第105話 なんか話がデカくない?
当然レベルはマックスなヨウコ。
ミニスカニンジャ美少女。
なんだか眠そうな雰囲気が漂いまくっているが、やはり美少女である。
「……おはようヨウコ。」
「はい~……」
声をかけてみたけど……うーん?
まだ船をこいでそうな感じ。片目しか開いてない。完全にまだ『寝てる子』のそれ。
ただ、それがカワイイ感じになっているのが、なんというか流石である。
「ヨウコさんの特技は半球睡眠ですから。」
「ゆにへ……みすふぇ?」
いや、聞き慣れないカタカナは分からんて。
「忍術~『影睡眠』です~……イルカさんと一緒のアレです~……」
「あ~……なるほど~……」
なんとなく口調がうつってくる。
イルカと一緒。ということは、脳が半分ずつ寝るというヤツだろうか。
『寝る娘キャラ』というのは、よくあるキャラ設定だものな。
「いつも寝ていますが、いつも起きている。そして影にひそめますからヨウコはマスターの護衛に最適です。」
「護衛です~? おまかせ~……」
ヨウコはそう呟きながら、水の中に入るように沈んでいく。
俺の影の中に。
「おぉおぉ……」
現実離れした光景に思わず凝視してしまう。
「おやすみなさい~……」
そう一言残し、完全に俺の影に沈んでしまったヨウコ。
いや、寝るんかい。
「これで、護衛という防衛が整いました。
さて、マスター。次の段階として――
『マスターの訓練』
『国家レベルでの後ろ盾の確保』
『敵勢力の先制排除』
この三点の検討を提案します。」
「お、おふ……」
「私としては……そうですね。
『マスターの訓練』の一環として『敵勢力の先制排除』を行いながら、同時に『国家レベルでの後ろ盾の確保』を進めたいところですね。」
ニッコリと微笑んだセリフィアは穏やか。でも頼もしい。
「もちろん、マスターのご意向が一番ですので、ご安心を。」
「ぐ、具体的に、それはいったい、なにをさせられるの……?」
思わず情けない声が出た。
だって、今のセリフィア、ちょっと普通に怖いこと言ってる気がするんだもの。
国家レベルとかって、そんな発想、普通出るか?
自分が、そんなレベルの存在ということは、なんとなく理解してきたけど、まだ、そこにすぐ繋がらないんだよな……
セリフィアは、そんな俺の不安を読んだように、いつもの落ち着いた声で説明を始める。
「といっても、マスターに動いていただく必要はありません。
私たちが動きますので、マスターは『そこにいるだけ』で十分です。」
「……そこにいるだけ?」
「はい。その内にマスターの存在そのものが『抑止力』になりますから。」
サラッととんでもないこと言うな、この子は。
俺が抑止力ってか。大規模破壊兵器かなにかかワシゃ。
「具体的な行動としては、また、マスターの力を適度に見せる場を作るだけです。」
「……それだけ?」
「はい。それだけです。」
「『適度』に見せる……?」
「ええ。全力を見せてはいけません。見せたら世界が混乱しますから。」
そんな存在なんかい俺は……
「見せてよい力を、正確にコントロールすること。
これがマスターの訓練の内容ですね。」
「……なんか……ちょっと掴みどころがない気がするな。」
「これまでに見せた能力以外を、誰にも見せない訓練。と言えば分かりやすいでしょうか?」
「あ~? ……スマホが無くても起動できるようになったとか?」
「そうです。誰かの目があるところでは、これまで通りに行動する。
そして私たちだけの時に、どこまでできるかを把握していく。それが訓練になります。」
「訓練が、結構簡単そうで助かった。」
俺の言葉にセリフィアがクスクスと笑う。
「マスターは、ただでさえ強すぎる存在でした。ですが、超越魔力への理解を深めて、さらに人間を超えたレベルの存在になっていますからね。
見せてよい力を、正確にコントロールすることが大事な訓練になるのですよ。」
人間を超えた……ね。
まぁ、ダンジョンと同じような力を使える時点で、人間を超えてるのは納得か……俺自身は特に変わってないのになぁ。
いったん考えを脇に置き、セリフィアの言った『俺の力を適度に見せる場を作るだけ』という案を掘り下げてみる。
俺の力を適度に見せることが『敵勢力の先制排除』と『国家レベルでの後ろ盾の確保』に繋がる。そう彼女は考えている。
国家レベルの後ろ盾の確保。
まぁ、これは分かる気がする。
これまでも動画を出しただけで財閥の後ろ盾が手に入りそうになってるんだものな。
その1段上からお呼びがかかると思えば、可能性も有りそうだし想像もしやすい。
だが『敵勢力の先制排除』になるのだろうか?
……やっぱ、よく分からんな。
分からんことは、分かる人に聞くに限る。
百聞は一見にしかずってな。
「敵勢力の先制排除が、よく分からないかも」
俺の言ったことに、セリフィアが小さく首を傾げた。
その仕草は可愛いのに、なんだか次に出てくる言葉は可愛くない予感がする。
「先制排除といっても、物騒な意味ではありませんよ?」
いや、セリフィアが言うと逆に怖いんだが。
「『敵が動けない状況を作る』という意味です。
戦う必要はありません。敵が『動く前に止まるように仕向ける』だけです。」
「……仕向ける?」
「はい。例えば――」
セリフィアは指を一本立てた。
「マスターの力を『適度に』見せることで、敵対国が『手を出すと危険』と理解するようにします。これだけで、ほとんどの国は動けなくなります」
「……それって適度なの? 脅威に感じるよう脅すってことでしょ?」
「抑止力です。具体的に想像できるようにするだけですよ? 世界中で行われていることですから脅しとは違いますよ?」
いや、うんまぁ。
言い方が違うだけだけどね。
セリフィアは続けて、二本目の指を立てる。
「もし直接的な動きがあった場合は、ヨウコさんと私で常時監視しますので、行動を確認した時点で敵が動けないようにして『こちらが把握している』と分かるよう情報を流します。」
「……完全にスパイ映画のやつじゃん。」
「映画より効率的にできますよ?」
サラッと怖いこと言うな、この子は。
ただ頼もしいけど。
三本目の指が立つ。
「敵が動く前に、味方となる国家を複数確保します。
『マスターを狙う=世界を敵に回す』という構図を作るのです。」
「……世界を敵に回すって、そんな大げさな……」
「大げさではありませんよ? マスターは『世界にとって利益になる存在』ですから。」
セリフィアは穏やかに微笑んだ。
その笑顔は優しい。
ただ言っている内容が世界規模。
「つまり、敵勢力の先制排除とは『敵が動く前に、動けない状況を作る』ということです。」
「……なんか、すごい悪だくみをしてるみたいな気がしてきたんだけど。」
「逆ですマスター。けして悪だくみではありません。世界にとって役に立つ、とても良い事を考えているのです。」
即答で迷いが一切ない。
「マスターはただ、私たちのそばにいてくださればいいのです。
あとは私たちが、世界を『マスターにとって安全な形』に整えますから。」
その言葉は、優しい。
でも、どこか背筋が冷える重みがある気がした。




