第114話 鉄層坑道攻略コラボ
大分、撮影にも慣れてきた。
自分が裏方だと思うと、不思議とやる気が湧いてくるし、しっかり仕事をこなすぞという気概まで生まれてくる。
自分がメインで映るよりも、カメラマンとして撮影している方があっている気がしてならない。
「おはようございます、こんにちは、こんばんは。
『マスターと一緒チャンネル』へようこそ。
マスターの忠実な下僕、セリフィア・アークライトです。」
撮影という名目があれば、美少女をじっくり視姦しても何も問題がないのだ。
気になったところも撮り放題。そこが視聴者の見たいところなのだから仕方ない。むしろ仕事中ですがなにか? である。
うん。やはり、とても良い。
最近は、俺の影から半身を出したヨウコが、無意味にレフ版やカンペを構えたりして小ボケをかましてくる姿も慣れ、むしろそれが楽しくなるくらいには、やりがいを感じ始めている。
……意外とヒマを持て余すと陽気なことしてくるニンジャなんだよな。ヨウコって。
ただ今日の撮影はその姿を見ることは無さそうだけど。
「さて、本日は趣向を変えまして、他のダンジョン探索を配信されている方にコラボを打診しましたところ、快くお引き受けいただきました。ご登場いただきましょう。真坂さんです。」
いつもセリフィアが企画を立てて、なにもかもお膳立てをしてくれるのだが、今日の撮影はまた趣向が違う。
セリフィアに促されやってきたのは、緊張が伝わってくる面持ちの真面目そうな若者。
しっかりフレームに収める。
「ま、真坂正です! 今日は、どうぞよろしくお願いしますっ!」
「はい。よろしくお願いします。
ご登場いただいた真坂さんについて説明させていただきますと『まさかのダンジョンチャンネル』というチャンネルで、ダンジョンの攻略動画を配信されている探索者の方です。
配信歴も2年になる先輩ですね。」
セリフィアがお愛想の笑みを浮かべると、真坂が慌てて首を横に振った。
「いえ、そんな先輩だなんてとんでもないです! 自分のチャンネルに登録いただいているのは約3000人の方だけですので……80万人以上の登録者を持つ大人気の『マスターと一緒チャンネル』と同じ配信者と名乗るのも烏滸がましいです!」
……そう。彼は、とても良い人なのだ。
「いえいえ、とても真剣にダンジョンを研究され、配信も定期的に継続されている素晴らしいチャンネルだと思います。そんな真面目に取り組まれている真坂さんですので、今回お声がけさせていただきました。
本日はコラボにご協力をいただき、ありがとうございます。」
「こちらこそありがとうございます!」
大きく頭を下げる姿。
本当に人柄も良い。
だけれど、セリフィアが彼をコラボ相手に選んだ理由は『良い意味でポンコツ』なのが、ちょうど良いからだ。
彼の『まさかのダンジョンチャンネル』で配信されている動画は、どれを見ても『探索者としての力量が一般人』『素人が頑張っている』それが伝わってくる。
隣にいそうな素人。それが良いのだとセリフィアは言っていた。
そして、なによりも『嘘をつかなそう』。
この雰囲気が決め手。
チャンネル登録している3000人も、きっと彼の人柄に惹かれて登録しているのだろうと思わせる誠実さがある。
「真坂さんは現在D6免許保持者でしたよね?」
「はい! 免許だけは取得できそうでしたので取っています! でも今は7級ダンジョンの『潜伏ダンジョン』を中心に動画配信を行っています!」
ビシっと背筋を伸ばして答える姿。
その姿からして、もう真面目。
「7級の『潜伏ダンジョン』は私も入ったことがありますが……大分研究されているみたいですね。」
「はい! あそこはモンスターが潜んでいて危ないダンジョンですが、モンスターのコンクリーパーなんかは、よく見ると出現するポイントが、あまり変わらないので、記録のしがいがあります!」
「コンクリーパー……懐かしいですね。
休憩しやすそうな場所に潜んでいる印象のモンスターですね。」
あ~……崩壊都市みたいなダンジョンだったなぁ。
自分からダメージを食らってみる実験したっけな。
「はい! 今はコンクリーパーの行動予測配信をしてます!」
……うん。
需要が分からん。
配信の方向性が違う気がするが、きっと彼はそれが楽しいのだろう。
「さて、そんな真坂さんにコラボいただき、本日は何をするかというと……鉄層坑道ダンジョン攻略です。
そして、攻略は真坂さんに挑んでいただき、私たちは少し……『反則級の支援』をさせていただきます。
……『反則級の支援』お楽しみに。」
セリフィアが微笑んだまま、編集点を作るように静止した。
「はい、お疲れー。掴みとして『反則級の支援』って響き、めっちゃ良いんじゃない?
真坂さんもお疲れ様です。」
区切りの声をかけると、セリフィアは柔らかく微笑み、真坂君も大きく息を吐いた。
「はぁ……」
彼の緊張はまだ抜けていない。それも無理はない。
このあと彼は、人生で初となる5級ダンジョンに入るのだ。
普段7級に入っている探索者が、いきなり5級となれば緊張して当然だ。
今回入るのは『鉄層坑道』ダンジョン。
坑道という名前の通り、人工的に掘られた坑道のようなダンジョンで、魔石やレアメタルが採れることもある非常に有用な場所だ。
もうすでにダンジョンの入り口付近に来ているのだが、人気のあるダンジョンだけあって出入りする人も多い。
そのため、少し離れたところで撮影している。
「真坂さん、ご安心くださいね。
怪我ひとつしませんし、万が一怪我をしてしまっても問題なく回復しますので。」
セリフィアの声に真坂は恐縮したように頷く
「は、はい。すみません。頭では理解しているのですが……」
実は、彼は自身の動画撮影の際に怪我を負っており、その怪我をポーションで治したため、怪我から回復できることを体験している。
「まぁ、分かるよ。怖いものは怖いよね。うん。」
俺はまだ一般人視点が抜けていないので、その気持ちは理解できる。
だが今回のことは彼にとっても良い経験になるはずだ。
……悪い経験になる可能性もあるけど……まぁ、真坂君の性格なら大丈夫だろう。多分。
「いざという時は、私も手を貸そう。だからご安心なさいですわ。」
「は、はひっ!」
今日は人が多いダンジョンなので、撮影の邪魔が入らないように覇王院マッスル子にも『人避け』をお願いしている。
この覇王。
めっちゃくちゃ優しい覇王なのだ。
何をしても覇王が付くところがヤバイだけで。
覇王フォロー効果で真坂君が少し安心したような気もするので、結果オーライ。
ダンジョンの入り口に目をやると、ちょうど人もいない。
「今なら撮影できそうだね。パパっと入るダンジョンの説明シーンを取っちゃおう。」
撮影は順調、順調。




