第107話 マスターと一緒チャンネル
-- 第三者(一般人)視点 --
なんのことはない。
いつものように暇つぶしで動画サイトをスワイプしていると、妙に『綺麗すぎる』女の子たちのサムネに指が止まった。
「おはようございます、こんにちは、こんばんは。」
カメラに向かって挨拶する少女。
とんでもない美少女が実在していると分かった瞬間、気づけば指は再生を押していた。
煩わしい広告が終わると、動画が続きから始まる。
「さて、始まりました。今回は初めての動画となりますが、『マスターと一緒チャンネル』へようこそ。マスターの忠実な下僕。セリフィア・アークライトです。」
こちらに向けて優しく微笑む美少女に、胸が高鳴る。
「ふふ、『マスターの忠実な下僕』という点が気になっているようですが、それは置いておきましょう。今日は初投稿ですが、ゲストのルミナさん、カリーナさんと一緒にダンジョン攻略をしていこうと思います。」
画面が横にスライドし、黒ビキニの美少女と、赤いビキニにパレオを纏った美女が映る。
「……やば。」
あまりに美女と美少女。
フェイク動画かと疑いたくなるレベルだ。
だが見るのを止められない理由が増えた。
美少女はコスプレっぽいが、美女の方が情熱的な感じが似合うエゲツナイ谷間の持ち主だった。
こんなの見ない訳がない。
カメラの動きも、なんだか深い谷間に吸い寄せられているような気がする。
「はーい。客寄せルミナちゃんですよー。」
黒ビキニの美少女が両手を振り、カメラが彼女を中心に捉える。
「ご主人様の為なら、いつでも一肌脱いじゃうルミナちゃんですよー。」
「フフ。私も愛しのご主人さまの為なら、何枚でも脱ぐわよ。」
美女が腕を組み、谷間を寄せると、カメラの中心が美女に変わる。
良い仕事だ。そこが見たいと思っていたところだ。
「さて、本日はこちらのお二人に手伝っていただきながら、ダンジョン攻略をしていこうと思います。向かうのは『帰らずの森ダンジョン』。知らない方も多いでしょうから、概要を少しご説明しますね。」
?
美少女とビキニ美少女とビキニ美女が向かうダンジョンとして……似合わない単語が聞こえたがする。
恐らく聞き間違いだろう。
たぶん『快楽の檻ダンジョン』とか、そんな感じのことを言ったに違いない。
「まず『帰らずの森ダンジョン』とは、2級ダンジョンです。
未帰還者が多いため、入場が制限されているダンジョンです。その為、こういった探索動画で見たことがある人もいないダンジョンになるでしょう。楽しめると思いますので、是非ご期待くださいね。」
???
快楽の檻……じゃない?
2級?
うぇっ?
この人たち、2級ダンジョン入れる人たちなの?
情報を飲み込めないまま、画面が切り替わった。
真っ白。
いや、ぼんやりと人影が見える。
濃霧の中にいるようだ。
「さて、現在『帰らずの森ダンジョン』に入ったばかりなのですが……濃い霧のような物が漂っているせいで、撮影に支障が出ています。困りました。」
ここでピンと来た。
誰も知らないダンジョンなら、偽物でもバレない。
この人たちは2級に来ているフリをしているに違いない。
そりゃそうだ。
これだけ美少女や美女が探索者なんてするワケが無いんだ。
どこかで安心している自分が居た。
「というわけで今回は特別に、もうお一方お呼びしました。滲みなもさんです。」
「ふひ……ねぇ、水たち、集まって。『滲溺手』」
言葉のあと、濃霧がざわりと動き出し、どんどん薄くなっていく。
画面に、美少女とビキニ美少女、ビキニ美女。そして濃い森の中の様子が映り始める。
そしてカメラが動き、もう一人の姿を映す。
肩まで伸びた黒髪はしっとり濡れたように艶めき、その髪が目元を隠しているのに、口元や鼻筋、輪郭が驚くほど整っている。
化粧っ気もなさそうなのに、艶やかな唇は透明感があり、表情が見えないのが惜しい。
立ち姿は、どこか重そうな黒のワンピース。
猫背気味で、首を少し傾けながら覗き込むようにカメラを見ている。
だが、おかしいのはその横。
濁った水の塊が、彼女より大きな『手』の形になって佇んでいる。
「彼女が滲みなもさんです。水を使用した攻撃が得意なので彼女に、このあたり一帯の水をまとめていただきました。」
「……ふひ……ね、ねぇ。コレ、どうしよう? ど、どこかに、ぶ、ぶつけたいんだけど……」
『みなも』と呼ばれた目隠れの少女が、焦ったように眼鏡美少女の袖を引っ張った。
「そうですね……あそこの木がモンスターなので、あれにぶつけてください。」
「……わ、わ、わかった。ぬぇ。」
『ぬぇ』という変な掛け声とともに、大きな手の形の濁った水の塊が木にぶつかり、なぎ倒した。
「は?」
思わず声が漏れていた。
まるで魔法を使ったような。そんな映像。
「さぁ、みなもさん。とりあえずご挨拶を。」
「あ、あ……ふひ、ご、ご主人様に呼んでもらえて、う、嬉しい、です。ふひ。」
前髪の隙間から覗いた瞳は、確実に美少女のそれ。
完全に『目隠れ美少女』だ。
「ひ、ひひ……も、もう、離れませんからね。ご主人さまぁ……」
ねっとり、べっとりとした声。
あ、コイツ。やべぇヤツだ。
そう直感した瞬間、カメラもわずかに震えた気がした。




