第106話 ダンジョンの裏側を考える
セリフィアにしばらくの間は、詩乃が関係する人間に『スマホ無しでゲーム画面を呼び出すことが可能なこと』がバレないよう念を押されて、お説教は終わりとなった。
それにしても――超越魔力。
ダンジョンの力が使える。
これが俺の得た能力だったのか。
セリフィアの意見。その一つでしかない。
だけど、俺はセリフィアの言うことを疑ってないからな。
多分あってる。
そりゃ、こんな能力が持った上で天哭の塔からスキルを押し付けられたら、どんなイレギュラーが起きるか分からんし、真っ当じゃない出方を探すわな……
天哭の塔……なぁ。
どうしても、偽物の俺が消えた光景。
その印象が強すぎる。
セリフィアの『偽物のセリフィアが一緒だから大丈夫』って言葉が無かったら、多分まだへこんでただろうなぁ……
…………ん~。
「なぁセリフィア。」
「はい。マスター。」
レールから飛び出てきたシャドウゴーストを、虫を払う様に片手で消し飛ばしながら、セリフィアが返事をする。
俺の意識が変わったせいか、これまでダンジョンの中では自動的に表示されていたダメージ表示まで、オン・オフ可能になっている。
ダメージエフェクトが出てこないだけで視界がスッキリ綺麗だ。
「天哭の塔って、あの後どうなったんだろうね?」
「天哭の塔ですか……それは偽物のマスターたちのことでしょうか?
それとも、イレギュラーを起こしたダンジョン自体のことでしょうか?」
「どっちも気になるけど、今はダンジョンの方かな。」
あの偽者の俺、偽大輔……偽中村……偽村? と偽リフィアについては、もう当人たちが何とかしてるだろうって期待している。多分大丈夫。
「そうですね……私もその後の情報は集めていませんが、私見では、その内復活するだろうと思っています。」
「え? そうなの? なんでそう思うの?」
俺の中では、天哭の塔のことは詩乃が財閥の力を使って庇ってくれているイメージだった。
だから、どっちかというと『危険だけど有用なダンジョンを、俺がぶっ壊しかけてる』ってことを誰かになんか言われたら、どう言い訳しようかな? っていうところが気になってたんだよな。
復活するっていうのなら、それはもう、なんも気にしなくて良いって言われたようなもんだ。
「鷹司さんの話が大きいですね。ダンジョンが意思を持っているという話。」
「あー……ダンジョンが人類を鍛えてるとか、選別してるとか。そんな意思を持ってるって話をしてたね。」
「はい。あのお話の中で、海外でダンジョンが減ると日本でダンジョンが増えたり拡張されたりする。というお話がありましたよね。」
「うん。あったね。」
「つまり、ダンジョンというのは其々が別々に存在しながらも、全体を統轄管理する存在がいると思われます。ですので、今回のようなイレギュラー。それが、エネルギーが減った程度のことであれば、すぐにそういった存在により補填されるだろうと――あくまでも鷹司さんの話が事実であった場合ですが。」
……ちょっと。
ダンジョンの中で、なんか怖い話やめてや。
ダンジョン単体でも不思議存在なのに、そのダンジョンという存在の全部をまとめてる存在がいるってこと?
いや、ちょっとそれは流石に――
……おるんかなぁ?
セリフィアが言うと居そうな気がしてくるんだよなぁ……
「ま、まぁ。仮に、詩乃の言ってたことが事実だとするとさ……その存在は、いったい何のためにダンジョン増やしてるんだろうね?」
セリフィアが腕を組み、手を顎にあてて押し黙る。
真剣に考えている姿に、少し固唾を飲む。
「……やはり、鷹司さんと同意見になりますが『準備』でしょうか。」
「……準備、か。」
セリフィアが俺を見る。
「はい。まだ検討の幅が広すぎるので断定はできませんが……まず、ダンジョンが出現したことで、国による資源格差が無くなったという事でしたよね。」
「うん。」
「そして、人口に比例してダンジョンが出現したとも。」
「うん、言ってたと思う。」
「これは、世界中の『人類』に対して平等に機会を与えた――そう捉えることができます。」
「……うん。そう取れる気がする。」
エネルギーの在り方も変わって、国ごとの有利不利が薄れた。
どの国の人もダンジョンが稼ぐ場所や、人によっては避難所として逃げ込める場所になったりした。
それも機会と言えるのかもしれない。
「そしてダンジョンは、意図しない使用方法をされると消える。」
「……確か詩乃が『無礼を働くと消える』って言ってたのが印象に残ってるな。
政府主導でゴミ捨て場にしたとかなんとかだっけ?」
「ええ。あと無暗に破壊行為をしたりすると、モンスターを放出して跡形なく消える、と。さらに公表されていない鷹司さんのデータ上では、消えたあと日本で増える。もしくは既存のダンジョンが拡張されると仰ってました。」
確かに、そう言っていた。
「鷹司さんの話を踏まえると、ダンジョンは人類を『保護』したうえで『成長』を促している。そして人類の『選別』も行っている。そのような意思・意図があると思えます。
では、そうするのはなぜか。となりますが……何かに対しての備え。準備というのが自然かと。」
詩乃も『ダンジョンが人間を選び、育て、強くして、何かに備えている』という感じに言っていた。
あの時も結構ゾっとしたけど、セリフィアも同じ意見となると、無性に薄ら寒くなるな。
「今回マスターのお力でイレギュラーを起こした天哭の塔が、もし、早々に何不自由なく復活するようであれば……いえ、もう復活していたりするようであれば、超越魔力を操り全体を主導する『大きな存在』がいる可能性が高いのではないかと考えています。
もちろん超越魔力自体が、私たちの想像より強い力を持っているなども考えられますが。」
うーん。
やっぱり、なんかゾっとする話だ。
……だが、まぁ、こればっかりは考えて分かる事じゃない。
もっと多くの情報がないと、変に間違った考えを持ってしまうかもしれない。
とりあえず、ぼやっと『そういう可能性もある』そんな感じと思っておくくらいで良い。
気楽に。
うん。気楽に考えておこう。
なんか怖いからな。
どうせ考えても仕方がないんだから、そういう時ほど楽しい方に考えておこう。
「あ~、なんだ。もしかすると、ダンジョンも会社みたいなもんなのかもしれないな。
全体の方針は社長が決めて、それぞれのダンジョンは担当者に任せて好きなようにやらせてる。そんな感じかも。」
俺の雰囲気を変えようとした意図を汲んだセリフィアが微笑む。
「ふふ、マスター。それは結構いい線いっていると思いますよ。
ダンジョンが拡張する場合は、担当者が同じだと考えるとしっくりきますし。」
「ダンジョンによって性格とか方針が違い過ぎるからな。
決闘場ダンジョンと裏庭ダンジョンとか全然違うし、担当者が違うって考えると納得できる。」
「天哭の塔と洞窟ダンジョンなんかもまったく違いますものね。
天哭の塔なんかは担当者の厳しさや姿勢が大きく反映されてるように見えます。」
なんか、本当にしっくりくるな。この捉え方。
うん。悪い方向じゃない気がする。
手のかかる人類を『こっち、こっちだよ!』って動かそうと頑張ってる感じにも思えてきたわ。
そりゃ頑張ってるのにゴミ捨て場にされりゃあキレて見捨てたり仕返ししたりもするわな。
……なんかダンジョン。
意外と人間臭くね?
だとすれば、この廃線トンネルの担当者……
もしかすると、頑張って人類育てようとして考えたのに『やだこわーい』って人が全然来なくて悲しんでるかもしれない。
あ。
なんかちょっと可哀そうな気がしてきた。
「……あ~……ダンジョンさんや。色々頑張ってくれて、ありがとうね。」
なんとなく壁を撫でるのだった。
もちろん、特に反応はなかった。




