第112話 魔女っ子のお星さま
「覇王院マッスル子さんでした。素晴らしい技の披露をありがとうございます。」
「お安い御用ですわ。」
「続きまして、ココナ・ルナリアさんに披露いただきます。」
セリフィアが覇王の偉業を、まるで当然のようにスルーして進行を続けると、画面外から、マッスル子とは真逆の存在が、ちょこちょこと遠慮がちに姿を現した。
「……あの……ココナです。がんばります……」
大きな三角帽子をかぶっているのに、身長は140cmにも満たなそう。
ふわふわの銀髪が帽子をずらし、自分より大きいかもしれない杖を抱えて、転びそうな足取りで歩いてくる。
「誰がどう見ても魔女っ子よね。ココナちゃーん。」
「わわわわわ!」
ルミナが抱きかかえに行くと、ココナは慌てながらもされるがまま。
「んー、ココナはかわいいのよねー。」
「本当にカワイイですわ……もう少し筋肉が付けばもっとカワイイですわ!」
「はわわ……」
覇王院が隣に立つと、身長差に驚いたココナがよろめく。
すかさずルミナと覇王院が支え、転ばないようにカバーした。
なんだか小動物な雰囲気で、少し場が和む。
「ご覧の通り、ココナさんはとっても可愛いんですよね……そんなココナさんの力を見せてもらいましょう。」
「はい、がんばります! ご主人様にちゃんと見てもらいます!」
きゅっと両手を握るが、そのせいで杖が変な動きをする。
ひとつひとつの動作が可愛らしい。
覇王が隣にいるせいで、余計に可愛らしさが際立っているのかもしれない。
「それでは、ココナさんの天体ショーをご覧いただきましょう。」
「あの、セリフィアさん。あっちの方でよかったですか?」
ココナが指を向けると、セリフィアが近づいて位置を調整する。
「もう少し、こちら側ですね……そうです。この方向です。」
「わかりました!」
指先をセリフィアがそっと動かして方向を定めると、ココナが元気よく返事をした。
「それじゃあ、ご主人様! 頑張りますね!」
ニコっとカメラに向けて微笑んだココナに、カメラが頷くように揺れた。
ココナはすぐに定められた方向へ向き直り、目を閉じて何かを呟き始める。
「――星の墓所よ、開けよ。
虚無の門よ、揺らぎ出でよ。」
ココナの声と共に、彼女の周囲だけ光がわずかに揺らぐ。
昼間なのに、彼女の足元だけ薄闇が落ちる。
「我が呼び声に応じ、
天より落ちよ、破滅の星。」
彼女の足元の薄闇が呼応するように蠢く。
だんだんと幼い声に、別人のように低く艶のある声が重なってゆく。
「すべてを断ち、
すべてを消し、
ただ灰のみを残せ。」
闇が濃くなり、ココナが杖と手を天に掲げる。
闇は天を貫くように伸び、周囲を夜のように染め上げた。
「星界の門よ、いま開け――星群墜落」
闇に染まった空から、星の光のような粒がちらちらと瞬き始め、そして隕石が降り始める。
「ワ、ワァ……」
あまりの光景に画面外から漏れ出た男の声が入っていた。
最初の一発が海面に触れた瞬間、ドォンッ!! と爆音が響き、巨大な水柱が立ち上がる。
覇王院の一撃にも匹敵する水柱。
だが終わりではない。
二発目、三発目、四発目――連続して隕石が海を叩きつける。
指し示された広範囲に
ドンッ! ドンッ! ドドドドドドッ!!
と、無数の隕石が落ち、クルーザーの揺れもどんどん大きくなってゆく。
カメラマンは手すりを掴み、必死に耐えている。
詠唱を終えたココナも揺れで転びそうになるが、
覇王院がしっかりと支えて守っていた。
セリフィアとルミナは揺れなど気にせず平然と拍手している。
カメラが少し転んだような映像の乱れを最後に、画面が切り替わる。
「はい。ココナさんの天体ショーでした。素晴らしかったですね。」
「……ご、ごめんなさい……ココナ……そんなにいっぱい落とすつもりじゃなかったですけど……えへっ、はりきっちゃいました。」
テヘっと言わんばかりの表情。
「うむ。良き技でしたわ。」
「それでは、今日はこれで。
また別の動画でお会いしましょう。」
セリフィアの深い笑顔で動画が終わる。
モニターを見ていた男たちは、ため息をついたり、眉間を揉んだり、一様に『やりきれない』といった雰囲気を漂わせていた。
「さて……これはフェイク動画などの類ではないという報告が出ている。」
「公表されていない事実として……この直後、潜水艦が一隻、沈んでいる。」
「見えない戦場などと言われているのにな……売りのステルス性はどこに行ったんだ? 無意味になってるじゃないか。」
「完全に捕捉され、そして海上から一撃で破壊できる。この動画の前半の意図は……そういうことだ。」
カラオケルームに重い沈黙が落ちた。
誰もが言葉を選びあぐねている。
「つまり、あの筋肉の一撃は……攻撃の届かないはずの海中であろうが関係ない。ということか?」
「この後、即時行われた日本側の調査で、少し離れた場所で潜水艦の残骸が発見されている。そして、この拳を撃っただろう場所の海底には、拳大の深い穴が開いていたそうだ。」
別の男が、机に置かれたタブレットを指で叩く。
そこには、海底で撮影された『拳大の穴』の画像が映っていた。
「海中を突き進み、潜水艦を貫通し、海底にも穴を開ける威力……ね。どれほどの破壊力が必要になるのか想像もできん。現実にあり得ない。」
「だが起きている。そして『即時』調査が行われたということは……そういうことなのだろう。海中の優位性などない。」
その内、一人が天を仰いだ。
「あぁ、もう分からん! 海上を走るだの、なんのギャグ漫画だ。これがクールジャパンだってか!」
そして諦めたように匙を投げた。
「さらに魔女っ子が流星群ときた! 隕石の飽和攻撃だ! 隕石だぞ! 隕石の迎撃なんぞ出来るはずないだろう! クソッタレが。イージス艦隊だろうが海の藻屑だ!」
その言葉に、もう一人も天を仰ぐ。
「しかも発動までに2分も必要ないときた……ここで見せたってことは、他の手が山ほどあるってことだろ? 普通の女の子が観光に来ました。どうぞ都市へのお土産の流星群です。そんなことも可能ってことだ……お手上げだよ。」
次々と男たちの気力が削がれ、脱落していく。
沈黙を破ったのは、最年長の男だった。
「この動画のメッセージは、警告なのが救いだな。
魅力的な発信をしていくが、裏口は許さん――そういう意思表示だ。」
最年長の男も深いため息をつく。
「まだ表がオープンな分。救われたと思っておくべきだな。
この動画を見て危険と認識しないヤツは――死んだ方が世の役に立つ。」
男たちは静かに頷くのだった。




