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第11話 実は……余裕ない!?

友人の田辺──通称ナベに連絡を取ると、翌日に時間を取ってもらえることになった。


翌日、仕事が終わってから喫茶店で落ち合う。

相談事に乗ってもらう礼として、会ってすぐに、奥さんと子供用に『みんなの町のお菓子屋さん』みたいな店の詰め合わせセットを手渡した。

価格は安め、味はそこそこ、見た目もそこそこ。大衆受けするやつだ。



お土産の効果は絶大で、ナベの態度は『金以外の相談なら、なんでも聞くで?』的な雰囲気になっている。


なので、俺は順に話す。


・洞窟ダンジョンで光の流入をくらったこと。

・身体的に問題は無かったこと。

・ダンジョンでソシャゲのキャラを召喚できたこと。

・イレギュラーモンスターも多分召喚してしまったこと。

・召喚キャラがイレギュラーモンスターをワンパンで倒す様子がネットに流れていること。


そして今、D6免許取得を目指して、会社を辞めようと思っている。

どう思うか意見を聞かせてほしい――そう相談してみた。


「ん~~…………」


ナベは目を閉じ、眉間に皺しかない顔で苦悶の声を漏らす。

俺はその姿を前に、温かいコーヒーを一口すすり、再度口を開く。


「まぁ。荒唐無稽な空想話だと思ってくれ。

俺も単純に他の人が俺の立場だったら、どう考えるか知りたいだけだから、適当に思いつくこと言ってくれて構わん。」


「嘘みたいな話だし、ほぼ嘘だろうなとも思うんだが……まぁ、お前がこんな嘘言うとも思えんから、本当に思ったまんま、俺がお前と同じ状況だと仮定してどうするか考えるぞ?」


「いいね。助かる。」


ナベは少し中空を見上げ、顎に手をあてて空想し始める。

しっかりと考えてくれているようなので、コーヒーを揺らしながら言葉が出るのを待つ。


「仕事を辞めて免許取る……とかしそうだけど、俺だったら、まず先に確認するわ。」

「確認? なんの?」

「色々。」

「ほう。例えば?」


俺の反応を見て、俺には無かった意見のようだと感じたのかナベが言葉を続ける。


「現状、確認ができてるのは対モンスターに対する力。攻撃だけだよな……それって情報足りなくね?」

「あ~……うん。確かに。」


「難関ダンジョンに入るってことは、罠とか地形とか、気候とか、色んなことに対応できないとダメって聞く。対モンスターは無敵だけど、罠には100%かかりますーとかだと最悪、死ぬぞ?」

「……完全にその通りだな。」


「だべ? 現状10級ダンジョンには入れるんだから検証もできる。そして人目の無いダンジョンに心当たりもあるだろ? じゃあ、そこで色々確認するかな! ってなるかな。」

「なるほどな~……納得しかできんわ。」


ナベの意見に完全に同意し、少し考えてみる。


罠への対応も当然必要だが、『確認』という言葉から、他に気になることも出てくる。


俺のやっているソシャゲは一応RPGだ。

キャラクターの他、武器、アイテムを集め敵を倒す。

その他、アイテムを購入したりガチャを回す為の『ゲーム内通貨』も課金用、無課金用の2種類あったりする。


こういった武器やアイテム、通貨なんかが召喚できたりしないだろうか?

そして、もし召喚できた場合、ダンジョンの外に持ち出せないだろうか?

持ち出しができたとすれば、それを売るだけで金策が成り立つ可能性まである。


「確認……大事だな。」


心からの声が漏れる。


「だろ? あと、召喚できるのが美女や美少女だとしたら……()()()()できるか……とかも確認したくならんでもない。」

「うむ……それは超大事な確認事項だな。」


過去一真面目な顔になるオジサン2人。

確認チェックリストの最重要項目が増えた。


「で、確認した結果で『難関ダンジョンだろうが余裕!』って思えたら、仕事は辞める……よりか長期休み取れないか相談。んで免許取って色々実践してみるって感じかな。」

「あぁ、長期休みって方法も考えられるのか……縁が遠すぎて選択肢に無かったわ。でも辞める前に相談してみる価値はあるわな。」


「上手くいけば辞める。上手くいかなかったら元の所で働く。ま、保険だわな。」

「やっぱり保険っているよなぁ……サンキュ。参考になったわ。」

「儲かったら奢れ。」

「あいよ。」


相談が一段落した空気に変わる。


「しかしワケが分からんな。ゲーム? が召喚できるってなによ? 今度見せて。」

「おう。俺もよく分かってないけど、実際に見るとマジでビビるぞ?」

「なにそれ、驚かすなよ……」

「可愛すぎてビビるんよ。ガチで。」


「……今からダンジョン行かね?」

「ええんやで?」


家族サービスが待っているナベが、これからダンジョンへ行く余裕など無いことは分かっているので、ただのじゃれ合いだ。

お互いに小さく笑う。


ナベが俺の相談が終わった雰囲気を察し、一仕事終えた感じで背もたれに身体を預け呟く。


「しかしソシャゲ召喚かぁ……サ終しないと良いな。」

「………………………あ。」


全く頭に無い言葉だった。


『サ終』――サービス終了。ソシャゲの行きつく先。

十分にあり得ることに気が付き背筋が寒くなる。


「……も、もう9年くらいやってるゲームだし! ま、まだ、大丈夫だろ!」


俺の態度を見て、ナベが悲しそうに遠い目をした。


「俺、最近11年やったソシャゲが終わったぞ……突然の発表過ぎて頭が理解を拒んだわ。」

「…………マジで?」

「マジで。」


諦め100%のナベの姿に、焦燥感に駆られ頭が真っ白になる。

俺のゲームがサ終なんてことになったら、俺の能力がまったくの無価値になってしまう!


「ナベっ! サ終させない為にはどうすべきだ!?」

「え? 課金じゃね?」


即答に納得はできる。


だが俺が求める答えはコレジャナイ!


「もっと、こう! アレだ! 永続させたい場合! ソシャゲをずっとやり続けたい場合、お前ならどうする!?」

「え~?? ……そんなんアレだろ……アレだ。え~っと……ゲーム自体買えばいいんじゃね?」


「あ、ソレだっ!」


頭の中で色々と考えが渦巻いてゆく。


企業がソシャゲを運営する目的は、金を得る事。

だから運営企業が内部で掲げる目標額を、ユーザーが課金して達成し続けている限りサービスは維持される。


俺の目的が『現状維持』であれば、俺のすべきことは『ゲームに多額を課金する』ということになる。

でも、これじゃあダメだ。

課金しても、サ終の可能性がゼロになるわけじゃない。

その他の要因、会社の倒産や運営方針の変更とか、社内事情で、突然のサ終が有りえてしまう。


俺は、サ終という事態だけは、絶対に、どうしても避けなくてはならない。


であれば――いっその事、運営側になってしまえば良いのだ。


プレイしているゲームの生殺与奪権をにぎる『運営』になる。

それが『ゲームを買う』なのか『コンテンツを買う』なのか、それとも『事業を買う』のか、はたまた『運営企業を買う』なのかは、まだ分からない。


分からないが、ただ一つ、はっきりと分かった。


俺は思っていた以上に金が必要。


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