご安心を。」
セリフィアの視線を受けて、召喚しておいたルーキースピアを覇王院が渡す。
ルーキースピアだけでも、普通の槍と比べればとんでもなく良い性能があるんだけどね。
「さて、真坂さん。この先にスチールワームがいます。
今、装備の力はほぼ無くなりました。
安全のために安全マージンの広い『槍』を用意しています。
これまで無双は忘れてください。
そしてコンクリーパーと初めて対峙した時を思い出し、スチールワームと対峙してください。」
「……はい。」
納得したような、納得できていないような真坂君が、スチールワームに槍を向けるのだった。
★ ☆ ★ ☆彡
ダンジョンの結界膜を抜けた瞬間、外の空気が一気に肺に流れ込む。
「……はぁ……はぁ……」
真坂君は、スチールワーム一匹と見事な泥仕合を繰り広げてくれた。
本当に素晴らしい泥仕合だった。
スチールワームの『鉄』を語る硬度を、これでもかと感じさせてくれる攻撃。
槍の穂先が当たるたび、硬質な音と共に弾かれる。素晴らしい。
そして、これまで鈍間に感じていただろうスチールワームが、実は思った以上に素早いと感じただろう慌てっぷりと混乱。
一般人が鋼鉄の虫を戦うとこうなる。
そんな『さもありなん』が全部詰まっている感じの戦い。
で、無事に倒したのかというと。
はい。倒しました。
覇王院が。
あまりにグダグダで『倒せないんじゃね?』感が出てきたので、覇王院がサッカーボールキックで消し飛ばしました。
はい。
『消し飛ばし』ました。
蹴った部分だけ。
直視した真坂君の表情の変化が、とても面白かったです。
もう俺、満足。
ダンジョンの外に出て緊張が解けたのか、
真坂君は膝に手をついて呼吸を整えている。
さっきまでの無双モードが、装備の力だったと実感しているだろう。
そして、戻ってきた現実と向き合っているのだろう……。
そんな真坂君の様子をしっかりと撮影させていただき、準備万端のセリフィアへカメラを向ける。
「というわけで、本日のコラボ探索はここまでとなります。
真坂さん、初めての5級ダンジョン、お疲れさまでした。」
「は、はい……ありがとうございました……」
まだ魂が半分抜けているような返事。
だが、それが逆にリアルな体験談として視聴者に刺さるはず。
「さて、今回、真坂さんに使用していただいた装備――
『トリックネックレス』と『アビスダガー』ですが……」
一拍置いて、カメラ目線で微笑む。
「今後、レンタルサービスを開始する予定です。」
はいきた。
反則アイテムの販促ぅっ!
これが今回の動画の目的。
真坂君はとても良い仕事をしてくれたと思う。
俺も自分の仕事をこなすべく、しっかりセリフィアの営業スマイルをしっかり撮影する。
「もちろん、使用にはいくつか条件がありますが……今回のように安全にダンジョンを体験できるよう様々なサポート体制を検討しております。」
放心していた真坂君が顔を上げる。
「……あれ、レンタル……できるんですか……?」
疲れ切っているのに、その目だけはキラキラしていた。
うんうん、とてもいい反応。
彼が嘘をつかない人だということは、この動画で興味を持った視聴者が彼のチャンネルを見れば確信するだろう。
セリフィアが最後に、いつもの締めの挨拶を丁寧に言い切る。
「それでは――本日もご視聴ありがとうございました。
次回の動画も、お楽しみに。
マスターと一緒チャンネル、セリフィアでした」
深々と一礼。
その横で、真坂君も慌てて頭を下げるのだった。




